第63話 腹黒天使は思い悩む
昼休み、私はりっちゃんと昼食を食べる為に屋上のベンチに座っていた。雨とか天気が悪い日以外はお外のベンチでお昼ご飯を食べるんだけどぉ、今回はすこーしだけ気分を変えたくて屋上に一緒に来ていた。
因みに今りっちゃんと二人で座っているベンチは、この前の体育祭の次の日に麗華先輩とお話ししたベンチと同じ。
……わぁー、あの雲、桃の形に似てるぅー。青空をどんぶらこぉー、どんぶらこぉー。
「ふぇー、綺麗な形の桃ぉ……」
「ちょっと風花。教室でてからずっと上の空だけど、いったいどうしたのよ? また
「失礼なぁ、手を繋いで学校に来ただけだよぉ……。 そもそも
「ただ訊いただけで過激すぎじゃない!? しかも結構えげつないわ!?」
急に
動画サイトのリラックス用BGMでは大変お世話になりましたぁ。
りっちゃんはコンビニのおにぎりを噛り付いたのか、隣ではパリパリっと心地よい音が聞こえた。ふぁ、海苔のいい香りがするぅー……。
でもぉ、どうも食欲が湧かなぁい。
「で? それって阿久津クンと手を繋いで学校に来たのが原因? 手を繋ぐなんていまさらだし、教室ではなんともなかったじゃない?」
「んぅー、ちょっと気が抜けちゃったっていうかぁ……方向性を見失ったというかぁ」
「? どういうこと?」
「実はねぇ……」
私はりっちゃんに今朝の来人くんとの出来事をぽつりぽつりと話す。
来人くんが寝てる時に夢を見たこと。それを話している時の彼の表情が、
そのすべてをりっちゃんに吐き出す。
因みに、りっちゃんは中学時代からの私と学校が一緒だったということもあって信用・信頼している。異性として彼を意識したのは人生で初めてのことだったから、あの頃はよく、男の子が好きそうな話題や気を引くための方法をりっちゃんに相談したりした。
まぁ今思えば少しだけ遊ばれていたような気もするけどぉ……、結果として今の関係が築けているのだから水に流そう。うん。
すなわち、私と来人くんの関係のことも全部知っているのだ。
私は全部話し終えると、脱力するように息を吐いた。
「―――だからさぁ、これからどういうスタンスで来人くんに話し掛ければいいか分からないんだぁ。"シュミレーション"をきっかけに来人くんと今までいろんなお話をしてこれたけどぉ……。来人くんはぁ、私のことどう思ってくれてるんだろぉ……? 協力者かぁ、友人かぁ、それともただのクラスメイトかぁ……?」
「……ふーん」
あの夢の内容を聞いたとき、思わず身体の内側から張り裂けそうになった。胸が締め付けられる想いだった。何故彼が嘘をついたのかを深く考えずに、どうしたのかと聞いたことを後悔した。……一番辛いであろう彼に、話させてしまった。
たぶん、来人くんのことだから軽ぅい調子で、
同時に、一瞬でも考えてしまった。
このままで彼を本当の意味で暗闇から救い出せるのか。彼の傷ついた心を癒して、支えていこうと決意した私のこれまでの行動は、結局無意味だったんじゃないのか、とか。
……来人くんが悪くないのは知ってる。わかってる。きっと、これまで何度も見てきた悪夢なのだろう。脳裏にこべり付いて、離れなくて、苦しんで……私が明るさで上塗りしようとも、
今でもそれを夢に見るということは……私が来人くんにこれまでしてきたことは、所詮は
そうした色んな思いを飲み込みながらも、あのとき彼の手を握って言葉を紡いだ。強がってみせた。
でも、教室では何でもないように振る舞っていたけど、私が来人くんにしてきた行動に意味があったのかという疑問が授業中でも終始頭の中をぐるぐる回っていたんだ。
私は青空を見上げながら、この心が真っ白な状態の正体に気が付く。
―――あぁ、そっかぁ。この
「……
「……つまり、風花自身の立場で思いなやんでいるワケね。未だ立ち直れていない阿久津クンが風花のことをどう思っているのかわからない分、このまま立場があやふやなままで彼に接しても彼の心の奥底には響かないんじゃないかって」
「うん、そんな感じぃ……」
どうしたらいいんだろぉ、私ぃ……。いまさら来人くんにかかわらないっていう選択肢は全然ないけどぉ、一度心にした決意が僅かに揺らいだままじゃ、ぐいぐい行けない……っ。
だって、私が積極的になって私が彼の心にずっと残れば、そのまま過去のことなんか忘れて立ち直ってくれるっていう希望が、
今でも夢を見るというのがその証拠。
来人くんはもう少しだけ待ってて、って言っていた。すごいと思う。彼は頑張って過去に向き合おうとしてくれているのだから。
なのに、私は今にでも割れそうな薄氷の道の上で思い悩んでいる。
いったい、私は今後来人くんにどう接したら良いのかぁ―――、
「はぁ、風花ってたまにアホよね」
「えぇ……?」
空を見つめながらぼーっとしていると、何故か唐突にりっちゃんから罵倒された。
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