第15話 天使によるお裾分け
そうして風花さんとの至福の時間を堪能した僕は集中力がアップ。その後の授業も無事終了し昼休みを迎えた。
机の椅子に座った僕は溜息を吐きながら昼食の入ったビニール袋を取り出す。
「さてさて、いつもは母さんの手作り弁当だけど、仕事で疲れたからか昨日は作らない宣言をしたからなぁ」
昨日の夜に急いでコンビニで買っておいた僕の好きなハムレタスサンドイッチ。それを頬張りながらウェブ小説を漁っていた。
もぐもぐ……チッ、タイトルで読者の興味を惹かせておいてたった数千字で何か月もエタってんじゃねーよなー。プンプン。
僕は作品のブックマーク整理を行なう為にすぐさまそのサイトにログイン。高評価の付いていた作品だったがこれ以上更新される見込みがないなら致し方なし。はいブクマ解除。
まぁ作者にどのような事情があろうとも続きが描かれなければね。本当に残念だよ、面白そうなファンタジー作品だったのに。
ラノベ・ウェブ小説界隈は荒波が激しいからねぇ……(しみじみ)。
気を取り直して面白そうな作品の発掘を続ける。昼食を平らげながらもしばらくスマホ画面をフリックしていると、友達と一緒に昼食を食べに行った風花さんが教室に戻ってきた。何か良いことがあったのか足取りも軽く、にへらっとした笑みをいつもより深めている。
心なしか背景に大輪の花が咲いているように見えるよ。……カワイイねっ(グッ)。僕は彼女が着席するタイミングを見計らい話しかける。
ふっ、まだまだESCは続くのだよっ。
「風花さん、なんか良いことでもあった?」
「えぇ、そうかなぁ……? そう見えるぅ?」
「うん。まるで宝くじの高額当選が当たったみたいな感じ」
「あははぁ、それよりも嬉しい事かなぁ」
なん……ッだとぉ……ッ!! 僕が知らない内にいつの間に風花さんの周りでそんな出来事が起こっていたとはっ。
友達と昼食を食べている際にいったいなにが……ハッ、もしや男か、男なのかぁ……ッ(血涙)。
と、おそらく風花さんが想っているであろう野郎(仮)に下痢が続くように呪いを掛けていると、彼女は何かを思い付いたかのように口を開く。
「あっ、そうだぁ! 来人くん、両手貸してぇ」
「すいませんでした」
「なんで謝りながら手首を合わせてるのぉ……?」
風花さんは垂れ目な瞳をぱちぱちさせながら疑問の声をあげる。
おや。僕はてっきり不純な思考を『天使』に見抜かれたと思ったので、刑事に自首する犯人のように手首を差し出していたのだけど違ったようだ。
因みにバックステージは突風が吹きながら荒波が一望出来る崖の上 (ざっぱーん)。
風花さんは小さな手で僕の両手首を手に取ると―――、
「まいっかぁ…………えいっ」
「………………ぱぁ?」
ぽんっ、と自らの頭の上に置いた。
同時に彼女の暖かくも白さが目立つ手が僕の手の甲を包み込む。つまり、僕の手が風花さんの小さな頭から逃げられない様にがっちりホールドされているというわけだ。
僕は気の抜けたような声が口から洩れて頭の中が真っ白になる。
………………ぱぁ?
「えへへぇ、さっきのお返しぃ。私が感じた幸せのお裾分けぇ」
「お裾分けの、供給量が、過多じゃ、ないですか、ねぇ………?」
思わず表情が固まりカタコトになった僕だが、僕を見遣るその『天使』の笑みと共にじんわりと広がるのは彼女自身の手の温もり。
彼女は目を見開いたままの僕の手を包み込みながら、撫でるように手を動かした!
ちょっ、指と指の間に風花さんの指が当たって少しくすぐったいんですけどーっ! あっ、良く見れば風花さんの爪がつやつやしてる。クリアネイルしてたんだねごめん気が付かなかったーっ!
カールボブな髪形の茶髪もすごく
―――ふぉぉぉぉぉぉぉ!!! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
もう僕の両手が上からも下からも風花さんでサンドイッチされてるじゃないですかやだー。もうなにこの娘ー、
と、ふと僕は我に返る。この場所、この状況、実はすごく注目を浴びやすいんじゃないかなって。しかもカースト上位で『天使』と呼ばれている誰にでも優しい風花さんが、陰キャとして学生生活を送るこんな僕にアクションを起こしているのだ。
注目を浴びない筈がない。
僕は顔の向きを風花さんに固定しながら、一瞬だけ教室をぐるっと見渡すように視線を動かす。
(あ、これ詰んでない……? 滅茶苦茶見られてるじゃん………!)
昼休みなのでちらほら教室の机には空席があるが、それでも昼休みの時間はとっくに半分が過ぎている。一部の生徒を除いて大半のクラスメイトが様々な感情のこもった視線で僕と風花さんのやり取りを、ちらちらと、或いは凝視していた。
その事実を理解した僕はごくりと
(ひ、ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! みんな見てるよぉぉぉぉぉ!! 羞恥心がとめどなく溢れてきたっ、ドキドキがマックスハートだぁぁぁぁぁぁ!!)
興奮するも束の間、もう僕の内心は軽くパニック状態だった。クラスメイトによる
案外切迫した状況だと自覚した僕は、口元をあわあわと動かしながら縋るような視線を目の前の『天使』へ向ける。
すると彼女は詰まらせるように口を
風花さんはすぐさま口元をにゅふりと動かすと言葉を紡いだ。
「うにゅ……っ、むぅ………。っ!………あぁ来人くん、女の子の髪を触った感想、訊かせて欲しいなぁ?」
「………髪の毛一本一本が艶々して、さらさらしつつもふわふわしてる。すごく綺麗で、風花さんに似合ってるって思った」
「えへへぇ、嬉しい。毎日欠かさず手入れしてた甲斐があったなぁ……私の幸せぇ、もっと欲しいぃ?」
「うっ……これ以上受け取ろうとすると溢れちゃうので、もう大丈夫デス」
「そっかぁ………ざぁーんねんっ」
残念っていう割には嬉しそうだね風花さん。もしかして、これもシミュレーションの一種だったのかな………?
風花さんが僕の手を導きながら恐らく最後の一撫でだろう、髪を
「―――んっ」
少しだけ目を閉じてくすぐったそうにした風花さん。同時に僕にだけ聞こえるような音量で小さく吐息を吐いた。
そして彼女は耳に掛かった髪を軽く払うと、照れくさそうに、普段のにへらっとした笑みを浮かべた。
かぁいいよぉ………っ!!
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