ゲーム展示とメイド喫茶の部屋は別々に借りようか
さて、文化祭の開催時期も近づいてきた昭和60年(1985年)9月22日。
本来、突如発表されるはずであったプラザ合意の発表は行われなかった。
理由はよくわからないが“123便”の事故が起きずにパオーイングのずさんな管理体制が明るみになって、アメリカの自動車や航空機がアメリカ国内で売れないのは業界の体制の問題だと理解したのかな?
いずれにせよこれによって急激すぎる円高は起きないで済むだろうし、日本政府、主に大蔵省による無理やりな内需拡大政策も実行されなければ土地バブルが起きなくなる可能性は高いし、急激な円高によりおきた、「半額セール」とまでいわれたハワイを中心とした米国の土地やビル、芸術品などの買い漁りや海外旅行や海外ブランド品の爆買なども起きず、賃金の安い国に工場を移転する企業も増えない可能性が高い。
当然、東南アジアや中国や韓国への企業や工場の進出や技術供与なども、その必要性が低下するだろうし、円高不況により町工場の突然の倒産閉鎖や地上げ行為の横行なども起きない可能性は高い。
とは言え株価や地価の上昇自体はプラザ合意がなくともすでに起きているので、今後も緩やかに上昇はしていくだろうけど。
そもそも実は、この年の1月にも同じ先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議、加えて6月にも東京で先進10ヶ国蔵相会議が開かれていて、財政赤字と貿易赤字という双子の赤字に悩む米国経済を他の先進国がどう支援するかという事自体は、とっくに話し合われていたのだから9月のプラザ合意で急激に話が進むのもおかしな話だしな。
それはともかくそろそろ特別教室の使用許可申請も出さないとな。
「会長、ゲーム製作部で家庭科実習室を一つと情報処理実習室の一つ、合わせて二つを使うのは可能かな?
できれば隣り合ってるほうがいいんだけど」
「それ自体は出来ますわよ。
ゲーム製作部というかあなたが学校の運営資金を増やしているわけでもありますし」
「それなら助かるよ。
調理や飲食のメインは家庭科実習室で。
ゲームの展示は情報処理実習室でやったほうがいいしね」
家庭科実習室ならガスコンロ、調理台、水道と流しに加えて、家庭科でクッキーを焼くためのオーブンなんかもあるからそれで調理を行ったり、皿やコップなどを洗うのもだいぶ楽になるし、家庭科実習室の調理スペースと食事スペ-スはそもそも別なので、文化祭の時は調理スペースと食事スペースをカーテンなどで区切れば喫茶店らしくもなるはずだ。
「調理は浅井さんと佐竹さん、芦名さんが中心にやってもらうのが無難かな」
俺がそう言うと斉藤さんは苦笑しながら言った。
「そうね。
彼女たちが一番調理は上手だし、そのほうがいいと思うわ」
「異議なしです」
朝倉さんに続いて明智さんも頷いた。
「そうっすね、自分らがやるより適役だと思うっす」
「浅井さんたちもそれでいいかな?」
俺が浅井さんにきくと浅井さん達は頷いた。
「あ、じゃ、じゃあがんばります」
「僕も問題はないよ」
「俺もそうしろってんなら頑張るぜ」
「あ、後、最上さんにお願いしたいんだけど、小さな子どもとかがホットケーキを注文したらホットケーキにチョコペンで“フナバラッシー”とかをお絵描きしてあげてほしいんだけどどうかな?」
これに対しては笑顔で最上さんは答えてくれた。
「ああ、そういうアイデアなら大賛成ですよー。
ちっちゃい子ならきっと喜んでくれるよね」
「と、思うんだ」
そして実際にホットケーキやハニートーストを浅井さんたちに作ってもらってみて試食してみた
「うん、これなら十分お金を取れるな」
「そ、それなら良かったです」
市販の冷凍ピザでもそれをただ焼くんじゃなく、薄くスライスしたじゃがいもやトマト、輪切りにしたピーマンやウィンナー、ベーコンやほうれん草、コーン缶のコーン、冷凍エビやツナ缶のツナ、小さなホタテなどを乗せてマヨネーズやケチャップ、溶けるチーズを乗せればミートミザやシーフードピザ、ツナマヨピザなど色々バリエーションを作れるし、ポンカレーでカレーソースピザにすることも可能だ。
「冷凍ピザの具材を追加するとなかなか侮れない味になるです」
感心したように朝倉さんが言った。
「だろ、一時期ピザにハマってそればっかり食っていたことがあってさ。
そのときに色々やったんだ」
明智さんも笑顔で食べながら言っておる。
「サンドイッチもそうっすけど、ピザは片手で手軽に食べられるのがいいっすよね」
「ああ、だからゲーム喫茶には丁度いいだろ。
サンドイッチと違って生野菜を使わないから食中毒になる可能性も殆どないし」
生クリームを使うケーキやクレープを今回加えないのは、生クリームは意外と食中毒の原因になりやすいからだ。
チュロスやドーナッツなら食中毒の心配はないし、ある程度は作り置きも出来るけど、下準備が結構手間なんだよな……来年は取り入れるか。
まあ、手間だけで言えばタピオカに比べればどうってことないとも言えるけど。
「あ、そうそう。
お客様を迎える時に若い女性なら”いらっしゃいませお嬢様”。
若い男性なら”いらっしゃいませ、お坊ちゃま”。
壮年男性なら”いらっしゃいませ、ご主人様”。
壮年女性なら”いらっしゃいませ、奥方様”。
とメイドっぽくそれぞれ挨拶を使い分けてくれな」
「そんなことまでするんですの?」
会長がそう言うので俺は頷いた。
「そういうコンセプトにしたいしさ」
俺がそう言うと斉藤さんが一つため息を付いてから言った。
「まあ、言いたいことはわかったわ。
今回はそれで行きましょう」
会長もため息を付いてから言った。
「まあ、それで売上が上がるなら良いですわ」
そんなことをしながら、純喫茶店風の内装の飾り付けやゲーム筐体の中に虫などが入っていないことを確認して、展示のための運び込みや動作の確認などを終えて文化祭当日を迎えたんだ。
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