第66話 天使とキャラメルホットカフェラテ 2





 僕は突然の声にびくつきながら振り向くとそこには風花さんがいて、にへらっとした変わらぬ表情を僕に向けていた。


 あ、少し鼻が赤い。外少し寒くなったもんねぇ、なんだかそんな風花さんも可愛いや……ってぇ!



「ふふふ風花さん!? どうしてここにいらっしゃるんでしようか!?」

「どうしてってぇ……うーん、そこに来人くんが居たからぁ?」

「山があったみたいに言わなくても!? ……ん?」



 急に背後に風花さんがいたのでおかしなテンションになった僕だったけど、ふとあることが気になりそれを風花さんに訊ねる。



「ね、ねぇ風花さん?」

「んぅ? どうしたの来人くん?」

「つかぬことを訊くんだけど……風花さん、いつから居たの?」

「あっ、そうそう! 実はこのガラス越しからずっと手を振ってたんだよぉ? でも何分経っても全然気付いてくれないんだもぉん、じれったくなって声を掛けちゃったんだぁ」

「……因みに、何分前から手を振ってらっしゃったんですか?」

「なんでちょこちょこ敬語なのぉ? そうだねぇ、今は五時二十五分だからぁ……だいたい二十分前くらいからかなぁ?」

「ごめんなさい」



 おぅ……っ、つまり僕がラノベを読み始めたところから風花さんはガラス越しに僕の前にいたってことだね……っ!


 僕、どれだけラノベに集中していたんだろう……? のめり込み過ぎると視野が狭くなっちゃうからなぁ、まさか目の前にいた風花さんにも気が付かないだなんて……。

 はぁ、僕ってばあんぽんたん。


 若干落ち込みながら目を逸らして謝ると、彼女は手を口元に寄せながら笑った。



「ふふっ、おかしいのぉ。なんで来人くんが謝るのさぁ?」

「えっと……責任感じて?」

「もぅ、私が勝手にしたことなのに気を背負い過ぎだよぉ。リラックスリラックスぅ! あぁ、私もここ座って良いぃ? ちょっと飲み物買ってくるねぇ!」

「あ、うん」



 風花さんがそう言って僕が座っている席の隣にバッグを置くと、ぱたぱたと飲み物を買いに行った。身体ごと彼女が去った方へ視線を向けると、レジの方角へと向かったのでそうは時間はかからないだろう。


 思わず僕は微笑む。


 身体の正面をテーブルに向けて一息つくと、あることに気が付いた。



(……あ。僕、いつのまにか自然に笑えてる)



 これまでみたいに普通に話せてるし。


 さっきまでは戸惑っていて、少ししか話せなくて……心が追い付いていない状態だったけど、風花さんを見て、話して、笑っている姿を見るだけで穏やかな気持ちになる。


 なんだか不思議な感覚だ。どきどきするんだけど、安心する。


 その感覚を目を瞑りながら噛みしめていると、紙カップを片手に持っている風花さんが椅子に手を掛けながら座った。



「おまたせ来人くん! 寒かったからあったかいの買ってきちゃったぁ」

「もうすぐで冬だもんね。コンビニにもおでんと肉まんの時代がやってくるねぇ」

「楽しみだねぇ」



 そう言って風花さんはカップを口に傾けながら中身を飲む。「ふへぇ……甘くて美味しいぃ♡」と顔をいつも以上に蕩かしながら息を吐いた。


 そこで僕は仄かに漂うキャラメルの匂いに気が付く。



「……もしかして風花さん、キャラメルホットカフェラテ飲んでるの?」

「へ……? どうしてわかったのぉ?」

「いやぁ、キャラメルの匂いがしたし、僕も飲んでたから」

「……! へ、へぇ……! そぅ、そうなんだぁ……! なんだか奇遇だねぇ?」

「うん、一緒だね」

「ほわぁ……っ!」



 風花さんのことを考えて飲み物を購入したのは内緒。少しだけ気まずさを感じながらそのように言葉を返すと、それを聞いた風花さんは何故か両手で顔を覆ってぷるぷると震えていた。


 ……うん一緒とか気持ち悪かったよねごめんねごめんねぇ!?


 僕も風花さんのように顔を覆いながら悶えて自分の犯した失態を噛みしめていると、隣の風花さんから声を掛けられる。


 どうやら立ち直ったらしい。



「そ、そういえば来人くん、コンビニでラノベ読んでるなんて珍しいねぇ? 来人くんの性格なら真っ先におうちに帰ってから集中して読みそうなのにぃ」

「うん。普通なら僕もそうするんだけど、ちょっと気分を変えようと思って……って、あれ? 風花さん、今日って部活があったんじゃなかったっけ?」

「その筈だったんだけどぉ、部員の大半が体調不良で休んじゃったんだよねぇ……。だからぁ、しばらく部活自体を自粛しようって話になったんだぁ」

「あぁ、なるほど……」



 僕は風花さんの説明に得心したように相槌を打つ。


 白亜祭が終わり、もうすぐで冬がやってくる。季節は秋で、最近では気温も低くなってきたので高校でもちらほらと風邪が流行ってきているらしいのだ。


 風花さんが前に雑談で僕にそう話してたし、担任の小織こおり先生も気を付けてって綺麗な声で僕らのクラス全員に放課後に呼びかけてたからね!


 手洗いうがいホントに大事だね!



「それじゃあ私もウェブ小説読もっかなぁ……! ど~れ~に~し~よ~お~か~なぁ~?」



 風花さんはスマホの画面を指でフリックしながら小さな声でそう呟いた。


 ……かわいいっ!


 


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