正月明けに頼んだ礼装が取り敢えず仕上がってきたか、和服の小売メーカーも無事買い取れたみたいだな

 さて、正月明けにオーダーで頼んだ正装礼服だが採寸後注文して一ヶ月半ほど経った。


 そのうち冬用に作っていた縫製のランクの比較的低いものがようやく出来上がってきた。


「洋式正装礼服の冬用ができてきたけど春用はまだ一ヶ月半くらいかかるのか」


 部室に送られてきたそれを見て俺が苦笑していると北条先輩が呆れたように言った。


「あくまでもそれは今年の冬に間に合うように仕上げたもので来年用はまた別に作らなければなりませんからね。

 それにフルオーダーですと、仮縫いしてフィッティングを数回行い、手での縫製を行いますから3か月ほどかかるのが普通ですわ」


「だからその分余計に高くなるよな」


「それは仕方ありませんわ」


 高級礼装の価格が高いのは多くの場合は製作期間が長くなるための人件費で、材料費ではなかったりする。


 無論、高級天然シルクなど材料を良いものにすればその分当然高くもなるが。


「そう考えると和装の紋付羽織袴のほうがフィッティングとかを厳密にしなくても良いから楽だよな」


 黒羽二重五つ紋や三つ紋の紬や紋付きでない羽織袴もできてきているが男の和装高級礼装の場合はそこまで厳密な区分けはない。


 俺がそう言うと北条先輩が言った。


「それに男性は洋装でも和装でも種類が少なくて楽ですわよね」


 俺は苦笑して答える。


「女性の場合は和装でも黒留袖・色留袖・振袖・訪問着・付け下げ・小紋・紬といろいろありすぎだよな、ドレスの場合でもそもそも統一デザインされたものはないし」


「そうなのですわ」


「それはともかくこれで挨拶回りに和服でも行けるな」


「訪れる場所によっては和服のほうが、印象も良くなる場所も多いでしょうからね」


「そうなのだよね。

 船橋とか市川とか千葉の幕張などに住んでいる富裕層は戦前とか下手すれば江戸時代から住んでいたりするからね」


「ああ、そう言えば頼まれておりました、業績のやばい和服の小売メーカーの買い取リも出来ましたわ」


「あ、随分と速いね」


「むしろ、現状では困っていない呉服や反物の小売メーカーの方が少ない様子でしたので」


「ああ、そうだろうね。

 まずタンスに死蔵されていたりする和服の買い取りを始めようか。

 あと普段から可愛らしく着られて、着るための手間とかもあんまりかからない、普段着や寝間着なんかをデザインしてもらおうぜ。

 もともとアカヒ新聞の連載漫画だった、留年忍者乱太郎に出てくる登場人物たちの衣装が参考になると思う。

 あの漫画は適当なギャグ漫画に見えて実は時代考証とかしっかりしていて衣装もちゃんと時代に合わせてあるし」


「なるほど、そのようなモデルになるものがあれば楽ですわね」


「あと留年忍者乱太郎も子供に受けそうだし、アニメ化したいところだね」


「子供受けは大事ですからね」


 そういったやり取りに乗ってきたのは浅井さんと横山さん。


「あ、じゃあ私達も頑張らないといけませんね」


「うんうん、そうだね」


 俺は苦笑して二人に言う。


「まあ主人公は少年だし女性声優のほうが多分あうとは思うよ」


 そして苦笑して二人が言った。


「銀河英雄神話のオーデションには落ちてしまいましたし……」


「男性声優は殆ど何らかの役にありつけたみたいだけど女性は厳しかったよね」


「まあ、あの話の登場人物には女性や子供は少ないからね。

 こればかりは仕方ないよ」


 そこで咳払いして北条先輩が言った」


「ともかく着物ははれの日や冠婚葬祭の時にだけ着る特別な服と言うイメージは壊すべきですわね。

 まずは秋葉原の声優喫茶での衣装に取り入れてみてはいかがでしょうか?」


「ああ、それも良いかもね。

 男性も着流しを来てもらえば良いかも。

 それに帯とかも別にいらないよな。

 ちょっと緩めのワンピースぐらいにイメージを崩してもいいと思うし、もっと歩きやすく動きやすく可愛らしくするべきだと思うよ」


 そこへ最上さんが割り込んできた。


「なんなら私がそういう服のデザインをしてもいいよ」


 俺はそれへうなずいた。


「下手に権威あるデザイナーとかに頼んだら古臭いデザインしか上がってこなさそうだしそのほうがいいかも。

 後家庭で簡単に洗えるっていうのも大事だし生地は綿とかポリエステルにしていこうぜ。

 少なくとも普段から着てもらえるようにするならそれは必須だと思う」


「それもそうですわね」


「値段もせいぜい1万円くらいにしないと売れないだろう。

 そして大きく宣伝して、洗濯や手入れも楽だってことを正面に押し出していこう」


「ええ、やるならそうしなければなりませんわね」


 実はバブルの頃にも化繊の安い着物を着物屋さんが売り出したけど、流行らなかったことがあった。


 それを叩いたのは高齢の女性や着付け教室の講師、それと繋がりのある和服メーカーなどだ。


 そういう着物は死ぬほど安っぽくて、ペラペラでダサいと彼ら彼女らが叩いたことでそんな事を言われるならもう着ないとなって、和服復活の機会は和服業界が自ら潰してしまった。


 そうやって若い女性が安い着物を着ているなら、それを叩けば高い着物を着て着付け教室に来てくれると思っていたなら馬鹿すぎるとしか言いようがない。

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