この事件が契機になって児童養護施設の制度や法律などが変えられたみたいだ

 その後、恩賜園に残されていた写真や日記に基づいて警察が立ち入り調査した結果、乾燥機の中に入れてそれを回した結果、虐待死させた子供を焼却炉で燃やした上で骨は敷地のハズレに埋めていて、その子供が死んだことを隠して人数を報告していたこと、児童相談所及び県児童家庭課の職員には金を握らせてもみ消していたことなど、ここで行われていたあらゆる悪事が発覚して、警察は失踪した院長やその一族、関係していた職員を殺人、死体遺棄、傷害、婦女暴行、詐欺、公文書偽造、贈賄で、児童相談所及び県児童家庭課の職員たちは公文書偽造と収賄で即時立件起訴し全国へ指名手配を行った。


 公務員は実刑相当になると懲戒免職されるのでその家族はとばっちりだが、ある意味共犯とも言えるから仕方ないと思う。


 それによりマスコミがやってきたが俺は彼等を中には入れなかった。


「今は子どもたちをそっとしておいてあげてください」


「そこをどうにか、子どもたち今の心境をきかせてください。

 でなければせめてなにか話題になるものを」


「じゃあ中に入ることは許可しませんが、日記と写真は提示します。

 ただし子どもたちの顔は絶対に映さないでください」


「わかりました、ありがとうございます」


 さらに俺はこれまで園から高校に進学した子どもが、まったくいなかったこと、冬でも防寒着などを支給しなかったこと、おもちゃや本などもまったくないことを訴え、園長の虐待をなんとかしようとした子供はおいだされて教護院に送り込まれたことなども伝え、子どもたちの顔を隠すことを条件に、乾燥機に子供を入れて回す、金属バットで顔を殴る、生ゴミバケツに頭から入れる、麻袋に入れて一晩吊るすなどということが行われている写真や、その結果無数の痣や傷跡が残っている腕など虐待の証拠になる写真を彼等に提示した。


「どうやら他の園児を脅すために写真を撮って日記を残していたようですけどね」


 俺がそう言うと記者は苦笑していった。


「それが悪事の証拠として堂々と残るとは皮肉ですね」


 すると、それは即座にテレビニュースになって流れ、新聞や週刊誌でも大々的に報道され、日ノ本共産党や日ノ本社会党などがそれを理由に県や国の責任を問いただし、厚生省、千葉県、千葉県警へ避難の電話や手紙などが殺到し、ようやく重い腰を揚げた厚生省からの指導で千葉県もそこまで虐待を放置していた責任を地方公務員法第30条違反(すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならないというもの)に違反していると責任を問われて、子どもたちへの賠償責任をおうことになり、警察が全国各地にある児童養護施設への強制捜査に踏み切って、施設の一族支配、同族経営による私物化による同様な事件が次々と発覚して逮捕者が続出し、知事や児童相談所や県児童家庭課、全国児童養護施設協議会の人間などが多数辞職するに至ったが、これで退職金が出るとかもまた問題になった。


 ちなみにいくつかのテレビや出版社では何故かこの報道をしていない場所もあったけどな。


「流石に虐待死させてそれを焼却炉で焼いたりしてる施設は他にはないみたいだけど、虐待や婦女暴行なんかはいっぱいあったみたいだし、こりゃひでえな」


 その結果、児童養護施設の制度改革などが行われて、財務諸表の開示を社会福祉法人に対して毎年行うことが義務付けられ、施設長の資格の失効規定が明示され、管轄が都道府県から市区町村に移り、入所者の人権侵害をしたり、不正運営をした場合には、施設長の資格を失効させ、虐待など人権侵害が行われたり、不正運営をした際の刑罰がイギリス並みに重くなって、子どもへの性的虐待は、被害児一人につき10年以上の懲役などになった。


 これは傷害致死や殺人未遂に匹敵するかなり重い刑罰だが、保護者がいない児童保護施設の子どもたちには事実上反抗できない状況にあったことが重要視されたようだ。


 また全国から古着だけでなく新品のコートやセータなどの防寒着や普通の衣服、ランドセルやカバン、積み木、パズル、野球盤や人生ゲームなどのおもちゃ、絵本や本などが園に寄贈され、現金での寄付も多額に上ったことで俺達は嬉しい悲鳴をあげることになったんだ。


