入学直後は結構行事が盛り沢山、そして美人で理事の娘の生徒会長から呼び出されちまった

 4月7日、第57回選抜高校野球大会は、高知の伊野商業高校が大会初出場で初優勝、大阪のPL学園高校は準決勝で同校に敗退している。


 そして、入学式の翌日は新入生歓迎会がある。


 これは生徒会が主催するもので、入学式では直接会うことのなかった在校生の二年生や三年生が、新入生の入学を歓迎し、同時に部活動や委員会の紹介や部活や委員会活動の内容などの実演によるアピールを行い、その後に勧誘するというもの。


 最初の生徒会長から新入生への入学おめでとうの挨拶があり、その後で各部活はこれが最大の勧誘チャンスなので一所懸命に実演アピールをしているが、“新入生になんとか興味を持ってもらって自分たちが所属してる部活に入部してほしい!”という気持ちがよくわかるな。


 まあ人数とかで部費も変わってくるだろうし、部活自体はそれなりに活発みたいだし、新入生もなんだかんだで部活のアピールを楽しんでるやつもいるが、半分ぐらいは興味がなさそうだな。


 部活に参加する予定の奴は、歓迎会後の中庭での部活勧誘で話を聞いたりして、部活入部の選択と決定の参考にしているようだ。


 実際の部活見学は明日以降なんだけど。


「まあ俺はサッカー部入部って決まってるけどな」


 はははと笑いながらいう彼は“前”の俺を見ているようで羨ましくもある。


「そりゃ武田くんはそうだろうけどさ」


 最初から推薦で関係する部活の成績で入ったやつには当然部活に関しての選択肢はないし、ここは正規の手続きを踏めばバイトもいかがわしいものじゃなければ許されてるからバイトをする帰宅部も多いようだ。


 最後には新入生代表の挨拶でこれまた俺がやるわけだが、入学式の時と同じように、俺はとにかく無難でなんとなく立派だけど特に目立った内容はない挨拶を行なって、滞りなく終えると大きな拍手で幕を閉じた。


 まあ無難にこなせば問題なかろう、と思っていたら何故か生徒会長から個人的に呼び出しを受けることになった。


 挨拶をしているときにも思ったが容姿端麗、スタイル抜群、なおかつ噂だと、頭脳明晰、成績優秀、運動神経抜群で生徒会長としても運用実績は安定していて、理事長の娘のお姫さんという完璧超人らしい。


 どこのラノベのヒロインだってくらい、文句のつけようがない存在だな。


「私は二年で生徒会長をやっていて、この学園理事長の娘の北条精華ほうじょうせいか

 貴方が今年の新入生の総合成績でトップ入学で特待生の……えーと」


 なぜそこで言葉に詰まる?


「前田です、理事長の娘で生徒会長の北条さん」


 なんでこんな立場をひけらかすような自己紹介をしてるんだろうな、この人?


「そうそう前田くんね。

 話をしたいから生徒会室に今から来なさい」


「えと、申し訳ありません。

 今から部活勧誘を見に行きたいんですけど、どのようなご用件ですか?

 生徒会への勧誘とかでしょうか」


「そうね、そう考えてもらってもいいわ。

 もっともすぐに生徒会へというわけじゃないですけれど」


 俺は少しだけ考えたがここで断ってもどっかで時間は取らされるだろうと考えて承諾した。


「わかりました、生徒会長の話をお聞きしましょう」


 というわけで俺はなぜか生徒会長の話を聞くことになった。


 できれば部活の勧誘で情報処理部の部活内容は直接聞いておきたかったんだが、まあ明日以降の見学で確認すればいいか。


 そして生徒会室に到着して机の上に置かれてたのはマークシートの模擬試験用紙と筆記用具。


 そして頭の良さそうな先生も一緒にいるんだが生徒会の顧問とかなんだろうか?


