第75話 天使の体温
すべてを語り終えた僕は目を閉じてゆっくりと息を吐く。目を開けると、風花さんは表情が見えないまま俯いていた。
今の僕のこの気持ちは、不安……なのかな。きっと、初めて家族以外に自分の弱さを曝け出したからだと思う。中学時代の話を風花さんにしてホッとする僕もいるけど、同時に恐ろしいと思う僕もいる。
中学のときは僕にも至らなかった部分もあるし、もし風花さんにその部分を非難・糾弾されたらと思うとつらい。
でも、それを覚悟の上で話したんだ……! 風花さんに話したことは後悔してない。これは僕のワガママなのだから。
……だけどやっぱり、風花さんはこんな暗い話反応に困っちゃうよね。
「……そのあと、上位グループはどうなったのぉ?」
「……一切会話はなかったよ。中学を卒業してからどうなったのか、僕も分からない。……でも、これが僕の中学時代のすべてだよ」
「……そ、………んだ……」
「え……?」
「そう、だったんだぁ……っ、そういうことだったんだねぇ……っ!」
風花さんの目尻にじわりと光るモノが見えたと思ったら、ぽろぽろと涙をこぼした。ちょ……っ、まっ、泣かないで!? いくら風花さんが優しくて感受性の高い子だとしても、キミの涙はこんな僕なんかの話で流すべきじゃないよ……!?
突然の涙にあわあわしちゃう僕だけど、風花さんはそんな僕の様子に構わず言葉を続けた。
「ひぐぅっ、悲しかったよね……っ、つらかったよねぇ……!
「ふ、風花さん、泣かないで……? キミが謝る必要なんてない。風花さんは僕の事情なんて知らないのに、いつも側にいて、何度も何度も僕を励ましてくれたじゃないか……っ!」
「――――――っ」
「僕は風花さんの笑顔で心から笑えた。風花さんの言葉で勇気が湧いた。風花さんの存在がいつも僕の心を支えてくれていた……! 嬉しくて、温かくて……風花さんの全部が心地良くて! 風花さんは知らないだろうけどっ、僕はキミに……っ、―――キミに、
僕は目の前の涙を流す風花さんにつられて思わず泣いちゃう。……あぁもう、こんなのマジで子供っぽい。
今更だけど、風花さんにこんな情けない姿を見せたくなくて僕は急いで立ちあがった。何故か目を見開いて固まっている風花さんなんて今は気にしない!
「あ、あーそうだ! ちょうど買い置きしてた粉末タイプのキャラメルココアがあったんだった! ごめんね風花さん、寒いのに冷たいジュースなんて出してて気が利かないね僕! ち、ちょっと待ってて! 急いで持ってき―――!」
「うにゅ…………っ!」
「ふ、風花さん……!!?? どどどどうして、どうして抱き着いていらっしゃるんでしょうか……!!?」
!!!!!!!!!????????????
えちょっと待って状況を整理しよう、今僕は立ち上がって風花さんにココアを持ってこようと部屋の扉へ行こうとしたら後ろからあったかい感触があってお腹に両手が回されていて……!?
抱 き し め ら れ て る。
あっ、なんか意識したらやばい。この柔らかい感触ってもしかして風花さんの控えめなおっ……むむ胸? あと風花さんのほっぺが背中にぐりぐり押し付けられてる? あとよくよく考えたらこの部屋に二人っきりってのもまずくない? 後ろから抱きしめられてるからか風花さんの匂いもダイレクトに感じられるし……あっ、そもそも二人っきりでしばらくこの部屋にいたんだからこの部屋に風花さんの良い匂いが充満しててもおかしくはないのかそっかそっかってああああああなんか思考が変態的なヤツになってきてるどうしよどうしよどうしよう!?!?!?
