第四幕 陰キャな僕と天使な彼女

第76話 陰キャの姉の報告と天使の覚悟



「ぷぅ…………」



 どうも、昨日中学時代の暗い話をしたあと風花さんに付き合って下さいと告白した阿久津来人です。なんとオッケーを貰えて恋人同士になることが出来ました。


 ………………………………えマジで?



「えマジで風花さんと恋人同士になれたの僕。これって夢? これ僕にとって都合の良い夢なの?」



 夕食後、ベッドの上で仰向けになりながらぼんやりと白い照明を見ながら昨日の出来事を思い返す僕。ゆっくりと指で唇に触れると、昨日のあの柔らかい感触が蘇った。


 そう、チュー、口づけ、ベーゼ……。様々な呼び名がある好きな人同士が行なうその行為の世間一般的な名称それはキスそう! ……キッス(低音ボイス)なのだよ(変なテンション!)。


 まさに照明みて恋人証明。勝利した事実すでに承知。お後がよろしいようで、イエァ☆ ……いやなんでラップになってんだYO! この下手くそ野郎め!!


 告白した以外にも回想中いろいろ気が付いたことがあるといっても昨日から動揺し過ぎだろ落ち着けよ僕ひっひっふー(いやそれ違う)!!



「ぬぉぉぉぉぉっ、っていうかこの部屋で、キキキキスぅしちゃったんだよな……!? えどうしよ、ちゃんと思い返してみればいきなりキスしちゃったのは段階とばしすぎだったんじゃなかったのかなぁ……!? ……はっ、感情が高ぶったとはいえ、これじゃ僕がまるで感情を抑えきれない猿みたいじゃん!? あぁどうしよ風花さん僕のこと嫌ってないか心配になってきたぞぅ!? え、でもちゃんとオッケーの返事貰えたしそのあともう一度確認したら可愛い声で「よ、よろしくねぇ?」って言ってくれたんだよな! うわぁ、うわぁ……! だいたいあんな天使みたいな可愛い子が僕のかの、かの……ッ!」

「おい来人ー、電子辞書貸してくれ」

「カノッサの屈辱っ!!」

「……いきなり何ワケの分からないこと言ってんだ?」



 僕がベッドの上にエビ反りしながら悶えていると首にタオルを掛けた姉がいきなり僕の部屋に入ってきた。風呂上がりだからか、髪をお団子状態にして顔を赤く上気させている。


 はい、絶賛怪訝な顔してますね!

 

 いやだから! ノックしてと! 言ってるでしょーがっ!!



「……御姉様、出来ればノックして入って頂けると私めはとても嬉しいのですが」

「知らないのか? 姉は弟に関して何をしても許される治外法権を持ってるんだ」

「速攻動物園に帰って下さ―――」

「あ?」

「調子に乗ってすみませんでしたはい」

「ふざけてないでさっさと貸しなさい」



 片手をアイアンクローの形にした姉が跳び掛かろうとしてきたので速攻土下座スタイルで謝らせていただきました。はい。すんません。

 まず先に発情猿であるこの僕が動物園に行くべきでした……。


 僕はおずおずとベッドから降りると、机に置いてある電子辞書を姉に手渡す。そのままベッドの上にハウスしようとしたけど、まだ姉がじっと見ている事に気が付いた。



「ん、どうしたのねーちゃん」

「いや、なんか昨日から吹っ切れたような顔してるなって思って」

「そう……なのかな」


 

 自分じゃ自覚無いけど僕って吹っ切れてる顔してるの? でも……うん、そうだね。心が軽くて、風通しが良くなった感じがする。


 今まで心の奥底に蓋をしてた真っ黒な泥が全部なくなって、あったかい陽射しが僕という全部を照らしてくれているみたい。


 これもすべて―――。



「だとしたら……風花さんのおかげだと、思う。彼女は、ずっと僕の側にいてくれたから。僕のことを、受け入れてくれたから」

「…………そっか」

「ああいや! ねーちゃんもその……。いっつも僕のこと、気に掛けててくれたよね。僕が孤独に感じないように、ずっと……ずっと」

「…………!」

「だから……、ありがとう」



 僕は姉の顔をじっと見つめて感謝を伝える。


 ……もうっ、ホントなら気恥ずかしいから言わない筈だったのに流れで言っちゃったじゃん! これもすべて姉が少し嬉しそうな、でも凄く寂しそうな複雑な表情を浮かべているのが悪い!!


