9月末開催の文化祭の準備に入ったよ

 さて、うちの高校では9月に文化祭があるが体育祭はないというちょっと変わった学校だ。


 あ、ちなみに浅井さんは俺達と一緒のクラスに編入してきている。


 そして文化祭は元女子校だからなのか中学生は誰でも入ることが出来るのだが、高校生は在校生による紹介チケットが無いと入ることが出来ない。


 さらに体育館の舞台で行われる文化部の部活動の企画や外の屋台などは盛り上がるのだが、教室で行うものはあまり人気がないらしい。


 要するにクラスや部活によってそのやる気にかなり差があったり、内輪だけで楽しんでいる感じが強いのだが、それも準備期間がほとんど無いことが原因らしい。


「会長。

 文化祭は中学生に高校の雰囲気や先輩たちの様子を知ってもらう絶好のチャンスだし、もうちょっと準備期間とかもちゃんと用意したほうがいいと思うんだけど、どうかな?

 その方が結局はカネになると思うよ」


「なるほど現状では土曜日は学校内だけの催し物ですけど、確かに埋もれている優秀な中学生を呼べるように、変えられるなら変えたいですわね」


 学校の文化祭というものの歴史はさほど長くなく、太平洋戦争の敗戦後にクラブ活動などができるようになり、40年代後半から50年代くらいにその発表の場として文化祭が始まったらしく、その頃はクラスでの参加というものはなく、あくまでも文化系クラブや有志の生徒の発表が中心だったらしい。


 それが60年代になると、受験競争が激化してクラブ活動どころではなくなり文化祭の文化的活動も停滞したため、文化祭でクラスを参加させる高校が増えたが、70年前後には学園紛争が高校にも広がり、クラス参加の出し物が文化とはあまり関係ない飲食店やお化け屋敷が増えていった。


 70年代も後半になると学園紛争の影響も去って娯楽的要素を薄めて、制作物の展示や自主制作映画などの文化的な出し物を増やそうとしたが、先生は展示をさせたいが、生徒は従来どおり飲食店やお化け屋敷をしたいというような対立が増えたらしい。


 そして80年代はそれに引き続いている状態ではあるが、この時期は文化祭の来場者も多く出し物も「自主制作映画」と「文化的な展示」が多いわけだが、それが面白くないと感じる生徒も多いんだろうな。


 ただ、文化祭が一番盛り上がっているのがこの時期で、部屋を暗くして音楽をかけてディスコもどきにしたり、コントやバンドも流行りなんだが、コントやバンドは素人がやると滑る可能性が高くて、黒歴史になることも多い。


 しかし、バブル期以降はガラケーで他校とのつながりを持つのも簡単になって、寧ろクラスの知らないやつと一緒に準備とか、かったるいという学生も増えていったりする。


 さらに食中毒や火事を防ぐための調理方法や食材の規制や写真撮影の規制、文化祭の最中に発生した殺人事件による入場規制の強化などもあって、女子校は特に入場規制が厳しくなったらしい。


 それはともかく俺たちも一応文化部なので出し物を考えないとな。


「できれば文化祭までには対戦型のジュエルスとリズムアクションゲームを完成させて、SAGAに持ち込みみつつ、文化祭ではそれらが試しに遊べるゲーム喫茶にでもしようかと思うんだけど、どうだろう?」


「特に問題はございませんわね」


 会長がそう言うと


「でも、学校外のここの部室でやるわけには行かないよね?」


 と千葉さんが首を傾げた。


「情報処理の実習室を借りればいいんじゃないかな。

 もともとあっちが部室だったわけだし」


 と俺はフォローする。


「それなら問題はなさそうね」


 斉藤さんがうなずくと朝倉さんも頷いた。


「なら早く完成させないとです」


 リズムゲーは俺と朝倉さんの担当の比重がでかいからな。


「すまないけど、よろしく頼むよ、朝倉さん」


「わかってるですよ」


「提供する飲み物にタピオカやナタデココを出してみるのも面白いかもな」


「タピオカにナタデココですの?」


「ああ、台湾とかフィリピンで飲まれたり食べられてるデザートだな」


 台湾では1983年にお茶専門カフェでタピオカミルクティーが発売されて、タピオカの日本への輸入自体も既にはじまっているんだけど、需要はごく少数の中華料理店だけだったりするが1992年に大ブームになった。


 ナタデココはフィリピンの特産品で、パフェとかき氷を合わせたようなデザートである「ハロハロ」に入れるのが一般的な食べ方らしいが、1970年代後半には既に日本でもフルーツ缶に入れた物が一応売られているが、まだまだマイナーで1993年に大流行した。


 これらの前に流行したのはティラミスだったりするんだけどな。


「あなたが言うことですからおそらく外れはないでしょうけど、一度皆で試食して決めたほうが良さそうですわね」


 会長がそう言うと最上さんが付け加えてきた。


「そうだね、部長は変なとこで常識ないしー」


「ま、まあ、そうだな、みんなで食べてみたほうがいいだろ」


 というわけで業務用スーパーで、タピオカとナタデココやみかんなどの缶詰を買う。


「タピオカは茹でるのに時間がかかるからまずはナタデココから行こうか」


 大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし沸騰したらタピオカを入れ、ふたをして弱火で60分茹でながらくっつかないようにして、かき氷のカルピスをかけ、その上にみかんやパインなどの各種の果物や缶詰の煮豆、アイスクリーム、ナタデココを乗せた即席のハロハロを作る。


「なんだかみつ豆に似てるね」


 千葉さんがそう言うので俺は頷いた。


「確かにそうかもな、とりあえずみんな食べてみて」


「りょうかい、あ、これ美味しい」


 千葉さんは気に入ったようだ。


「なんだか変わった食感ね」


 斉藤さんはいまいちかな?


 ナタデココの触感がいいという人もいれば嫌だという人もいるからこれはしょうがない。


「これはいけますわ」


「私もいいと思うです」


「自分もいいと思うっす」


 会長、朝倉さん、明智さんは気に入ったみたい。


「うーん、私はみつ豆の寒天とかのほうが食べやすくていいかなー」


「わ、私もちょっと苦手です」


 最上さんと浅井さんはちょっと苦手か。


「酒のつまみにはいまいちだな」


 上杉先生はそう言ってバッサリ。


 タピオカをミルクティに入れて食べた感想もほぼ同じだった。


「えー、そりゃ酒に合わせることは考えてませんよ。

 まあそれはそうとして、どうせならウエイトレスをする時“エプロンドレス”や“ホワイトブリム”のメイド姿で接客するとかどうかな?」


「また部長が変なこと言い出したです」


 朝倉さんが俺をジト目で見ているがそれを遮るように会長が言った。


「‘ヴィクトリアンメイド’の姿で接客ですか。

 話題作りはできそうですわね」


「ああ、多分受けると思うよ」


「ではやりましょう。

 売上が上がるならやるべきです」


 実際にもう“アノナミラーズ”とか“兵庫屋レストラン”みたいな変わったウエイトレス制服で人気の飲食店はもうあるし、下地はあると思うんだ。


 ”牛車道”みたいな和風のウエイトレス姿もそれはそれで人気は出そうなんだけどな。

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