「い、いきなりどうし……」
「―――ありがとう……っ! ありがとうありがとうありがとぉ……っ!!」
「それは僕の
「嫌だぁ! もう絶対離さなぁい!!」
「えぇ、それは大げさじゃないかな……?」
どこか強い口調で風花さんは僕の言葉を遮る。未だ風花さんは立ったままの僕の背中に抱き着いていて、顔は視えないけどちょっとくすぐったい。
……でも、なんだかんだ言って安心出来るこのぬくもりが心地良い。
「来人くん」
「ん、どうしたの?」
「未来の―――これからの話をしよぉ」
「これから……?」
風花さんの唐突な言葉に疑問符を浮かべる僕だったけど、すぐにその意味を思い出す。
「あ、あぁ、もしかしてさっきの話に出てきた季節系のイベントのこと?」
「それもある……けどぉ、もっと大切なことぉ」
「……?」
「―――まずねぇ、いっぱい楽しむのぉ」
「たの、しむ……」
僕は風花さんの"楽しむ"という言葉をぽつりと呟く。彼女はそのまま言葉を続けた。
「明日から冬休みでしょぉ? クリスマスには私と一緒にケーキを食べたり、お正月に一緒に初詣に行ったりするのぉ。……あ、春になったら桜の木を見つつ他愛のない話をしながらお団子を食べてお花見するのも良いねぇ。夏には海にも行きたぁい」
「――――――」
「お友達もたくさん作ろぉ。……ううん、たくさんじゃなくても良い。来人くんが本音を言っても心の底から笑い合える本当のお友達が良いねぇ。来年からは二年生だしぃ、来人くんは頭も良くてカッコ良くてとっても優しいんだからぁ、きっと頼れるお友達もできるよぉ」
「風花、さん……っ」
「喧嘩もしよぉ。もしモヤモヤしたり嫌な気持ちになったらぁ、誤魔化そうとしないで吐き出すのぉ。後悔しないようにちゃんと相手に向き合って、
「…………っ!」
「全部が都合よくラノベみたいに上手くいかないかもしれない。それでも―――」
風花さんの抱きしめる力が少しだけ強くなる。いつの間にか僕を包む風花さんの両手の甲の上に僕の手が重なっていたことに気付くけど、その小さくも大きなぬくもりを離す気にはなれなかった。
―――涙が、止まらない。
一拍の間を置くと風花さんは慈しむように、優しげに言葉を紡いだ。
「笑顔の数だけ、強くなれるって信じてるから―――!」
「――――――っ!!」
それは、僕のこれまでの人生の中でも一番に希望に満ち溢れた言葉。僕のとても大切な人がくれた暖かい言葉だった。
……あぁ。風花さんの顔は見えないけど、きっと見るだけで安心出来るような優しい表情を浮かべているのかな。風花さんへの僕の想いが、心が溢れそうになる。
そしてそれは、どうしても抑えられる気がしなかった。
「……風花さん。手、
「ダ、ダメぇ……! 見ちゃダメぇ……! 私いま、来人くんに見せられないような顔してるよぉ……?」
「こちょこちょこちょー」
「あひゃぁ……!!??」
「捕まえたっ」
僕が風花さんの手の甲をくすぐると彼女は一際高い声を出す。力が緩んだ瞬間、僕は両手首を掴みながら風花さんの顔を見つめた。泣いたからか少しだけ腫れぼったい目をしていて、僕に見られて恥ずかしいのか口をすぼめて顔を真っ赤に染めている。
……やっぱり可愛い。
「うぅ……っ、恥ずかしぃ……っ! なんだか来人くん少しだけ強引だよぉ……っ!」
「風花さん、ごめん。先に謝っておくね」
「ぇ、どうして急に謝ってぇ……ちょっ、ふぇぇ!? 顔がちかっ―――んむぅっ!?」
吐息が掛かる位置まで顔を近づけると―――僕は風花さんの唇にキスをした。
彼女の唇の感触はとても柔らかく、あたたかい。初めてのキスはレモンの味というけれど、僕の初めてはリンゴジュースの味がした。
肝心の超至近距離で見つめる風花さんは目を見開きながら固まっている。……ごめんね。自分勝手っていうのは分かってる。でも、僕のこの溢れる気持ちはどうしても抑えられなかった。
この時間がとても心地良い。風花さんがとても愛おしい。この迸る気持ちを口づけを通して感じて欲しい。
そうして僕は風花さんに口づけして数秒後、ゆっくりと唇を離した。けれども、瞳は決して離さない。
今なら……ううん、今だからこそ僕のこの気持ちを風花さんに伝えたい。
「風花さん、好きです。付き合って下さい」
「こっ、こちらこしょ……っ! よろしくおねがいしましゅ……っ!」
風花さんは顔を真っ赤にして動揺しながらも、僕の目をしっかりと見つめて言葉を紡ぐ。
そうして、僕と風花さんは恋人同士になった。
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さぁついにここまでやってきました。来人くんと風花ちゃんがようやく結ばれましたやったー!
私は少し疲れたのでしばらく更新休みます……。
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