回想⑤ ~図書室と図書館~
◇
その日の出来事があって以降、僕はアニメやライトノベルのようなイラストが描いてあるキーホルダーを中学校に付けて行くのはやめたよ。
影響力のある上位グループの中心の光輝や紅羽さんがそのことを気に入らないんだったら、いくら僕がそれを好きでも我慢するしかない。
後で勲や結衣さんから聞いた話だと、明るい二人にとってはそういう如何にも根暗な人が好きそうな物は"気持ち悪い"と思っている部分があるらしかった。……そんな様子、一度も見なかったから気が付かなかったなぁ。
最初は二人ともそんなことは無かったのに。
……ははっ、確かに偏見だよね。明るい人でもラノベやアニメ好きやたくさんいるのにね。……まぁしょうがないのかな。中学生の頃って、どうしても"自分と同調できない人間を仲間外れにする"傾向があるから。
たぶん、中学校の生活を送る内に自分の価値観が変わっちゃったのかな。決して、全部が全部良いように変わるわけじゃないからね。それとも、ただ単に僕が見抜けなかっただけなのかな?
……話を戻すね。
『さて、遂にこの時が来た……!』
中学二年の夏休みにライトノベルに夢中になった僕は、二学期が始まったら何が何でも確認したいことがあったんだ。
それは、中学校の図書室にはライトノベルがあるのか!
図書館には今まで用事が無くて行かなかったから恥ずかしながら分からなかったんだよ……。書店にはいろんなジャンルの本があったけど、果たして勉学を学ぶ場所である中学校にライトノベルっていう勉強に関係ない本が置いてあるのかなって疑問に思ったんだよねぇ。
でも結局なかったんだ。自分で探してもないし、図書室の先生に訊いてみても置いてないって話だったからとぼとぼ図書室を出ようとしたんだけど……。
ちょうど、小説を読んでいる一人の女の子の姿が目に入ったんだ。
『結衣、さん……?』
『ひぇ…………ッ!』
さらさらとした綺麗な黒髪のその子は、僕の姿を視界に入れるやすぐに走り去っていってしまったよ。髪色は違うけど、結衣さんに似ている彼女に心当たりがあったからそのことを結衣さんに伝えると、案の定僕の考えていたことと一致していた。
『あー、それたぶん私の双子の妹……
『へぇー、今宵さんっていう名前なんだ……。あれ、前に不登校気味だって話してたような気がするけど……たまに学校に来てるの?』
『うん。なんかね、中学校の雰囲気が自分には合わないみたい。ほとんど自分の部屋にいて閉じ籠ってるけど……でも、テストの日にはちゃんと学校に来て良い点数を取ってるから成績には問題ないみたいだよ』
『そうなんだ……でも、結衣さんにとって心配なの?』
『……うん、あの子の将来、大丈夫かなぁって。はぁ、小学校までは性格も明るかったんだけどなぁ……。今はもうすっかりらいくんも好きなライトノベルに夢中になってるよ』
『あ、そうだったんだ!?』
どうやら結衣さんの妹さんもライトノベルに嵌ってたみたいでね。もしそこで彼女と言葉を交わしてたら、ラノベ友達になってたかも。
まぁいまさら言ってもしょうがないんだけど……。って風花さんまた笑顔でジト目!? ……話に出てくる女性が多い? うーん、そういえばそうかも。でもきっと偶然だよ、偶然。
あ、それで数日たったある日、紅羽さんと二人きりになる機会があったんだよね。入学してから彼女と二人っきりの場面なんてなかったから、僕が平然とした表情をしてても少しだけ緊張したのを覚えているよ。
あのときは確か……みんな部活が休みで、放課後の誰もいない教室の中で他の三人がトイレに行っているときだったな……。
彼女は僕を見ずに、爪にマニキュアを塗りながら話し掛けてきたんだ。
『ねぇ来人』
『ん、どうしたの紅羽さん?』
『アンタってさ、結衣のこと好き?』
『え。……うーん、結衣さんや光輝の言う通り"親友"だと思ってるけど』
『ま、どっちでもいいけど』
じゃあなんでそんなこと聞いてきたんだって思ったら、次の瞬間、思いがけない言葉が彼女の口から飛び出したんだよね。
『ウチ、アイツのこと大っ嫌いなんだよねー』
『……え? でも、あんなに仲良さげに話して……』
『あんなのにウソに決まってるじゃん。しょうがないからひょうめんじょー仲の良いフリしてるだけだし』
『どうして……』
『
あの時はホント焦ったよ。派閥の勢力を広げつつあった、女子から多大な信頼を寄せられている紅羽さんからの結衣さんへの悪口と光輝への好意が伺える言葉。
光輝のことはともかく、結衣さんが相談内容をどう適切に返答するか、その努力や苦悩を知ってる僕としては、そんなことないよってすぐに否定したかった。
でも僕は変にグループを乱したくなくて……ううん。今だからわかるけど、次に自分へその矛先が来るのが怖くて、傷つきたくなくて言葉を取り繕ったんだ。
つまるところ、僕は逃げたんだ。
『あー、ま、まぁ、それだけ結衣さんたちが他のみんなに信用されてるってことじゃないかな?』
『………………』
『でも、どうしてそんなことを僕に言ったの?』
『―――
紅羽さんのその言葉にどきりとした僕はその続きを訊こうとしたけど、そのタイミングで光輝たちがトイレから戻ってきたのでその本当の意味を訊けなかった。
今思えば、紅羽さんは僕の本質を見抜いていたんだと思う。だから、自分の感情を打ち明けたんだ。
"空気を読んで生きている"僕に。
………………。
そしてその数日後、図書室にラノベが無かったから、今度は休日の土日を使って図書館に行ってみることにしたんだ。うん、そう。この前風花さんと一緒にテスト勉強する為に利用した図書館、『まなびホール』だね。
まぁそこもやっぱりラノベが置いてなかったから、もしなかったとき用に持参していたシリーズ物の未読だったラノベを休憩スペースで読んだんだ。
まぁまぁ距離があるしバスに乗ってまで来たんだから、ただ帰るんじゃもったいないって思ってね。
そのときに、
『………ミレア、やはり美しいわ』
『へぁ!? あ、あの……?』
『………それ、もしかしてラノベの『
『あ、そうですけど……知ってるんですか?』
『………もちろんよ。なにせ私が愛読するラノベ百選に選ばれているほどよ』
『メチャクチャ読んでる!? ち、因みに好きなシーンは……?』
『………ヒロインのクレアの愛刀が折れて力が発揮できなくなっても、諦めずに親の仇である魔龍に立ち向かって真の力が開放、彼女のこれまでの努力がようやく実る所ね』
『……ッ!』
『………ッ!』
好みが一致した時、もうそれ以上の言葉は要らなかったね。思わず固く握手しちゃったくらいだよ。……え、そこは簡単で良いからはやく上位グループの話を聞かせて?
あぁわかったよ風花さん。簡単にまとめると、僕と文音さんとは良く話す仲になって、僕は図書館に通うになりました。はい。
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