春休みは筑波万博を見に行って4月になれば高校の入学式だ
俺と斎藤さんの一家は、一緒に車で春休みに科学万博を見に行った。
この科学万博には日本を含む48ヵ国と37の国際機関が参加しており、リニアモーターカーに試乗できたり、動く道路で移動できたり、様々な実用的な動作をする人間型ロボットやフレンドロボットとの対話、自動車の生産工程の自動化や本物の産業ロボットによる溶接、塗装等の実演、世界のニュースの自動翻訳システム、ハイビジョンテレビやスクリーンに映る立体映像を見たり、光ファイバー通信や、LEDの照明、燃料電池や水耕栽培でたくさんの果実が実ったトマトの木などの当時では世界的にも最先端の技術を駆使したもので、この頃の日本の工業技術力の高さを再確認させてくれる。
「いやあすごいねえ。
まるでドリームエモンの世界みたい」
「そうねえ、きっともうすぐ、あんな感じになるのかもしれないわね」
残念ながら技術的に開発して実用が可能なことと、それを商品化して販売や営業を行なって採算が取れることが可能になるのはまた別の問題なので、これらの最先端技術が普及するにはかなりの時間がかかった。さらに言えば、バブルとその崩壊による過剰投資とその清算のための賃金削減がなければ普及はもう少し早かった気がするし、外国に半導体とかの技術を売るような技術職が出ることもなかったと思う。
ちなみに、この筑波万博には“前”にも来ていたのだけど、当時の俺にはここで展示されているものがどれだけすごい技術が注ぎ込まれているのか、さっぱりわからなかったから、なんかよくはわからないけどスゴい展示で、よくはわからないけど未来を感じさせる空間程度の認識だったのだ。いやマジですごい技術が展示されていたんだな。
プラザ合意が今年秋に結ばれるのもこういった日本の技術力を背景に電気製品や自動車を主にアメリカの対日貿易赤字が顕著に増えたためだったのも理解できる。
超混んでる中のあちこちのパビリオンを見て回ったけど、リアルにSFを体験できたように俺は感じたよ。
「うん、万博に来たのは大正解だったな」
俺がそう言っても斎藤さんにはいまいちわかってないみたいだけど。
「それなら良かったわね」
うん、すごい技術が既にあるということを知ってるっていうのは、やっぱり強みになりそうではあるな。
そして4月になった。
4月1日には日本電信電話公社(電電公社)が日本電信電話株式会社(MTT)に、日本専売公社が日本たばこ産業株式会社(JT)に民営化した。
そして俺は高校の入学式だ。
新しいブレザーの制服に袖を通し、鏡を見て髪などが乱れていないかもチェックする。
「じゃあ行こう」
俺がそう言って家を出ようとすると母さんはニコリと笑って言った。
「そうね、行きましょう」
そして斉藤さんと斎藤さんの母さんとは駅で待ち合わせして一緒に通学。
「斎藤さんおはよう」
「あら、おはよう」
俺はブレザー姿の斉藤さんを見て言う。
「その制服かわいいね」
「そう? そう言われると、悪い気はしないわね」
そう言って笑う斎藤さんだけどセーラー服とブレザーではやっぱり感じが違うし、なんか美人に見える。
この時代のセーラー服は野暮ったい感じがまだ強いからね。
校門に入ってすぐ野道に大きな桜が植えられていて、満開の桜の花びらが落ちてきている。
「なんか桜が舞い散る入学式っていいよね」
「そうよね」
で、昇降口の前に貼り出されたクラスのどれに所属するのかを確認しに俺たちは行く。
俺と斉藤さんは情報処理科のA組で、B組よりも成績がいいものが集められてるらしい。
特進以外の普通科でも成績順でクラスが割り振りされていて、授業内容は同じ程度の成績にして授業についていけない生徒が出にくいようになってるらしい。
つまり俺も斎藤さんも一応情報処理科の中では成績上位者として入学したってことはわかるわけだな。
とは言え特進や普通科より偏差値は下に見られてるんだろうけど、この時期はまだスクールカーストみたいなものはあんまりない。
特にここは元女子校で今年からクラスは共学になったわけなんだが、そのためか女子の制服が可愛く、学校の指定で買うものが少なくて、バッグや靴下などはかなり自由らしい。
斎藤さんはそのあたりかなり地味だけど。
校則も割とゆるい方らしいしな。
