まずはデシタル通信を普及させつつ、データを大量に扱える光ファイバー網も構築していかないとな。

 さて、MTT株はある程度上がったら売り、利益を確定させるつもりだがそれもそう先のことではないだろう。


 現状の株価は明らかにMTTの収益に見合わないものだからな。


 それはそうとして電電公社がMTTになったのは日本が赤字国債の発行による、巨額の財政赤字が発生し、それを「増税なき財政再建」を名目として通信自由化に踏み切ったわけだが、これには日本全国の電話回線網の構築終了という判断もあったし、電電公社のファミリー企業に打撃を与えたい、アメリカの自由化に対するゴリ押しもあっただろう。


 もう電話回線をこれ以上敷設する必要性はなくなったというのが名目上の理由だったわけだが、実際に昭和53年(1978年)3月には電話加入申請の順番待ちが解消され、電話の普及が完了したとその時点で判断されていた。


 実際には携帯電話のアンテナ設置や光ファイバー回線の設置などはむしろこれからだったりするのだが。


 また日本の通信制度は、サービスではなく設備を主体に規制するものであるため、パソコン通信やそれに続くインターネットのようなデータのやり取りに合わせた制度設計は難しいと考えられてきたこともある。


 実際に通信自由化によってモジュラージャックが設置できるようになるまではカプラでしか接続できず回線は不安定なものだった。


 それがようやく比較的安定したものになってきたわけだがデジタル信号を用いたISDN回線自体は電信電話公社によって1970年代から研究が行われ、昭和59年(1984年)東京都の三鷹市・武蔵野市で現在のものと互換性のないインタフェースで実用化試験が行われた。


 現状では64Kbpsの通常回線を使用する一般向けのINSネット64と光ファイバーケーブルを使って1.5Mbpsのデータ転送が可能な企業向けのINSネット1500があるが、光ファイバー回線はごく一部しか使えないのが現状だ。


 電電公社は昭和56年(1981年)光ファイバー伝送方式の商用を開始し、国鉄関連会社の日の本テレコム株式会社も昭和59年(1984年)に門司港と門司の間に最初の光ファイバーケーブルを敷設したのを皮切りに、東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線、上越新幹線沿いなどに光ファイバーケーブルを敷設し、1986年(昭和61年)8月から企業等を対象とした専用サービスを開始しており、日本道路公団も光ファイバーケーブル敷設を開始し、昭和60年(1985年)には北海道から沖縄まで日本縦貫の光ファイバー伝送路ができている。


 しかし光ファイバー回線を家庭へ普及させるというのは現状では夢物語だったりする。


 まずその途方もない敷設コストを誰が負担するのか、高額な通信料金を個人が払えるのか、そもそもそんな広帯域通信回線を家庭で何に使うのかな、などだ。


 後々にインターネットが普及した時代とは違ってパソコン通信自体がまだ普及していない時代だからな。


 現状では光ファイバー回線を個人宅に持ってくるのは難しいだろう。


 まずは低価格なターミナルアダプタを東京四洋電機で開発してそれを販売してISDNサービスに加入をすすめるのが先だと思うけど、ADSLも回線自体は同じものを使えるからこれも90年代には普及させ2000年代には光ファイバー回線の敷設も進めたいけどな。


 そういうわけで俺は北条先輩にそれを話すことにした。


「北条先輩まだあんまり普及が進んでいない電話のデシタル通信を普及のために低価格なターミナルアダプタを東京四洋電機で開発していかない?

 幸い競艇の利益も俺たちの手に入ったわけだしさ」


 俺がそう言うと北条先輩はうなずいた。


「なるほど。

 たしかにそれがいいかもしれませんわね。

 ISDNならばファックスと電話が同時に利用できますし」


「そうなればパソコン通信している時に電話がかかってきて困ることもなくなるはずだからな。

 できれば自前の光ファイバー回線網を手に入れたいから、やっぱり日ノ本テレコムもほしいけど」


「それは日三自動車の買収が終わってからですわね」


「たしかにそうだな。

 いつもみたいなその業種であれば潰れかけの零細な会社でもいいって言う訳じゃないから日三自動車の買収は時間も金も掛かりそうだよね」


「とは言え豊畑との売上台数差は広がる一方ですし、会社の財務内容も現状では悪化する一方でありますので買収自体は今年中にはできるかとは思いますが」


「なるほどそれなら十分かな」


 まあ、日三自動車に関してはそんなに焦る必要もないとは思う。


 ただ現状のブラジルでは、サトウキビ栽培が盛んでバイオマスエタノールが国内で供給できることから、1970年代初の石油ショックの際に、自動車へのエタノール燃料の普及が進んでいて日三でもそれを取り入れようとしていたりもする。


 しかし、エタノール燃料を供給するスタンドの設置が進まずに販売は頓挫することにもなるから、そういった技術に深入りする前に買い取りたいのは確かだけどな。


 ”前”では日本でも2000年頃には、日本国内で複数のエタノール系燃料が流通・販売され販売会社が参入し一時的に市場が拡大、活性化したもののインフラ整備が進まず、高濃度アルコール燃料の腐食性の高さなど問題もあって結果普及には至らなかったからな。


 ただサトウキビや甜菜が栽培されていてエタノールバイオマス燃料の自給自足が可能かもしれない北海道や沖縄なんかでは利用できる可能性はあるけど、車の販売台数が少ないと研究費用のもとが取れないのだよな。

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