うちの学校の部活が勝ち続けるためには情報収集とスカウトに力を入れないとな
さて、3年生に進級した新学期、俺は普段着和装で通学してそのまま授業も受けている。
下着は普通に洋服のもので上着が和装、靴下や靴は洋服で鞄も学生カバンだが別段そこまで奇異な目で見られたりはしない。
まあ皆そこまで他人に興味はないのだろう。
「意外とこの服でも周りは気にしないな」
俺がそう言うと斎藤さんが苦笑していった。
「私はそうでもないのだけど」
どうやら男である俺と違って女性陣はそうでもないみたいだ。
「まあ若くて可愛い子が和装とかして電車に乗っていたらやっぱり目立つか」
「……そうね」
そして浅倉さんが言う。
「そんなセリフを照れもせずに真面目顔で言う部長はやっぱおかしいです」
「え? おかしいかな?」
俺がそう言うと明智さんもうなずいた。
「普通はそんな事恥ずかしくて言えないっすよ」
「そんなもんかな」
まあそんなやり取りはあったが女性陣が不愉快に感じているということはなさそうだ。
「あ、あの私の服はどうですか?」
浅井さんが着ているのは桜色のシンプルなものだが”前”の桜大戦のヒロインっぽいな。
本来ならそのキャラに声をあてているのは横山さんの方のはずだけど。
「うん、可愛らしくていいと思うよ」
俺がそう言うと浅井さんはにぱっと笑っていった。
「そ、そうですか。
えへへ、よかった」
そんな他愛もない話をしている所で北条先輩が部室へやってきて俺に言った。
「前田くん、お母様がお呼びですわ。
春の選抜野球の結果やこれからについてお話がしたいそうです」
「え、理事長が?
わかった理事長室に行くよ」
というわけで俺は理事長室で理事長と話をすることになった。
「あなたのおかげで今回の春の選抜野球でも無事全国優勝できました」
「ああ、それならば良かったですよ」
「ですが、昨年の夏の甲子園に比べてかなり苦しい戦いになっています」
「PL学園が簡単には優勝できなかったように、他県の高校とかもうちの野球部の研究や対策はしてきたでしょうからね。
簡単に勝てなくなるのは当然だと思います。
全体的な能力の底上げを図るのも必要ですが、これからはむしろ対戦相手や審判の判断傾向を調査してそれを分かりやすくデータベース化してまとめて対策をしていく必要があるでしょう。
彼を知り己を知れば百戦殆うからずといいますし、実際プロ野球でも西武ライオネルズの林監督は手堅いデータを用いた野球でチームを優勝に導いていますからね。
そして有力な中学校の選手のスカウトなども今後は必要になってくると思います」
「なるほど、わかりました。
そうなると新たに人員が必要ですね」
「そうですね。
結局はプロ野球もそうですが、高校野球はどれだけ優秀な中学生をまんべんなく集められるかにかかって来るようになるはずです。
70年代までは公立でも野球強豪校はありましたが、ここ最近はそれが減少しているはずですし」
「たしかにそうですね」
「うちもそうだと思いますがすでに少子化傾向で私立は危機感を持っている学校が多いですからね」
「ええ、そうです。
学力の向上により有名大学へ入学できるとなれば入学志望者も増えますがそれは容易ではありませんのでそういった意味でも貴方には期待しています」
「はは、まあ俺も将来のために東大には行くつもりですが、スポーツ強豪校にするのは偏差値を上げるよりは難易度は低いですしね」
もっとも偏差値が高ければ社会人として優秀というわけでもないのだが。
「甲子園というのは高野連が主催する教育の一環としての事業であるはずですが、実際はアカヒ新聞や毎朝新聞の販売拡大戦略のために利用されてきましたけどね。
学生野球憲章があって、学生野球の商業利用はしませんよということで、日本高野連は財団法人に認定されているわけであって教育の一環であるということを忘れてはいけないとは思いますがなかなか難しいですよね」
「甲子園優勝という名声は大きなものですからね」
私立の場合はそういった意味で傑出した能力を持つ生徒の確保が経営陣にとって大事なのに対して、公立校ではどうせ給料は年功序列、頑張っても上がるわけでもないし問題が起きなければ、もしくは問題があっても表面化しなければいいとなりやすい気がする。
無論私立でも特別扱いしすぎて甘やかし結局は飲酒喫煙などで野球ができなくなったりするから、どちらも問題は抱えているのだが。
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