釣りキチガイサンペーの矢口渡先生とお話できたよ

 さて、田沢湖町の田沢湖町観光協会の人たちによって、西湖でクロマスと呼ばれていた魚が、色々詳細に調べられた結果、田沢湖で絶滅したクニマスであることが正式に新聞で発表され、俺と浅井さんはクニマスの発見者として名前が乗った上で懸賞金の100万円ももらったが、100万円は浅井さんに譲った。


 恩賜園でまだ足りない物があれば、その100万円で買ってくれればいいと思うしな。


 そして今日は日曜日なのでたまには家でのんびりしろと言うか、あなたが休まないと私たちも休めないわよ、そうそう仕事ぐるいもいい加減にするです、と斉藤さんや朝倉さんに言われていることもあって、部室でお仕事しないで家にいる。


 ちなみに父さんは会社の接待ゴルフで家にはいないのでこの父あってこの子ありという感じでもあるが。


 しかも、いわゆる「接待ゴルフ」は、基本的には「労働時間」に含まれないのが原則で、休日に接待ゴルフにいったとしても、休日出勤扱いにはならなかったりするんだ。


 一応会社の命令や商談が係る場合は休日出勤扱いになるんだけど、そのあたりも明確に基準があるわけじゃないし、これもなんとかならないのかと思うんだけどな。


「母さん、やっぱ休みはちゃんと休まないと駄目かな?」


「そうねえ、私はそのほうがいいと思うわ。

 お父さんもお休みくらい完全に仕事から離れればいいのにね」


「そうだよなぁ。

 でもそうやって父さんが働いてくれるから俺たちが飢えたりしないですんでるんだから感謝するべきだと思うけどさ」


「たしかにそうね。

 それにしてもこのお魚が絶滅したって言われていたお魚なのね」


 母さんが水槽の中のクニマスを眺めながら感心したように言った。


「うん、そうなんだ。

 とりあえずは絶滅していなかったのはいいことだと思うんだよな」


 そして俺の家にすごい人がやってきた。


「こちらの家に生きたキノシリマスらしい魚がいると伺ってきたのですが」


「あ、ええと。

 田沢湖町観光協会の方ですか?」


「いえ、私は釣りキチガイサンペーの作者の高橋といいます。

 ああ、矢口渡やぐちのわたしというペンネームのほうがわかりやすいかな」


「あ、あの有名な矢口渡先生が?

 あ、どうぞ狭いところですけど上がってください。

 お母さんお茶とお茶請けを用意して!」


「あ、はいはい、ちょっとまっていてね」


「で、では、こちらへどうぞ」


「ではお邪魔させてもらうよ」


 というわけで先生にはお茶を飲んで一服してもらってから、俺と浅井さんが西湖で釣ったクニマスの前に案内した。


「これが、生きたクニマス………」


 先生はクニマスを見て感動しているらしい。


「たしかに煤をまぶしたような黒は木の尻と言われるゆえんだね。

 まさしく絶滅してしまったと言われていたキノシリマスだ。

 それに君がこれを発見してくれたおかげで行き過ぎたバスのスポーツフィッシングに歯止めが大きくかかったのは、釣りを愛するものとして礼をいいたい」


「あ、いえいえ。

 確かに釣りは楽しいものですけど、それで環境を破壊してしまうのは本末転倒ですからね」


「そうだね。

 釣りブームになったのは嬉しくもあるけど、自然と文明は調和が大切というのが私の持論だ。

 しかし、立入禁止の私有地や国有地などに無断で立ち入ったり、密放流をしたりするマナーの悪い釣り人が増えたのは悲しいことだったよ」


「マンガでは釣りの面白さだけでなくちゃんと、釣りのマナー問題や自然保護の大切さや環境問題も取り上げていたのですよね」


「うん、それでよければ君たちを、釣りキチガイサンペーに出演させてほしいんだ。

 君がサンペーや魚神と一緒にマス釣りをしたりとか。

 そしてそういった話の中で今後の釣具業界や社会全体のあり方なんかも描いていきたいんだがどうかな?」


「僕としてはむしろありがたいお話です」


「クニマスは、私が物心のついた頃には既に絶滅していた魚だった。

 ただ、その絶滅に至る経緯があまりにも愚かな経緯だったし、結局のところ田沢湖の水は農業用水としても使えないものにすらしてしまった愚行やバスアングラーたちの愚行もすべて含めて表現するドラマにしたいんだ」


「あ、はい、それは全然構いません」


「事実は小説より奇なりとはいうけど、ここまでドラマチックだとまるで私のマンガじゃないかと思ったよ」


「そうかも知れませんね。

 ああ、そうしたら部活と言うか会社の皆にも話を通しておいたほうがいいかな」


「君たちはゲームの制作もしているらしいね。

 もし釣りのゲームを作るなら協力をするよ」


「有難うごさいます。

 後、谷津遊園でクニマスを展示したり、釣り堀で釣りキチガイサンペーグッズを売ったり、釣り船や屋形船でも釣りキチガイサンペーを扱うようにしようと思うのですけど、許可をいただけませんか?」


「ああ、うん、それは大丈夫だよ」


「有難うございます。

 釣りだけでなくて後継者問題に悩む漁協とか漁業関係者のことがアピールできるようにもしたいですね」


「そうだね。

 釣りを楽しむ人は増えているけど漁業や漁協の関連で働いている人たちの高齢化や後継者不足は深刻になりつつあるし、私も協力するよ」

 

 その後お休みの所を悪いのだけど部員の皆に電話をして部室に来てもらった。


 そして、俺の家で矢口渡先生と話をした内容を大雑把に説明した。


「というわけで谷津遊園ではクニマスを展示しつつ、釣りキチガイサンペーのグッズとかでタイアップしていくんだけど、矢口渡先生の漫画にみんなキャラクターモデルとしてでてもらってもいいかな?」


 まず答えたのは会長。


「私は構いませんわよ。

 漫画に出演することで私達の行ったことを物語にするのと谷津遊園でのタイアップ企画として必要な金銭はそれで相殺ということでしょう?」


「あ、ああ、そんな感じではあるんだけどな」


 それから次は浅井さん。


「わ、わたしも構わないです。

 それで、お、お役に立てるのでしたら」


「あ、うん、助かるよ。

 浅井さんは俺と一緒にクニマスを釣り上げた一人だしね」


 俺がそう言うと先生が浅井さんをじっと見た。


「なるほど、そうなんだね。

 ちょっとスケッチさせてもらっていいかな?」


「え、あ、は、はい、大丈夫です」


 他のみんなも特に問題はないらしいので先生は皆の写真をとっていった。


「うん、ヒロインがこんなに沢山いると大変だね。

 では、皆さんご協力感謝します」


 そういうことで矢口渡先生は帰っていった。


「さてこうなったら谷津遊園にクニマスの展示スペースを急いで作らないとな。

 設置が早くて保温の問題もないドーム型住居を使うとしようか

 空調をちゃんと効かせて、餌の管理もちゃんとやってもらうようにしないと」


「そうですわね。

 なるべく早くにやるにこしたことはありませんしドーム型住居なら安くて早く住むでしょう。

 そもそも絶滅したと思われていたという魚を個人の自宅で飼育するというのもどうかと思いますけど」


 会長が最後に呆れたような口調でいったのは金になるなら早くやれということだろうか。


「まあ、確かにな」


 というわけでクニマスは谷津遊園のドーム住居の中で展示することになって、釣り堀などでサンペー関連のグッズを売ったりも出来たので、夏の間のプールに比べれば減っていた釣り堀の入場者が盛り返したんでかなり助かったよ。

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