トラックにシェアを奪われた鉄道貨物へのモーダルシフトを早めに推進するべきなのだろう
さて、荷物輸送に関していうと前では2010年代後半ぐらいにはネット通販の日常化とともに運送業やその他物流関係の人不足が問題となっていた。
ネット通販の日常化による需要の増加に対して、トラックの積載率が40%程度と悪く、荷物の積み下ろしでかかる荷待ち時間が長い、人手が増えないなどの問題も要因となっている。
人手が増えないのは労働環境が悪いというイメージから若年層や女性が集まりにくいためで、運送業界のドライバーなどはバブル頃に働き始めた40~50代男性が主流だ。
しかし、ネット通販では送料無料などを謳い文句にしていたりして運送会社にしわ寄せが来ていたりもして、労働条件はなかなか改善されなかった。
そもそも昭和30年(1955年)では鉄道輸送は52.6%をしめ、トラックは11.7%でしかなかったが2020年代の鉄道の分担率は約1%まで落ちトラックが90%以上を占めるようになってしまった。
一方ではそのころ世界的には鉄道へのモーダルシフトが進み、旅客輸送は飛行機から高速鉄道へ、貨物輸送は船舶やクルマから貨物列車へと移行していた。
そうなってしまった理由はいろいろあるのだが日本の場合は世界よりも高速鉄道の新幹線や高速道路整備が早く進んでいたというのはあるのだろう。
鉄道輸送の利点は、長距離での大量輸送が可能で、個別のドライバーが不要なこと。
だが、問題は専用貨物車の列車編成作業で、貨物列車を操車場で組替えながら貨車を継送して、各駅で貨車を切り離す「ヤード輸送方式」が主流であったが、広大な操車場が必要となるうえ、列車の組み換え、切り離しなどに時間がかかり、貨物到着までのリードタイムが長いうえに不確定になってしまうため鉄道貨物は時間通りに集荷して、配達するといったニーズに対応しづらいというのが欠点であった。
さらには戦後の国鉄は左翼系組合の巣窟となり、70年代は順法闘争やスト権ストによる運休がたびたび起こったがこれは貨物列車にも及んだ。
旅客列車である場合は最悪私鉄や地下鉄を使えばいいが貨物はそうはいかない。
結果、多くの企業が迷惑を被っても、一向に改善されないという情況が長く続き、となれば貨物輸送は駄目だ、あてにならないとトラック輸送に切り替えるのが当然で高速道路の整備に伴って長距離輸送でもトラック輸送への切り替えが進んだ。
その結果もあって鉄道貨物は年数千億円ともいわれる膨大な赤字を計上して、昭和59年(1984年)2月に抜本的改正により、ヤード輸送方式は全廃され、150近くあった操車場の大半が廃止され、さらに、全国に851駅配置されていた貨物駅も457駅へと削減されたことで余計に鉄道貨物は使いづらくなった。
ヤード輸送方式に替わる仕組みとして、操車場での組み換えを必要としない”コンテナ輸送”による駅間直行方式が鉄道貨物の主流となるのだが、小型コンテナの複数積みだと、横側に扉をつけることになり、貨車からトラックへの積み替え時はともかく、トラックからの配達所への積み下ろしの際にトラックを横着けする必要がある。
そのため、通常の10トントラックなどが後ろ側の扉から荷物を出し入れするのに対して無駄に場所をとる問題もあった。
日本の鉄道コンテナの歴史は実は古く、昭和6年(1931年)に登場し、コンテナ専用の貨車に搭載し、フォークリフトを使ってそのままトラックに積み替えられるタイプのコンテナも昭和34年(1959年)に登場している。
しかしコンテナ貨物の扱いの鉄道施設の事情によって側開きコンテナが普及し、荷物が多ければ大型トラックにコンテナを2個積み、3個積みにすればいいと考えたのは失敗で、大きなコンテナを開発し、トラックが配達先で扱いやすいように後ろ開きにすべきだった。
もっとも、コンテナを積み替えるためのフォークリフトの能力の制約もあったのではあるが。
しかし貨物船のコンテナとも大きさをそろえるということをしなかったためにますます貨物輸送は敬遠されて行ってしまった。
「北条先輩。
これ以上貨物列車による輸送が衰退するのは避けるべきだと俺は思う。
だから日三や山田、富士山なんかの部品工場から製造工場への部品輸送や新車の輸送はなるべくNR貨物を使うようにしていこう。
あとNR貨物も鉄道都合のコンテナ規格にこだわるのをやめて、トラック輸送に合わせたコンテナ規格へシフトしてそれの積み下ろしに必要なトップリフターを導入して、まだ残っている操車場跡を有効活用するべきだし、何ならNR貨物を買収してもいいと思うけどどうだろう?」
俺がそういうと北条先輩が不思議そうな顔で聞き返してきた。
「NR貨物の買収ですか?