「まずは、この模試を受けてもらうわ」


「いきなりですか、それまたなんで?」


「あなたの、本当の学業成績を知りたいのよ」


「はあ、よくわかりませんが、個人的な俺の勉強の成績が知りたいんですね?」


 よく意味はわからないが、とりあえず俺は席に着くと筆記用具を手にして、模試の問題を見て、正解だと頭に浮かぶマスを埋めていく。


「はい、できましたよ」


「ずいぶん早いわね。先生、回答を確認していただけますか?」


「ええ」


 そして添削をした先生が驚いてる。


「素晴らしいですな、おそらく東大模試での偏差値では75を超えているでしょう。

 東大過去問の理科Ⅲ類でこれだけの成績が今あるのであれば間違いなく現役合格できるでしょう」


 先生の言葉に生徒会長は嬉しそうだ。


「そう、やっぱり思ったとおりね」


 なにがやっぱりなのかあまり意味がよくわからないが、生徒会長は俺に向かって言った。


「前田君、特待生である貴方には我が母である理事長もおおきく期待しています。

 ぜひ現役で東大へ入学してください」


「はあ、もともと社会にでた時にコネとか学歴は必要でしょうし、東大は目指すつもりでしたけど……わざわざなんでまた生徒会長自らそんなことを?」


「もちろんこの学校の宣伝に大事だからよ。

 今うちの学校から進学してる大学はどういったところか知っているかしら?」


「千葉商科大学が多いはずですが、国士舘大学、日本大学、駒澤大学、学習院大学、早稲田大学、明治大学、國學院大學、千葉大学、法政大学、筑波大学といった大学への進学例もあるはずですね」


「あら? よく調べているわね。

 でも、東京大学とか京都大学への進学実績はないのよ」


「それだと駄目なのですか?」


「東大は関東圏で一番ですからね。

 やっぱりわかりやすく一番じゃないと駄目なのよ」


 実際東大・京大・東工大・一橋大が事実上日本の大学四天王らしくてそこへの入学実績がないと難関大学への進学を目的とする生徒はやっぱり集まりづらいんだろうし、東大卒業って世間的にもわかりやすいよな。


「まあ、それはなんとなくわかります。

 筑波大学の理系学科なら倍率や入学難易度だと東大とそこまで大きくは変わらないはずですけど」


 いわゆる旧帝国大学ブランドはやはり伊達ではないらしい。


 私学では早慶上理ICUに入る早稲田や上智、GMARCHにふくまれる明治、法政、学習院といったあたりに進学していれば本来は十分な成績だとも思うんだがな。


「先程も言ったとおり世間にはわかりやすさが大事なの。

 だからこそ入学金や学費を免除している貴方にはなんとしてでも東大に現役合格してもらわなくては困ります」


 金の話をされるとまあぐうのもでないところはある。


「わかりました。可能な限り善処します」


「いい返事ね。

 もし貴方が現役合格して優秀な成績で卒業できたら私の伴侶パートナーにしてあげても構わないわよ」


「いや、俺にはもう大事な仲間パートナーはいるんで」


「あら? わたしのなにが気に入らないのかしら?」


「気に入らないって言うより、せいぜい中流家庭の俺と学園理事の娘のお嬢様じゃ釣り合いもとれないでしょう?」


「ふーん、なかなか面白いわね、あなた。

 普通の男子生徒なら舞い上がるとこなはずですのに」


「まあ、一応普通じゃない自覚はありますよ。

 ところで、部活に関してですけど情報処理部ってなにをしてる部活ですか?」


「主にパソコンを使った検定試験を受けていたり、学校内の行事パンフレットをパソコンで作成したりといった活動を行なっているみたいね」


 まじめか! よくあるだべってパソコンでゲームをするとかじゃないんだなっていうか、値段的にもこの頃はゲームのためにパソコンを使うとかあんまりないか。


 俺だって将来の仕事のためにってパソコンは買ってもらっていたし。


「うーん、じゃあゲーム制作部って新たに立ち上げることはできますか?」


 それがそう聞くと生徒会長は首を横に振った。


「いきなりは無理ですね。

 まずは活動の構成員の獲得の確定、顧問教員の依頼と受理の決定、活動目的・活動目標の具体化の書式化とそれを生徒会への設立申請をしてもらって、まずは同好会などとして設立し、その実績が認められれば、部活動に昇格できるとは思います」


「つまり部室や部費はなくても良ければ、同好会の設立なら可能ということですか?」


「そうですね、もしくはその活動でわが校の名を高めることができればまた話は別でしょう」


「わかりました、ちょっと考えてみます」


 そう言って俺は生徒会室をでた。


 まあ、特待生として入学したからとうぜん目立って調べられたところはあるんだろうけど、プライバシー保護的にはどうなんだろうなこれ? 全部だだ漏れなのはあんまり気分はよくないぜ。

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