新入部員が有能すぎて頼もしいがちと怖くもある

 さて、今年入学した新入部員はかなり有能だ。


「対戦格闘ゲームの基本的な考えはライジングの子会社のメンシュが発売しているプロレスゲームと似たようなものだけど、弱い攻撃は速く出せて当てやすい、強い攻撃は出るのが遅くて当てにくい。

 でも強い攻撃を一発当てたほうが弱い攻撃を数発当てるよりダメージは大きいし何よりスッキリする。

 そんな感じで考えているよ。

 で、対人戦が楽しくできるようにどのキャラを使っても対戦成績は概ね同じくらいになるようにしたいところだね」


 俺は織田くんにそのように説明すると彼はうなずいた。


「なるほど、プロレスゲームの場合は組み付いた後の方向ボタンと攻撃ボタンの組み合わせで強い技を決めていたけど、今度のゲームは強弱のパンチ・キックという押すボタンによって攻撃の強弱を変えるというわけですね」


「そういうことだね。

 で、方向ボタンはしゃがむとかジャンプという形にして立っていたらしゃがみ攻撃はガードできない、しゃがんでいたらジャンプ攻撃はガードできないというふうにして駆け引きをできるようにしたい。

 プロレスと違って組み合ってから投げるって言うわけじゃないから投げもスムーズにできるようにするけど」


「なるほど大体わかりましたよ。」


 と織田くんがプログラミングを始める。


 もともと最初期のコンピューターゲームはCPUが貧弱だったのでポンのような対戦式のゲームだった。


 しかし必ず2人で遊ばないといけないとなるとエアホッケーのほうが楽しいという形になってしまう。一人で遊べるブロック崩しが開発されるとそちらが主流になり、それからスペースエイリアンが開発されてシューティングゲームが成立して、ニャムコが縦スクロールシューティングのゼピウスに発展させると横スクロールシューティングや疑似3Dシューティングなども出てきてゲームセンターでの主力機種にまでなった。


 そういった事もあってゲームは一人プレイが基本となったわけだが、上手な人間だと何時間もワンコインで遊べ、コンピュータが相手だとパターンが決まっているのですぐあきてしまうという欠点があったわけだ。


 それを大きく変えたのが対戦格闘ゲームや対戦レースゲームで特に対戦格闘ゲームは負けた側がどんどんコインをつぎ込むこともあってゲームセンターも大歓迎だった。


 このころはみんな下手くそだったからかったり負けたりで楽しむことができたのだな。


 しかし、1992年に本格的な対戦仕様の格闘ゲームであるストリートバトラーダッシュが出た翌年の1993年ごろにはだんだんと上級者が中級者以下を一方的に叩きのめすばかりになって、クソつまらんと初心者中級者は対戦格闘から離れ、コンシューマーゲームでは誰でも頑張ればクリアできるRPGが主流になったこともあって対戦格闘ゲームは廃れていくことになり、ソーシャルゲームでも日本では対戦型のものはすぐに過疎になる結果になった。


 みんなが下手だから勝ち負けが一方的にならずに成り立っていた楽しさがなくなっていったわけだ。


 これを格ゲーだけの問題じゃないというのは難しく、対戦アクションや対戦レースゲームはその後も人気であったりしたのだが、対戦格闘の場合は、超必殺技やコンボ技等による操作難度の複雑化によるハードルの上昇によって初心者に簡単に楽しめるようにならなかった。


 これ自体は3D格ゲーの”婆茶ファイター”の登場によって一度は流れが変わったように思えたのだが、結局は2D対戦格闘と同じ道をたどった。


 コンシューマーでは大乱闘スマッシュシスターズの一部タイトルのように”初心者と上級者との壁を無くす”ように設計されているものもあり、それはそれでまた批判が出るのが難しいところだが、将棋や囲碁では上級者は駒などを何枚か外して初心者と対戦したりするように初心者でも対戦の楽しさを伝えようとするのは大事だと思うけどな。


 実際に、格ゲープレイヤーのダメなところは、「弱いのが悪い」「勝つために努力しろ」「負けて覚えろ」といって、初心者プレイヤーの努力不足にすべてをすり替えて自分たちの快楽を追求し続けたことにあり「その初心者お断りの姿勢が衰退を招いた」とか言う人は対人ゲーに向いてないから素直にマリオンとかやっといた方がいいですよとか言い出しちゃうわけだ。


 そして実際にスマシスやマリオンカートにゲーム人口は流れ、対戦格闘ゲームは衰退の一途をたどるけどな。


 そういった態度も日本では将棋が強ければ尊敬されるが、対戦格闘ゲームが強くても尊敬されない理由の1つでもあると思う。


 だからこそ対戦格闘ゲームの複雑化はさせず運次第では初心者も勝てるというようにしていくのが大事だと思うんだよな。


 ま、今は将来に対戦格闘ゲームが衰退することより、ドッターが悲鳴を上げることが問題かとおもったが、そのあたりは柴田くんや丹羽くんがきっちりフォローしているのがやばいな。


「織田くんたちに仕事をぶん投げている俺が言うことじゃないけど、キャラクターのドットなんかもある程度書いちゃう織田くんたちはすごいね」


「今はアクションゲームでもRPGでもキャラなんかのドット絵や背景画像が増えるのは普通ですからね、これぐらいは普通ですよ」


 織田くんはあっさりそう言うがすごいことだよ。


「ああ、確かに俺達の時代とはそのあたりだいぶ違うな……」


 まあ、新入部員で一番凄いのは北条先輩の仕事の後任を任されそうな豊臣さんではあるが。

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