 すると姉は僕の言葉を受け入れたかのように柔らかい笑みを浮かべながら肩の力を抜く。それはどこか、僕という心配事から肩の荷を下ろしたようにも見えた。


 そのまま姉は口を開く。



「―――それじゃあ、もう平気だな」

「え?」

「お前には今まで余計なことは言いたくなかったから言わなかったけど……私、来年から一人暮らしを始めるつもりなんだ」

「うっそ……!」

「嘘じゃねぇよ。県外の大学に進学するつもりだし、父さんと母さんにはもう前から言ってる。まだ合格するかは分からないけど……ま、模擬では私立大学でA~B判定貰ってるからたぶん大丈夫だろ」



 いや頑張ってるねーちゃんなら合格出来るだろうから問題ないと思うけど、まさか家を出て行くつもりだったのは衝撃的……! 


 え、ねーちゃんこの家から居なくなるの? なんか色んな思い出があり過ぎて寂しいんだけど……! でも、純粋に応援したいし……! うーん、うーん……!



「そっ、か……そうなんだ」

「ちょっと、そんな捨てられた犬みたいな顔するんじゃねーよ。県外つってもこっからあまり離れてないしいつでも家に帰れる距離だぞ?」



 そう話しながら頭を撫でながらぽんぽんと手を置くねーちゃん。……むぅ。



「……別に、そんな顔してないし」

いきがんなよ」



 頭から手をどかすと、また別の手で今度はわしゃわしゃされた。しばらくそのままでいると、満足気に息を吐いたねーちゃんはゆっくりと手を離した。



「まぁ……それだけ。それじゃ、頑張れよ」

「う、うん……ねーちゃんもね」

「あぁ」



 そのまま電子辞書を持って出て行くねーちゃん……かと思ったら、扉の前で声をあげながら僕に振り返った。

 その表情はどこかからかいの色の含まれていた。



「あ、そうそう来人」

「ん、どしたの?」

「―――まだ『天使』の匂いが残ってるから、隠したいのなら換気しとけよ」

「んなっ!?」

「それじゃ」



 ぱたん、と音を立てて姉はそのまま行ってしまった。固まったまま呆然とする僕。だけど今の僕には一つの疑問だけが頭の中をぐるぐると回っていた。



「な、なんでねーちゃんが風花さんの匂いとか知ってるの……!?」



 て、ていうかねーちゃん、風花さんを家に、僕の部屋へ上がって貰ったことまで察してたってこと!?


 ヤダ怖い恥ずかしい……ッ、と僕はベッドにダイブして顔を手で覆い隠しながらごろごろ悶えていたけど、枕元に置いてあったスマホからピロンッ♪という軽快な音が鳴った。


 この可愛らしいアイコン、それは風花さんのものだった。



「え、ふ、風花さん……!? うわぁ、ま、まだ心の準備が出来てないけどなんなのかな?」



 さっきの姉からの用件と彼女となった風花さんからの初めてのメッセージ。脳内で2Dなちっちゃい僕が情報を処理しきれずてんやわんやしながら、気持ちの整理がつかぬままSNSを開いた。


 そこには―――、



『明日一緒にお出掛けした後、私のお家でケーキ食べよぉ♪(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾』



 マ ジ で す か!?







「お、送っちゃったぁ……!」



 お風呂上り、私はあったかい白のもこもこのパジャマ姿でベッドの上でぼーっとしていた。

 あ、因みに今着ているパジャマは、この前りっちゃんと一緒に買い物に行って買った羊さんを可愛くデフォルメした着ぐるみパジャマだよぉ。

 ちょうどさっき、寝そべりながら来人くんに覚悟をして・・・・・メッセージを送ったばっかり。


 ふぇー…………。



「キス、しちゃったんだよねぇ……っ」



 男の人の唇はちょっと硬いというけれど。普通に、柔らかくて……。いつも以上に来人くんの匂いと存在がおっきくて……。すっごく、これ以上ないくらいときめいちゃったぁ……。



 ………………。


 あわぁ、あわわわわわわわわわぁぁっっ!!!!


 キスぅ! キスしちゃったんだよねぇ(ベッドの上でバンバン叩きながら)!!?? やばいぃ、やばいよ私ぃ……!! 絶対今来人くんには見せられない蕩けた顔してると思う絶対ぃ! 思い出すだけでキュンキュンしちゃってるんだもん……! だって、だってぇ……、あんな、強引なキスぅ……!


 いきなり付き合って下さいって言われたから動揺して声が震えちゃったけどぉ……。私と、来人くんは……恋人同士…………。来人くんが、彼氏……。


 えへへぇ……、うれしいぃ……♡


 すぅー、はぁー。……よしぃ!



「来人くんも、勇気を出してくれたんだもんねぇ。私もぉ、明日……」



 ―――すべてを、話そう。



 私は決意を胸に秘め、集合場所をどこにするのか来人くんと相談するべく再びスマホに向き合った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る