第65話 天使とキャラメルホットカフェラテ 1
「……なんだか今日はあっという間だったなぁ」
僕は小綺麗な椅子に座りながらも、テーブルに肘をついて透明な窓越しから真っ白な雲で埋め尽くされている空を見上げる。
さっき時計を確認したら針はちょうど『五時』を指していた。
今日は風花さんと一緒に手を繋いで高校に来てからというものの、授業やお昼休憩など日常の時間の流れがとても早く感じた。
……あ、結果報告! 当然だろうけど今朝に風花さんと一緒に手を繋いで学校に来たので、周りの登校中の生徒からは戸惑いと嫉妬と羨望の視線が僕ら二人……いや、僕に対して集中砲火しました。はい。
でもやっぱり風花さんのおかげで少しずつ前に進めているのか、以前と比べてあまり恥ずかしくはなかった。……んだけど、それでも色んな視線は突き刺さるので、正直二、三割くらいは気にする(漂う小物感)。
因みに風花さんは
なので取りあえず僕は風花さんと高校の玄関まで手を繋いで歩くまでの間は自前のポーカーフェイスで何とか乗り切ったよ!
あ、クオリティに関してはノーコメントで(有無を言わさぬ圧)。
……そういえば風花さんの様子が昼休みの後から嬉しそうに見えたけどなんだろう? 今朝のこともあって話しかけ辛かったので最低限の会話しかしなかったけど、妙に肌がツヤツヤしてたような……? そして僕に向けて『えへへぇ♪』という感じでにへらっとしながら、謎の熱視線も向けていたような……?
んー、一体何だったんだろうか。……気になるけどまぁいっか。
そして無事放課後まで時間が経過し、僕は現在どこにいるのかというと―――、
「うん、普段は用事が無ければすぐに家に帰って勉強したりラノベを読んだりするけど、こういう風にイートインスペースで飲み物を飲みながらラノベを読むのも乙だよねぇ……!」
そう、僕はなんと某コンビニのイートインコーナーのくるくる回るオシャレな椅子に座りながら気分転換を図ってラノベを読んでいたのだった。まだ二ページ目だけどね。
ふっ、気分は優雅にコーヒーを飲みながら資料をパソコンに打ち込むキャリアウーマン。……まぁ僕が購入したのはキャラメルホットカフェラテなんですけどね!!
風花さんのこと考えたら自然に買っちゃったけど、これ初めて飲んだけど滅茶苦茶甘くて美味しいよ!
むしろキャラメルフレーバーに外れは無いんじゃないか説ワンチャンあるねこれは(謎のキャラメル押し)。
それはさておき。……さて、そもそもどうして僕が気分転換を図ろうとしているのか。
「今朝の件があってから心がポカポカして、宙にふわふわ浮いてる感じがずっとするんだよなぁ……。と言っても意識はちゃんとしてるし、注意力散漫、というわけでもないし……」
まさに文字通り"心ここにあらず"。風花さんへの好意を自覚した時は有頂天になってハイテンションが続いたけど、今のこの呆けた状態ってあれだよね……。
「……風花さん、泣いてたなぁ」
今朝、僕の手をしっかりと握っていた彼女の表情を思い出す。別に僕は泣いていたことでショックを受けたわけじゃない。むしろ、
「僕のこと、真剣に見てくれているんだよなぁ……」
僕はラノベのページを開きながらぼんやりと呟く。
言われたときは嬉しくて、穏やかな気持ちでいられたんだけど……時間を置いた今、どうも感情に理解が追い付いていない状態だ。
……なんだろう、風花さんのことを思い浮かべると何度もどきどきする。好意を自覚した時とは少し違う、甘酸っぱくて……でも、あの時感じた苦しさにも似ていて……。
まるで、僕だけじゃないのかなって彼女に期待しているような―――。
………………………。
「……続き読もっと」
僕は淡い希望に満ちた思考をすぐさま閉じると、ラノベに視線を落とした。……うん、これ以上は危ない。それは
だいたい風花さんのような可愛くて純粋な子が、陰キャで暗くてラノベ好きな僕なんかを好きになるわけないじゃないか。いくら色んなシチュエーションを持ち掛けられたとしても夢見てんじゃねぇよ僕。
彼女が真剣に僕に向き合ってくれているとしても、それは決して恋愛感情じゃない。他人を思い遣れる心を持つ、優しい女の子だからだ。
前に"少しずつ、僕たちの距離が縮まればいいな"って考えたけど……いや今もそう思ってるけど! 今はただ、思い上がらないようにしよう。
……そう、もしかしたら風花さんは、僕に気があるんじゃないかとかさ。
第一、まずはあの過去を言えるだけの覚悟を決めるのが先だしね! 順番を間違えるな僕!
それからというものの、僕はしばらくラノベの世界に
「うおっ、いつの間にかこんなに進んでる……!」
僕はいつの間にかラノベの全ページ数のうち、約三分の一を読んでいたことに思わず
ふっ、とうとう僕も速読の世界に足を踏み入れたか……と、内心ふざけていると僕の背後から声を掛けられた。
「……来人くん?」
「えへぁっ!?」
その声は、いつも聞き慣れている天使のものだった。
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