第69話 天使と夢とわたあめ
僕の隣をゆったりと歩く風花さんは、そのまま口を開いた。
「でもそっかぁ……ないなら、ゆっくり考えていくしかないよねぇ」
「えー、それでいいのかな……? 僕、風花さんに訊かれてちょっと焦ってきたんだけど……!?」
風花さんはにへらっと唇を曲げながらそう言うも、僕の中では"夢が無いor覚えていない"っていう結構な危機感が襲い掛かってきた……!
まだ高校一年生とはいえ、夢について真剣に考えないで悠長にのほほんと暮らしてて良いのかな!?
気分はまるで目の前の大きな存在に震えるチワワ。なので思わず声も震えちった☆
僕は内心そのように自分の未来への不安にガクブルして動揺するも、風花さんはそのゆるふわな口調な雰囲気は崩さなかった。
彼女は、僕の不安を簡単に吹き飛ばすかのような軽い感じで言葉を紡いだ。
「大丈夫だよぉ♪ ……ふふっ、来人くん。"夢"ってさぁ、わたあめみたいだよねぇ?」
「……わた、あめ?」
「うん。軽くてぇ、ふわふわしててぇ、それを頬張ると口いっぱいに甘さが広がってぇ……あっという間に溶ける、とっても美味しいお菓子ぃ!」
「……うん」
微笑みながら目を細めて話す風花さんの言葉に、僕はただ相槌を打つ。
その表情には何処か、風花さん自身の"夢"に対する羨望や
「そのふわふわした物の中には自分の思い描く理想も希望もいっーぱい詰まっているけどぉ、いざ手に持って口の中に入れるとすぐになくなっちゃうのぉ。……きっと、"夢"も同じだと思うんだぁ。そこで"甘い"って幸福感を味わうかぁ、"なくなった"って虚しさを感じるかぁ……」
「ははっ……例えは分かりやすいけど、だいぶ抽象的だね」
「えへへぇ、"夢"っていう言葉自体も抽象的だからねぇ。…………だからねぇ?」
一拍だけ空けると、風花さんはそのまま言葉を続けた。
「―――私は"夢"を持つことが大事なんじゃなくてぇ、自分自身を見つめてぇ、信じ続けることが大事なんじゃないかなぁって思うんだぁ」
「……え?」
「"夢"を抱くのに早いか遅いかぁ、大きいか小さいかなんて関係ない。きっと"自分の夢"を持ったときぃ、どれだけ自分がそれを受け入れることができる"心の豊かさ"を育てているかが重要なんだよぉ」
「心の、豊かさ……」
「だからぁ、"夢"を持たなきゃなんて焦る必要なんてないんだよぉ。自分の『今』をゆっくりじっくりと育んでいけばぁ、いずれ実るよぉ」
風花さんは、そう言い切った。
"夢"というのはたぶん、優しくも残酷な世界だと思う。叶えば希望、叶わなければ絶望……。夢の程度にもよるだろうけど、それについて学んで、知って、向き合う度に現実というものが見えてくるのだろうね。
風花さんが言いたいのは、どんな"夢"を持つにしてもそれに打ちひしがれない様に
僕は心がじんわりと暖かくなるのを自覚しつつ、風花さんの言葉を自分のことに置き換えてみる。
「なら僕は、まだ背が小さくて細い、吹けば倒れる今にも倒れそうな幼木っていうところかな? ……いや、まだ芽吹いてすらもいないかも」
「じゃあ私が育ててあげよっかぁ?」
「へっ?」
僕自身の印象を木に例えてたら、風花さんがにへらっと笑いながら僕を覗き込むように見つめてきた。……あ、唇がにゅふりって曲がってる。
「じーっくりと毎日観察してぇ、水や肥料をあげたりぃ、虫が寄り付きそうだったら防除剤を振ってあげるのぉ。あ、すくすくと育つように話し掛けたり音楽を聴かせたりぃ、スケッチしたり日記を書くのも良いねぇ? あとはぁ……」
「待って風花さん、想像したら恥ずかしくて死んじゃう……っ!」
「あぁ、お顔真っ赤だぁ♡ もぅ、来人くん植物はからかいに打たれ弱いぞぉ?」
あああ! にゅふった風花さん可愛いっ! あと正直、風花さんに丁寧に育成されたいって思ってしまった自分がいるぅ! その世界はいったいなんていう名前の天国なんでしょうか(喜びを噛みしめながら)?
そういった面映ゆさを感じつつ、僕らは引き続き談笑しながら帰路に着くのだった。
あれ、そういえば風花さんの夢っていったいなんだったんだろう……?
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