第22話 陰キャな僕から天使への贈り物 1




 ある日の放課後、僕と風花さんは僕がいつも利用する『よつば書店』という本屋のラノベコーナーの前に立っていた。この一角だけ他の一般書籍が置いてある本棚と比べると明らかに異彩を放っており、天井にも美少女の華麗なイラストが描かれた小さな広告がいくつもぶら下がっている。……へぇー、あのラノベアニメ化進行中なんだ。成功するといいね!

 

 隣に並び立つ風花さんを見てみると、きらきらと目を輝かせながら驚いたような表情を浮かべていた。心なしか彼女の背景にお花畑が見えますねぇ……! うん、風花さん感情フィルターは今日もバリバリ正常!



「うわぁ、すごぉいすごぉい……っ! これ全部ラノベぇ? なんだか店員さんの尋常じゃない気合が伺えるねぇ」

「うん、月毎つきごとに発売する新作ラノベや、発行部数と売上や人気が高いランキング、店員さんのオススメ順、そして各ジャンルごとにラノベが置いてある本棚に分けられているからね。紹介文が掲載されているPOPポップも惹き込まれるような仕上がりだから毎回僕も楽しみなんだよねぇ……!」

「へぇ、そうなんだぁ! ホントたまぁに放課後に寄って雑誌を見たりぃ、文房具を買ったりするくらいだったからぁ、今まで二階もあるだなんて知らなかったよぉ」

「この建物自体広いからなぁ。奥側に階段があるし、基本的にラノベとか漫画を買う用事が無い限り二階なんて行く事は無いもんね。だってほぼラノベ・漫画で占められてるし」



 そう、この『よつば書店』は一階は種類豊富な文房具や参考書、雑誌や週刊誌、CDアルバムなどを置いているのだが、二階はライトノベルや漫画が大量に置いてある本屋さんなのだ。……理由? 店員さんの誰かがサブカル系好きなんじゃないかな(漂う適当感)?


 僕にとっては天国だね、ひゃっほい!


 まぁさすがに店員さんに話しかける勇気なんてないけど、この『よつば書店』は僕の自宅から高校までの中間の距離に店を構えているので中学の頃から何度も利用している。



「それにしても、いきなり風花さんが僕がラノベを買う為に毎回利用してる本屋に行きたいだなんて言った時は驚いたよ……!」

「えへへぇ、来人くんがいつも来ているところが知りたくてねぇ」



 はい、満面のにへらっとした可愛い笑顔頂きましたー。僕もまさか『天使』とラノベコーナーに行くなんて夢にも思わず、非常に、ひじょーに興奮しております(謎の解説風)!

 なんか、うん。自分が落ち着くパーソナルスペースに、『天使』と呼ばれる陽キャゆるふわ系美少女がいるって事実が僕の背中をソワソワさせる。なんだこれ。



 そもそもどうして僕が風花さんと一緒にラノベコーナーに来ているのか。

 ことのはじまりは、今日の僕と風花さんの昼休み中のある会話がきっかけだった―――。




『ねぇねぇ来人くん、そういえばどこでラノベ買ってるのぉ?』

『高校から少し行った距離の本屋だよ。ん?………あっ、今日新刊の発売日だった! 忘れずに買いに行かないとな……』

『! はぁい! はいはぁい、私も一緒に行きたいでぇす!』

『テンション高いね……。あぁ、もしかして何か文房具とか雑誌を買いたいのかな?』

『違うよぉ、最近来人くんからラノベを良く借りて読んでるけどぉ、本屋さんのライトノベルコーナーって見たことないなぁってふと思ったんだよねぇ……! だから一緒に行っても良いぃ?』

『僕は全然構わないし大歓迎だけど………あれ、風花さんって料理部だったよね。参加しなくても良いの?』

『今日はお休みだから大丈夫だよぉ!』

『そっか、じゃあ放課後に一緒にいこっか』

『うん!』



 という会話が昼休みに繰り広げられたのであった。ふっふっふ、僕が掲げた誇り高き意思、ESC (エンジェル・スピーク・チャレンジ)は不滅なのだよぉ………ッ!


 痣を手当てして貰って、あれから一週間ちょっと。すっかり普通の陰キャ顔に戻ったし、風花さんと積極的に会話をしたおかげか、少なくともどもることはなくなったね。

 正直、今まで目線を合わせて話すのも苦手だったけど、合法的に『天使』をガン見出来る機会だということに気が付いて、それならガンガン見ちゃえって開き直ったんだ。その結果僕の陰キャポイントは少しずつ改善されつつあるよ。


 まぁ風花さん限定だけどねっ!



 今日あった出来事を振り返っていると、いつの間にか風花さんはライトノベルコーナーの一部の前に立って「ふぇぇー………」とか細い声を洩らしながらどこか感心して眺めていた。

 横顔からでもわかる。すごく瞳をキラキラとさせながら可愛く口を開けてるよ。もう興味津々っていう感じだ。



「なんだかこうしてみると圧巻だねぇ。ジャンルの種類が豊富で絵柄がどれも綺麗………!」

「物語の軸となる本質のみを追求した結果安定感度外視の穿うがった作品が出来たり、王道パターンと登場人物の感情の機微を忠実に一つ一つ丁寧に紡いだら安定感抜群の作品が出来たりといった具合で……ジャンルの可能性は無限大だからね」

「つまりぃ……私たちと同じでぇ、同じものはこの世に存在しないってことだねぇ」

「やだそれカッコいい………!」



 うっわなにそれかっけぇ………! 思わず乙女的な声が洩れちゃったじゃないか!

 もう風花さんの名言的言葉を集めた『天使語録』作ってもいいんじゃないの? 彼女の尊さを布教するなら僕喜んで協力するよ(眼血走り)!? タイムラインが流れるSNSなんかでも使ってさぁ!? 風花さんの可愛い容姿をプロフィールにしてバズる画像と共に名言を載せたら有名人間違いナシだよ!


 ………ステイステイ僕、落ち着け。やっぱりなし。よく考えたら名言を載せただけでそう簡単に有名人になれないし、なによりそれはそれでなんか寂しくなるから嫌だなぁ……。


 はっ、もしやこれが独占欲………っ! 『天使』との触れ合いの中で僕に芽生えた新たな感情………っ!

 調子に乗ったとはいえ、こんなこと考えてしまってごめんね風花さん!




「風花さん風花さん」

「んぅ、なぁに来人くん?」

「もし気に入った物があれば、一冊プレゼントしたいんだけど……何か興味が湧いたジャンルとかある?」

「―――いいのぉ?」

「うん、記念にね」

「! 記念………っ。うんっ、ありがとぉ!」



 お詫びっていうわけじゃないけど、僕は陳列棚を見ながら風花さんにラノベを一冊プレゼントする事を提案する。彼女が恋する気持ちを知りたいという思いを抱いていたとしても、折角わざわざ僕の買い物に付き合ってこうしてラノベが大量に陳列されている場所まで来てくれたんだ。


 ここで彼女の分も買わなきゃ男が廃るというものッ(大げさな使命感)。



 あと"記念"って言った途端に顔を素早く僕の方に向けて目を輝かせたのって、その言葉になんか特別感があるからなのかなぁ………?


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