教室に入ると既に生徒が何人かが来ていたが、女生徒の雰囲気はバラバラだな。女性用ファッション雑誌『ジョジョ』や『カンカン』『桃色の家』などの影響で可愛らしく、靴下はくるぶし丈でスカートはひざ下、靴やバックのおしゃれっぽい女の子もいれば、長いスカートのスケバンっぽい雰囲気の女の子もいたりする。
そして俺の席は一番前の教壇の真ん前だった。
「こりゃ授業は聞きやすいけどなぁ……」
席も成績上位者が前で成績が低い者は後ろみたいだ。
椅子を引いてそれに座って鞄から確認のために提出物や筆記用具を出していると、後ろから声をかけられた。
「よぉ、俺は
これからよろしくな!」
なんとなく今田君と似たような雰囲気だな。
「ああ、こちらこそよろしくな。
ああ、俺は前田健二だ、ちなみに武田くんは体育推薦?」
「ああ、そうなんだよ、なんでわかった?」
「俺のサッカー好きな友達と似た雰囲気だったんでさ」
「ああ、そういうのなんとなく分かるよな。
お前もそうだろ?」
「ああ、中学でサッカーはやってたけど、俺は体育推薦じゃないんだ。
サッカーでは大した成績残せなかったしな」
「なるほどそういうことか。
まあサッカー好き同士で仲良くやろうぜ」
「うん、よろしく」
なんとなく付き合いやすそうな相手が見つかってよかった。
で担任の先生が来るまで雑談していたんだが、時間になると担任の先生が入室して、入学式前に10分程度のショートホームルームが行われる。
俺たちの担任はそこそこ若い女性だな。
この時点では入学式の説明だけで、それが終わると廊下で身長順に列を作り、入学式が行われる会場へと担任が誘導するので俺たちはそれについていく。
教頭の開式の辞が宣言されて、入学式がはじまる。
新入生の入場で特進、普通科、情報処理科、商業科のA組から順番に新入生が入場し、教職員、来賓、保護者が拍手で迎える。
それが終われば国歌斉唱で司会の合図とともに全員起立して君が代を歌う。
次いで、校長が新入生に対して入学を許可する旨の宣言を行う。
この宣言が終わると晴れて入学が決まり「新入生」となるわけだ。
続いては理事長が新入生に対してお祝いの言葉をかけ、PTA会長、保護者代表、市議会議員、政治家などの来賓二名が祝辞を読み上げ、来賓の紹介や祝電の披露が行われる。
そして新入生の代表が祝辞を受けてのお礼と抱負を読み上げるのだが、これは俺がやることになった。
高校では大概入試で最も成績の良かった生徒に声をかけることが多いが、野球やサッカーなどの強い学校ではスポーツ特待生として入学式前から部活に参加していた生徒が選ばれることもあるらしい。
俺はとにかく無難でなんとなく立派だけど特に目立った内容はない挨拶を行なって、とちったりすることもなく普通にそれを終えた。
そして校歌斉唱なのだが、新入生でそれがわかってるやつは少ないので声入りの音楽を流してそれを聞くだけ。
最後に新入生が順番に退場し、拍手で見送られて入学式は無事終わった。
ラノベでよくあるような入学式の朝に何故かなんらかに縁があったり全く無かったりする美少女に出会ったりもしないし、生徒代表挨拶などでのトラブルもない。
入学式が終わったあとは、各教室に戻り、ロングホームルームが行われた。
ここでまずは担任の自己紹介。
「さて、私が1年間このクラスの担任になった
情報処理科の授業担当でもあるし、まあ、よろしく頼むな。
後必要な提出物はみんな持ってきているか、今から回収するぞ」
そして生徒一人一人の自己紹介などが行われる。
「じゃあそれぞれ自己紹介をしようか、順番は出席番号でやろう」
でまあそれぞれが挨拶していく中で俺の順番が来た。
「俺は前田健二。
趣味はパソコンで自作ゲームも作ってるから趣味が合う人がいれば嬉しい。
みんな、よろしくな」
一応無難な挨拶のつもりだったが、どうも俺はディープなパソコンオタクと判断された気がする。
まあ別にいいけど。
そしてしばらくすると保護者が教室に入り、授業参観のような形でLHRを続けられ、担任と副担任から保護者に対しての挨拶が行われ、その後購買で教材や体育用品を買って終わりだ。
そして家に帰ったんだが……。
「明日からはお母さんいなくても一人でちゃんと学校に通える?」
と言われたので俺は苦笑いしつつ答えた。
「大丈夫だよ!」
まあ高校生なんて親から見ればまだまだ子供なんだろうけど、さすがに通学をちゃんと一人でできるか確認するのはどうかと思うぞ。
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