やはり文化祭が華やかに盛り上がるのはいいことだ

 さて、文化祭の前日になった。


「母さん。

 メイド服の方は出来てる?」


「はい、一人2着ずつできているわよ」


「ありがとさすがだね。

 母さん」


 きっちり仕立て上がったメイド服を俺は学校へ持っていく。


「みんな、メイド服が仕上がったから、調理スペースの方で試着してもらえるかな?」


「ええ、わかりましたわ」


「わかったわ」


 皆にメイド服を渡して着替えてもらったが、英国のビクトリアンメイドの黒いワンピースと白いエプロンドレスを基調としながらも、手足が完全に隠れて見えないというわけでもなく、エプロンドレスにフリルがつくことで、なんとなくゴージャスで清楚なロングスカートタイプのメイド服でありながら、十分に可愛らしさもあり、しかしながらもともとの作業着としての活動性も損なわないバランスが良い。


「うん、みんなのメイド姿はすげーかわいいぜ」


「あーそういう事を顔色ひとつ変えないで素でいうのは部長ならではです」


 朝倉さんがそう言うと明智さんもウンウンと頷いた。


「そうそう、普通はもうちょっと照れたりするもんっす」


「え、美少女がメイド服着たら、めっちゃかわいいって思ったことを素直に言ってなにか変かな?」


 俺がそう言うと会長と斉藤さんが顔を見合わせつつ、ため息をついて言った。


「変ですわね」


「変よね」


 むむむ、なぜだ?


「あ、で、でもそう言ってもらえるととても嬉しいです」


「僕もそう思うよ」


「俺たちにそんなこと言ってくれる奴、今まで居なかったしな」


 浅井さん、佐竹さん、芦名さんは喜んでくれたようだ。


「じゃあ明日からの文化祭みんなで頑張ろうぜ」


 ウンウンと頷いて最上さんがニコっと笑い言った。


「うん、頑張ろー」


 その後、制服に着替えてもらい必要な食材を買ってきて、小分けで家庭科実習室の冷蔵庫などに入れて、翌日の文化祭当日を迎えた。


 今年は初日から本校生徒以外も入場が出来るようになったが、受験予定の中学生が最優先で、卒業生や在校生の家族も問題ないが、友人などへのチケットに関しては結構厳しいようだ。


「まあ安全管理や不審者対策のためこういうのも仕方ないか」


「今年は高校生クイズで優勝したこともあって、我が校を知って入場したいという方は大勢いたようですけども、きちんと生徒名が記載されたチケットをご持参していただかなければ問題が起きてもこまりますからね」


 会長がそう言うと斉藤さんも続けていった。


「それにあまり人が入りすぎて混雑しすぎても困るわよね」


「ええ、他所はあまり文化祭をやっていない時期でもありますからね」


 クラスの出し物も様々で、お化け屋敷や迷路、高校生クイズもどきやディスコもどきもあれば、真面目な文化的展示や教室での自主制作映画の放映もある。


 体育館では著名文化人の講演会などとともに演劇部や吹奏楽部、音楽部の活動や、有志の演劇やバンドの演奏なども行われたりしていて結構カオス。


 文化部の展示では華道部や書道部、美術部などはそれぞれの部室で作品を展示しているし、茶道部は優雅なお茶会を催している。


 この時期はまだ食中毒を防ぐための調理の食材の規制もゆるく、カメラを持っている人間が少ないこともあって写真撮影の規制も本来はゆるいのだが、今回は校内へのカメラの持ち込みや撮影は禁止となったようだ。


「ゲーム画面を写真に撮られてアイデアを盗まれても困りますしね」


「まあ確かにそうかもな」


 また1980年代の大学では恋人リサーチという企画が流行っていたのだが、その内容は恋人募集中の女性のプロフィールを男子大学生たちが、500円程度で買って家の電話番号を手に入れるというもの。


 89年には色々問題が表面化したし、家の黒電話ではなく携帯電話の電話番号やメルアドを直接やり取りするようになって廃れたが、流石に高校ではそういうものはやっていないな。


 でまあ俺たちのゲーム製作部はというと。


「いらっしゃいませ、お坊ちゃま、こちらのお席へどうぞ」


「いらっしゃいませ、お嬢様、こちらのお席へどうぞ」


「はい、対戦型ジュエルス、桃の子太郎討鬼電鉄、九州三国志やリズムマニアックスをやりたい方はこっちに並んで整理券を受け取ってください」


 とまあ、ものすごい盛況だった。


 メイド喫茶と言うと男ばかりというイメージがありそうだけど、むしろ女性客のほうが多い。


「私もあんな服着たいなー」


「すごくかわいいよねー」


「このタピオカって、かわった食感だけど美味しいね」


「ナタデココも美味しいよ」


 メイドさんによるおしゃべりなどのサービスはないけど、逆にそういうほうが安心できる所もあるんじゃないかな。


「はい、ふなばらっしーだよ」


「有難う、おねーちゃん」


 最上さんのホットケーキへのお絵かきも小さい子にうけてる。


「じゃあ俺は肉マシマシで!」


「肉マシマシピザ入りましたー」


 上杉先生は別のピザを気に入ったようだ。


「このペペロンピザはビールに合うな」


「というか先生も手伝ってくださいよ」


「私の分のメイド服はなかろう?」


「そりゃそうですけど」


 チーズのみのプルーンピザに焼き上がり後はちみつをトッピングしたものは女の子に評判だな。


 ちなみに対戦型ジュエルスで挑戦者を次々に蹴散らしていっているのは会長だ。


「うふふ、残念でしたわね」


「うぐ、後ちょっとだったのに」


 ちゃんと相手にもそれなりに気持ちよくなるようにさせつつも、制限時間になったら容赦なく連鎖で終わらせていく会長はさすがだよな。


 メイド喫茶と言うのはある意味舞浜のアレと同じような世界観を楽しむ場所でもあるからさほど不躾なことをするやつはいなかったし、大成功だった。


 強いて言うなら初日の食材が足らなくてメイド喫茶は最後の方はほとんど売り切れ御免でコーヒーなどの飲み物だけになったり、並んだ人全員に十分ゲームを楽しんでもらえるだけの時間がなかったことだけど、まあこれはしょうがないよな。


 翌日は食材を多めに仕入れたけど日曜日な分来場者も増えたせいか、結局夕方には売り切れちまったけどな。


 ちなみにうちの学校では後夜祭でキャンプファイヤーをしながらマイムマイムなどのフォークダンスとかは特になかったのである程度は当日に片付けて、翌日には元通りにしたよ。


 お祭りは片付けるまでがお祭りですってな、結構片付けは大変だったぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る