メイド服を仕立て上げるのには母さんの力を借りるか

 さて、ゲーム製作部の出し物は、ウエイトレスが、メイド服で給仕接客をするメイドゲーム喫茶になったわけだが、ここでまず色々問題が。


「ところでメイド服はどうやって用意するのでしょう?」


 会長からそういう質問が出たがのだが、まだ現在はメイドカフェブームの前なので既製品のコスプレ衣装としてはほぼ存在せず、日本でのメイド文化はほぼ定着しなかったので専門店などもないし、大正時代のウエイトレスは和装にエプロンという”牛車道”のような和洋折衷の服装だったりするので、ちゃんとしたメイド服を手に入れようと思えば輸入するか自分らで仕立てるしか無い。


 後にブームになるメイドカフェのメイド服自体、”アノナミラーズ”の制服のようなアメリカでメイド服から変化したウエイトレス制服や、デーニーズのようなファミレス制服の系譜の流れが、漫画や小説の中で、出てくる大富豪の洋館のメイドが、エロゲーに持ち込まれて変化した物に近いしな。


「それに関しては洋裁が上手い人に頼んで作ってもらうのが一番早いと思うんだ。

 なんで、俺の母さんがミシンは使えるから頼んでもいいかと思ってる」


 この頃の雑誌では手編みのセーターや自分でミシンで縫うベストやスカートなどの特集などもまだまだ多くて刺繍なども普通に趣味でやる女性も多く、まだ家で服を作っていた人も多くいた。


 ”洋服が手作りなんてダサい”とは言われない時代だったんだな。


 これはまだ既製品の服を買うと高く付き、デザインもさほど豊富でないため、お気に入りの服を探すのはまだ難しいからで、80年代後半はバブルによるデザイナーやブランドの増加で洋服のデザインも豊富になって、まず自分で作らなくても個性的なものが買えるようになり、さらに服を安く売る衣料品販売店の出現とともに、高いから作ったほうが安いという理由も消失して、毛糸の手編みや洋裁、刺繍というのはコアな趣味になって、自作は小物などに移っていくのだが、85年ならまだ自分だけの服をミシンで縫うということはそこまで珍しくもない。


 とはいえ日本の家庭用ミシンの生産量は1969年には434万台に達するまでは増加したが、世帯普及率が限界に達するとともにオイルショックもあって頭打ちとなり、80年代以降はどんどん販売台数が減っていって、2005年の生産はわずか23万台にまで激減したりもするが。


 なので70年代から80年代前半のミシンは実際に洋裁をするのに向いた、金属部品や金属ボディの頑丈なミシンが多く、ボタンホールやジグザグ縫いなどの便利な機能もついているし、自分たちでメンテナンスしやすいようにも作られている一生使えるものなのだな。


 まあ金属製なので持ち運びするには重すぎるため、ある程度場所を専有してしまったりはするのだけど1970~1980年代にはそれでも軽量化が進んでいたりはする。


 ちなみにミシンは何も服だけではなくバッグや靴などを縫うのにも使われているのでその後は中国や東南アジアでの現地生産で日本企業はミシンに関してのシェアトップだったりするんだけど。


「では前田さんのお母様にお願いいたしますか」


 斉藤さんが頷いた。


「まあ、それなら安心ではあるわね。

 何なら私のお母さんにも話をするわ」


「そのほうがいいかもね」


 というわけでみんなで俺のうちへ向かう。


「母さん、文化祭でメイド服でウエイトレスをみんなにやってもらいたいからそれを縫ってもらえないかな?」


「あらあら、みんなでメイド服を着るの?

 それは面白そうね。

 えぇいいわよ」


 一応この頃のきせかえ人形のビーバーちゃんなどにはメイド服があるし、家政婦ではなくメイド姿の使用人がメインのドラマもあるのでいちいちメイド服がどういうものか説明しなくてもいいのは助かった。


「じゃあ型紙を取るのにみんな採寸しないといけないわね」


「あ、うん、母さん、あとはよろしくね。

 みんなは採寸がおわったら下に降りてきて」


「わかったわ」


 というわけで服作りのはじめは各自の採寸から始まるのだが、基本的には下着姿なり体操着など体の線がでるような状態でやるものだから俺は同席しない。


「まあ、飲み物やおやつでも用意しておくか」


 といっても家にあるのは麦茶とか、お中元の水羊羹とか、フルーチェにレディボーデンくらいだけど。


「ふう、やっと終わりましたわ」


「ん、会長、お疲れさん。

 麦茶を飲んで水羊羹でも食べてくれ」


「わかりましたわ」


 そんな感じでゲーム部の皆や、ほぼゲーム部になってる千葉さんや芦名さん、佐竹さんなども含めて皆の採寸ができた。


「母さん今月の月末までにみんなの分、ちゃんと出来上がる?」


「大丈夫よ、任せて。

 でも斉藤さんのお母さんにも手伝ってもらおうとは思うわ」


「あ、うん。

 手伝ってくれる人がいたら手伝ってもらって。

 生地や糸の代金とか、ミシンを縫う時間の手間賃はちゃんと出すから」


「あ、大丈夫よ。

 そのあたりはちゃんと会長さんから話してもらってるわ」


「あ、そうなんだ。

 さすが会長は抜け目ないな」


 とりあえずメイド服を皆の体の大きさに合わせてきっちり仕立て上げることに関してはクリアできそうだ。


 それとちょっと思ったんだが、こういう洋裁技術を持つ子育てが終わりかけたお母さんたちに内職として、将来的に考えている谷津遊園の侍や忍者や、アニメのコスチューム制作などを依頼するというのもいいかもしれないな。

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