一日目の夜は枕投げとかが定番だよね

 さて、正直に言えばあまり美味しくない夕食をたべてそれが終わったら、クラスごとに時間がずれるけど大浴場での入浴やホテルのロビーのお土産屋でのお土産の見繕いなんかの自由時間が少しある。


「やっぱりお土産は京都っぽいペナントかキーホルダーかな」


 今田くんがそう言ってるのを見て僕は一応言っておくことにした。


「そういうのはいらないってうちはお父さんが言ってたよ」


「金閣寺の置物もいいかな」


「そういうのも邪魔だからいらないってお母さんが言ってたよ」


 そう言うとなんかふてくされたように今田くんが言った。


「じゃあ何を買ってくんだよ」


 俺は食べ物のたぐいが置いてある場所に移動してその名から一つをとってみせる。


「うちの両親は八ツ橋と赤福が食べたいって言ってた」


「ああ、なるほど食べ物かぁ。

 でもよ、腐らないかな?」


 俺は首を傾げた後で答えた。


「多分二三日なら腐らないんじゃないかな? 多分」


 そして斎藤さんたちが浴衣でやっぱりおみやげを買いに来ていたんだけど、なぜかお風呂上がりの浴衣姿の女の子はとても可愛く見えるものだから不思議だよ。


「あーなんかいいなあ、ああいうの」


 今田くんがそう言うのに俺もうなずく。


「お風呂上がりの女の子って石鹸とかジャンプーのいい匂いもするよね」


「そういう言い方されると結構生々しい気がするんだけど」


「そうかな?」


 制服と違って浴衣だとプライベートなかんじもして、普段と違って見えるんだろうね。


 スキー場で、異性が何割増しか素敵に見えちゃうゲレンデマジックってやつと同じような感じなんだろうけど。


 そして自由時間が終われば大部屋で15人分の布団を敷き詰めての雑魚寝。


 これも修学旅行の楽しみのひとつで、こんな状態になると、ついついはしゃぎたくなるのは今も昔も変わらないから、当然すぐに寝るわけじゃあない。


「せっかくだし枕投げやろうぜー」


「よーしやるか!」


「やろうぜー」


 普段とは違う場所でみんなでの雑魚寝という環境がもたらすのか、普段とは違う場所の修学旅行で妙にテンションが高いからか普段できないことをしたくなるのか、唐突に開始宣言とともにまくら投げがはじまる。


 せっかく綺麗に弾いた布団もぐちゃぐちゃになってその上を枕が飛び交う。


「けほけほ、チョット埃がひどいんだけど?」


 サッカーで砂埃を吸いまくってるような体育会系は平気だけど、そうでない男子にはホコリにむせてるところを枕の集中砲火を浴びてる人もいたりする。


「ああ、咳が止まらない人には枕を当てるのはやめたほうがいいよ。

 明日に差し支えるかもしれないし」


「ああ、そりゃまずいな」


 喘息持ちとかもいるからね。


「そろそろ女子の部屋に遊びに行くか」


 そう言って部屋から出ていく人もいれば枕投げで力尽きて寝る人もいる。


「そういえばこういうホテルって掛け軸の裏とか押し入れの奥に御札が貼ってたりするらしいぜ」


「じゃあさがしてみるかー」


 と突然御札探しがはじまったりもする。


「お前好きなの誰なんだよ」


「俺は……」


 という強制全員参加の恋バナがはじまったりもする。


「前田は誰が好きなんだよ?」


 突然そういう感じで話を振られたので少しだけ考えて俺は答える。


「俺は斉藤さんかな? 話も合うし」


 それを聞くと聞いてきた男子はおおきくうなずいた。


「ああ、いつも仲良くしてるしだいたいみんなの予想通りだよな」


「だよなー、つまんね」


 そしてそんなことを話してると就寝時刻の22時を過ぎて先生が部屋の見回りにやってきた。


「おまえらー喋ってないでちゃんと寝ろー」


「はーい」


 まあ、先生が部屋から離れたらまた話を再開してまた30分後に先生が来て、結局怒られるっていうよくあるパターンなのだけどね。


 そのあたり女子はちゃんと見張りを立てて怒られないようにしてるらしいね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る