「まあ壊れて押入れに投げ込んだようなものまで中を確かめないで送ってくるのはどうかと思うけど」


 俺がそう言うと斉藤さんは苦笑しつつ言った。


「まあ、悪意はないでしょうから使えそうなものは直して使って、どうしようもないものは捨てましょ」


 そして高校へ行けていなかった人たち30人ほどは改めて俺たちと同じ学校へ高校一年として行くことになった。


「きっちり勉強してもらって、卒業したら私達の会社でガンガン働いてもらいますわ」


 会長がそう言うのがちょっと引っかかるがな。


「まあ、今までいけてなかった高校へ行けて、就職先も安泰ならそれもいいのか?」


「いいに決まってるではございませんか。

 経理や庶務そのうちに専門にやって貰う人がいたほうが良いかとは思ってましたしね」


「まあ商業科ならそういうのもバッチリ教えるもんな」


「そういうことですわ。

 寄付や賠償金で学費分は補填できますし。

 まあ編入入学は二学期からですけど」


 そしてこの施設の子供達が笑顔になってくれたのはとっても嬉しい。


「上杉先生、ホムコンやSAGAマーク3なんかを寄付したいから、園まで車をだしてもらえますか」


「おお、構わんぞ。

 ガソリン代はそっちの金で落ちるんだろ?」


「ええ、なのでレシートは捨てずに持っていてくださいね」


「ああ、わかった」


 というわけで上杉先生の車を使って、ホムコン2台、SAGAマーク3を2台と、それぞれのカセットなんかを持って俺たちは園にいった。


 そして少しだけ残った職員さんにそれらを渡す、早く新しい職員さんも入れないとな。


「これ、男の子用と女の子用で1台ずつになるんで渡してあげてください」


「ああ、本当にありがたいよ。

 ああ、うちの子供がぜひともお礼を言いたいって言っていてね。

 お~い浅井、新しい理事長たちが来たぞ」


 そこで園の子供代表として一人の女子がやってきた。


「こ、この度は本当にありがとうございました。

 皆様のおかげでたべられるものが美味しくなったり新しいお洋服を着たり綺麗なランドセルを背負えて何よりこれからは蹴られたり殴られたりバリカンで髪の毛をそられることなどもないとみんな喜んでいます」


「うん、それは良かった。

 なにか不都合なことがあったら言ってくれれば俺たちで対処できそうなら対処するよ」


「あ、はい、本当にありがとうございます。

 よ、よろしければ私にもお仕事を手伝わせていただければと思います」


「あれ、ああ、2学期からうちの高校に編入するんだね。

 うーん会長はどう思う?」


「うちで働くというのであれば当然なにかお金を稼ぐアイデアなどを示していただかなくてはなりませんわ」


「え、ええと……私にはこの体くらしか無いですけど……」


 そういえば彼女はすごくきれいなアニメ声をしてるな、ちょっとおどおどしてるのが何だけど。


「じゃあ、今考えてるアーケードゲームのヒロインの声を当ててもらおうか」


「ひ、ヒロインの声ですか?

 わ、わたしが?」


 なんかすごく驚いてるけど変なこと言っただろうか?


「うん、まずはトレーニングとかも必要だと思うけど、そういう人も欲しかったんだ」


「う、うう、はい、一生懸命がんばります」


「そう言えば名前を聞いてなかったっけ。

 俺は前田健二だ」


「私は浅井久子あさいひさこといいます。

 どうかよろしくおねがいします」


 会長は首を傾げてる。


「声を当てるってそれでお金になるんですの?」


「うん、タイムガールみたいなLDゲームなら声も入れられるしね。

 そうすればまた受けると思うよ」


「まあ、お金になるのであればわたしも反対はいたしませんわ。

 そのかわりキリキリ働いてもらいますわよ」


「あ、は、はい、がんばります」


 こうしてゲーム制作部にまたしても部員が増えたのだった。


「また部長はナチュラルに女を口説いてやがるです」


 朝倉さんがそう言うと明智さんがウンウン頷いてる。


「自覚がないのが困りものっすよね」


 いや俺は誰も口説いてないからね?

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