NR貨物は兆単位で負債を抱えた上に現状大赤字ですから、買うのは簡単だと思いますが、独立採算はほぼ不可能な状態ですわよ?」
「今は確かにね。
でも鉄道貨物は500km以上の遠距離大量輸送は本来トラックより得意だ」
「500km以上といいますと東京から盛岡や大阪程度までの距離ですわね」
「うん、だから日三や山田、富士山なんかの部品工場から製造工場への部品輸送や新車の輸送に加えて、サンシャインやポケットサンシャインを首都圏から地方都市に運ぶ時も主要な駅までは貨物で運んで、そこから先はトラックにした方が最終的には長距離トラックドライバーの疲弊も軽減されるし、道路事情の改善にもつながるはずだよ」
「なるほど、長い目かつ大きな目で見れば確かにメリットはありそうですわね」
「まあ、そのあたりは農業や漁業関係への先行投資と同じだね」
「では、話を進めてみますわ」
さらに旧国鉄からそのままの人材にありがちな”何をやっても無駄”という事なかれ主義がはびこっている体質を根本的に改める必要もある。
しかし意外ながら”前”のNR貨物は、純利益を出すにいたった会社であったから将来性はある。
これには佐河急便と提携して開発した、世界初の貨物電車スーパーレールカーゴのような高速化や宅配便を扱う運輸会社との提携、豊畑との提携などもあるが。
本来東海道新幹線はもともと旅客輸送と貨物輸送の両方を行う前提になっていて、昭和33年(1958年)に国鉄がまとめた計画では、東京、静岡、名古屋、大阪の4か所に貨物駅を設置し、旅客列車が走らない深夜帯に、コンテナを搭載した貨物列車を運転する予定だったし、実際東京と大阪では新幹線貨物取扱駅の用地買収も進められていた。
実際は過密ダイヤと保守の関係から東海道新幹線で貨物列車を走らせるのは不可能だが、上越、東北、北陸新幹線はダイヤに余裕があり、青函トンネルの北海道新幹線と貨物列車との共用走行におけるトンネル内での走行速度の低下問題もある。
その抜本的な問題解決のため貨物専用新幹線の導入が進められていたりもするが、最高速度は時速320kmで運転でき、札幌と東京をつなぐ貨物新幹線が導入されれば輸送速度においてトラック輸送を大きくしのぐこともあってかなりのメリットもある。
車内の座席を設けず、宅配便荷物や書籍などの小型荷物を物流倉庫で使われているパレットごと車両側部のドアから積み込む方式をとることで費用面の課題もクリアできる。
北海道の札幌、青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島、栃木、埼玉、東京や
長野、新潟、富山、石川などの各都道府県に1箇所ずつ荷下ろしのできる場所を作れば輸送もかなり便利にもなるはずだ。
もっとも高速運転のための重量制限はかなり厳しくすべての貨物を運ぶことはできないから従来の貨物も並行して運行する必要はあるが。
いずれにせよ貨物列車による輸送は宅配便だけでなく自動車メーカーなどでも十分メリットはあるから今のうちに手に入れておくのはよい気がする。
現状では客貨分離輸送が進められているが、いずれはそのゆり戻しで貨客混載輸送が見直されるようになるはずだから。
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