第23話 陰キャな僕から天使への贈り物 2



 風花さんはそのまま言葉を続ける。



「んぅ、でも改めて考えるとたくさんありすぎて悩ましいねぇ………!」

「因みにどのジャンルが欲しいとかある? やっぱり恋愛系かな?」

「むむぅ………現実と日常を重ねやすいラブコメかぁ、様々な非日常にツッコミを入れながら追体験できるファンタジーかぁ………ごめぇん、もう少し待ってねぇ」

「うんわかった、大丈夫だよ。じゃあいいなって思ったのがあったら教えて」

「うん」



 風花さんは悩みながらも僕の方なんて見ずに一心不乱に棚に陳列された本を眺めている。柔らかい表情をしながらも、ラノベに釘付けなそのぱっちりとした瞳には真剣な光が宿っていた。


 はぁ、可愛いですわ……。


 ………あとあえてスルーしたけどファンタジーも風花さんの中ではそういう認識なんだねー(棒)。


 まぁ正直に言えばそんな認識を持ってしまうのもわからないでも無い。異世界系とかファンタジーって大体ハーレム展開にいきがちだもんね。

 テンプレ+美少女ハーレムは王道中の王道。これはラノベ好きならこの展開は誰しもが通る道。風花さんの言う通り何かしらツッコミどころがある点は否めないけど、前にも言った通り僕はハーレム自体は嫌いじゃない。


 結局ファンタジーだし設定とか細かいこと考えたらいかんぜよ………っ! って仕方なく割り切ってる。

 ニーズに合った面白そうなものが売れる。物語の評価がどうあれ、これこの世の鉄板。ぺっぺっ。


 さ、それはさておき今日発売のラノベを買おうか。うんうん、いつも通りこの『みつば書店』は試し読みの本以外すべてに包装されているのが良いね。

 何故かって? 僕はラノベや漫画を買う場合、剥き出しのまま本棚に置いてあったりレジで店員に包装を剥されるのがこの世で一番嫌いだからだよ!! ベタベタと指紋が付いちゃうでしょうが!!


 幸い『みつば書店』では配慮が行き届いているのでそんな不幸は来襲せず、僕としてもにっこり。



 えーっと、『王家転生』はどこかなっと………お、あったあった。よし、目的のブツも確保したことだし他にも何か面白そうなのはあるかなぁ。


 因みに『王家転生』の物語は、ある日、ゲーム好きの普通の男性会社員が交通事故で死亡したら、転生先は数ある国のうち最も弱小国家の一つである国の王族だったというもの。

 赤ん坊として転生した男性は生前に知識として持っていた戦略・育成ゲームの内容を活かして食糧問題や治安問題の解決、軍設備の強化や経済面での発展など行ない、好き放題に魔法の使えるこの世界を生きるという話になっている。

 結構ためになる知識や主人公を支える美少女がたくさん出てくるし、ストレスフリーな物語ですごく面白いよ。僕オススメ。


 ………………………。


 僕はしばらく新作のラノベ棚を物色する。あ、これとかいいかも。腰に帯剣しながら制服を着た美少女二人が恋人繋ぎをしてる奥に、少年の後ろ姿が描かれている綺麗なイラストが表紙のやつ。


 ………ふんふん、学園バトルものだね。手に汗握る緊迫した剣戟戦はハラハラするから大好きだよ。女の子同士の友情もあったら最&高だね―――っておっと、少し離れた所で風花さんが僕をちらちらと見てるじゃないか。


 僕はすぐさまそのラノベも確保して風花さんのもとへと向かう。うん、改めて実感したけどすっかり忠犬根性が身に付いているね僕。ふっ、嫌いじゃないぜ。



「風花さん、どれがいいか決まった?」

「い、いやぁ……実を言うとまだ決まってないんだよねぇ。どのジャンルを選ぶのかは決めたんだけどぉ………」

「因みにどのジャンル?」

「異世界ハーレムファンタジぃー」

「へぇー……………!?」



 あまりにもいつも通りのゆったりとした口調で、選ばないであろう言葉を口にした風花さん。最初気付かずスルーして思わず二度見しちゃったよ僕。

 

 あれだけハーレムをけちょんけちょんに言ってた口撃こうげきは幻だったのだろうか。

 そもそも恋する気持ちを知りたいという風花さんが参考するジャンルとして、登場人物の細かな感情や情景描写が描かれにくいストーリー主体の"異世界ハーレムファンタジー"を選択するのは如何なものだろうか。

 ……いや、『天使』と呼ばれるゆるふわな見た目と違って中身はとてもしっかりとしている風花さんのことだ。何か僕の考えが及ばない崇高な考えを持っているに違いない。うん。


 僕は若干顔が強張りながらも本棚へと注視している風花さんへ向けて声を掛ける。



「もしもし風花さん? 風花さん的に恋愛ラブコメを選ぶのなら分かるんだけど、どうしてそのジャンルを選んだの?」

「えーっとねぇ………なんとなくぅ」

「そんなふわっとした理由!?」

「あははぁ、それは冗談としてぇ……大体のラブコメに出てくる女子って主人公の男の子と因縁や接点がある場合が多いじゃぁん? 物語としては成立するんだろうけどぉ、読み手側からするとぉ、それって"ヒロイン"って分かりきった状態なわけだよねぇ。仕方ないんだろうけどぉ、展開とかどうしてもありきたりな似通ったパターンが多くなっちゃうしぃ……。そういう日常で主人公に女の子が恋愛感情を抱く定番の場面以外でぇ、なにか新しい刺激が欲しいなぁって思ったからさぁ」

「なるほど」



 僕は風花さんが話した内容にうんうんと頷きながら、先程の僕の風花さんへの疑問を恥じた。


 確かにラブコメはシミュレーションとして参考になる部分はたくさんあるが、多くのラノベを読んでいる僕からしたら会話の内容やテーマに違いはあれどパターンの根本的な部分はさほど変わらない。


 これまでに僕が貸した数冊のラブコメなラノベや、あれから自分でも検索して読んでいるというウェブ小説からそのことを読み取ったであろう風花さんはさすがだし、そのうえ自分の参考になる新しい刺激を求めて"異世界ハーレムファンタジー"に挑戦しようとするなんて、なんて懐や慈愛が深い『天使』なのでしょう………!


 風花さんの参考になるものはどんどん取り入れようっていう吸収意欲がしゅごい。


 内心そんな事を考えていると、ふと僕は風花さんが両手を擦り合わせてどこかもじもじとしている事に気が付く。

 ん、どうしたのかな。


 次の瞬間、彼女は僅かに瞳を彷徨さまよわせながら、言いにくそうにぷるんとした唇を開いた。



「そ、それでさぁ? このまま私がうじうじ長い時間悩むのもなんだしぃ、来人くんが選んでくれないかなぁ……?」

「え、いいの?」

「むしろそうして貰った方が私も嬉しいというかぁ……。こう、そのぉ………っ、あのねぇ、折角のプレゼントならぁ、ら、来人くんが私の為に選んでくれた物が欲しいなぁってぇ………!」



 そう言った風花さんは、耳まで顔を真っ赤にしながら僕を上目遣いで見つめていた。わかった、ごめん僕の配慮が足りなかったよ風花さん!


 というかよくよく考えなくても、プレゼントするって言いながら何が欲しいのか風花さんだけに考えさせるってだいぶおかしいね! 女の子になにかをプレゼントするのは初めてとはいえ、頭いてんのか僕っ!!


 僕の今まで生きてきた中でも全身全霊を掛けて風花さんの為に選ぶよっ!!!!




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