閑話:そのころのいろいろな人達の会話や思いなど
この夏に再度開園した谷津遊園で働いているアルバイトスタッフは自分たちの境遇に満足していた。
「バイトで時給1000スタートはありがたいわよね」
「働きしだいで2000円まで時給も昇給もするし、交通費も5万円までは支給されるし、安く入れる寮もあるしね」
「平日週5日の7時間勤務でも、土日のみ7時間勤務でもできるしね」
「その上保養所も安く使えて、働き次第では社員への登用も有るのだから助かるわよね」
「小さい子どもも、無料の託児所でちゃんと面倒見てくれるし」
「ちゃんとこまめに休憩も取れるしね」
「真夏の炎天下で休憩なしじゃ倒れちゃうよ」
「ちゃんと接客での言ってはいけないことのマニュアルもあるしね」
「ちょっと髪の毛の色とかにうるさいのが難点だけど」
「まあ金髪とかパーマだとスケバンみたいで小さい子は泣いちゃうし、しょうがないと思うけど」
「確かに!」
「でも、朝は入園券を売るところで、お昼は食堂車の食堂の接客、夕方は売店でお土産の販売とかあれこれやらないといけないのは大変だよね」
「まあ、入場券売り場がこむのは朝イチだけだし、食堂がこむのはやっぱりお昼だし、開園後すぐお土産売り場に行く人はあまりいなくて、お土産の販売は帰り際が一番混むからね」
「まあ、暇だからってぼっとしていてもしょうがないからね」
こんな感じで谷津遊園のアルバイトスタッフは概ね働く環境に満足しているようである。
いっぽうアドバンスドテクノスでの会話。
「俺には俺のやり方があるんだよ」
「おいおい、お前さんは””締め切りを守らない、守れない男で締め切り破りの常習犯”っていう悪評がもう付いているんだから、もう少し真面目にやれよ。
そんな調子だから仕事も減っているんだぞ」
「ウォーゲームの制作には綿密な調査も必要だからしかたないだろうが」
「おいおい、お前さんの単純な怠け癖もあるだろうよ。
うちを買い取った会社の社長なんかどんどん新作ゲームを発表して高校一年生で何百億円も稼いでいるらしいぞ」
「ちっ、羨ましい話だよな」
「そういや、お前さんにもその社長さんからコンピュータSLGの原作作成や架空戦記小説の執筆の依頼が来ているぞ」
「わかったわかった。
両方やってやろうじゃないの、だが俺のやり方には口は挟ませないがな」
「ああ、別にやり方を強制するつもりもないように口を出すつもりもないみたいだぞ」
「俺の好きにやっていいっていうのか?
それまた変なやつだな」
「ゲーム製作者なんて多かれ少なかれ変わっているもんだし、”ゲームを作るのは大変なのはわかってますから”と言っているらしいぞ」
「ほう、そいつは助かるな」
やり方に口を挟まないというところが気に入ったのか、彼はむしろその後は作品の製作ペースを上げていった。
やり方を押し付けられるとへそを曲げるタイプの芸術家気質のクリエイターというのは、好きにやっていいと言われると実際に好き放題やってしまい、かえって早く作品が仕上がるものであったりもする。
飛翔企画とアドバンスドテクノスはボードウォーゲームとカードゲームの市場形勢に大きな影響を及ぼしていたが、主なゲームメディアがコンピュータ関連に移行しつつあった時代にTRPGを発表した前田健二が保護したことにより、ボードゲームの衰退による売り上げ低下で経済的に苦しむこともなく、TRPG市場とともにボードウォーゲームとカードゲームの市場はさらに拡大することとなったのだ。
とある少年のかっての悩みは彼がSAGAハードのユーザーであったことだった。
誕生日のプレゼントにコンピューターゲームを買ってきてくれたのはいいのだが、それはホムコンではなくてSAGAのハードだった。
「コンピューターゲームなんてどれでも同じでしょ」
「ぜんぜん違うよ!」
SAGAのハードはゲームソフトがすごく少なく、人気もあまりないもしくはホムコンでも同じゲームがあるので、SAGAのハードはハズレだとすら思われていた。
それが大きく変わったのはジュエルスの発売だった。
このゲームは大人気でハードと一緒に買おうとしてもなかなか手に入らなかったのだ。
「おーい、ジュエルスの対戦しようぜー」
「あ、それいいな」
「いくいくー」
ホムコンの人気タイトルであるスーパーマリオンは一人がプレイしているのを他のものは見ているだけしか出来なかったが対戦型ジュエルスは2人で遊ぶことが出来、交代しながら遊ぶことも出来たため子どもたちが集まってゲームをするという意味ではホムコンソフトよりも人気が出たのであった。
そしてジュエルスの大ヒットもあってSAGAもサードパーティも徐々に増えていったことでホムコン一強とはならず、SAGAマーク3は十分人気ハードとなったのであった。
そしてアーケードゲームとしてもジュエルスや対戦型ジュエルスの人気は高く、あちこちのゲームセンターで連コ禁止とされ、達人のプレイするゲーム筐体の周りには人だかりが出来、ゲーム雑誌での特集記事がガンガン組まれるほどの人気となったのである。
「これはすごいな」
「まったくですな」
画面を覗き込む人物には背広姿の人がけっこう多く見られる。
外回りの営業サラリーマンがちょっとした休憩でゲーム喫茶を使っていたことが、エアコンの効いたゲームセンターでタバコを吸い、缶コーヒーを飲んで休みながら少し時間をつぶすという光景は珍しくなかった。
またジュエルスではスペースエイリアンやニャムコのゲームのような類似品や海賊版基盤は殆ど見られなかった。
そういったものに対してはSAGAとライジングの敏腕秘書が時には裁判をほのめかし、時には実際に裁判を行って、製造メーカーを叩き潰していったことでそういったパチモノが駆逐されていった。
そして対戦型ジュエルスの流行によって上級者の長時間プレイによるインカムの伸び悩みが解消される代わりに、対戦者同士のリアルファイトが起こるという新たな悩みにゲーセンは対処の必要が出てきたが。
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