戦後銀行の経営はずっと安泰というわけでもなかったんだ
「それにしても前田君はお父さんと同じように銀行に就職するんだと思ってたよ。
銀行員はお金いっぱいもらえるんでしょ?」
今田くんがそう言うので俺はうなずく。
確かに俺の父親は銀行マンで”前”は俺も銀行に就職している。
「確かにね。
ごみの収集をしてる従姉妹の叔父さんよりも、ずっとお給料はいっぱいもらってるけど、平日は家に帰ってくるのはすごく遅いし、朝も早いしで平日はお父さんと会うことは殆ど無いし、本当に大変そうだよ」
「なるほどなぁ、いっぱいお金を稼ぐにはいっぱい働かないといけないんだな。
でも銀行なら潰れないだろ?」
「んー、実際はそうでもないよ。
オイルショックが原因で僕たちが小学校の頃(1970年代)は不況で銀行は今までそのあおりを受けて大変だってお父さんは言ってたからね」
80年代といえばバブルで日本が熱狂した時代だと思われがちだけど、1970年代はオイルショックの時代で狂乱物価と言われるくらい物価が上がって、なのに賃金はそれに追いつかなかった。
だからインフレ抑制のために公定歩合の引き上げが行われ、企業の設備投資などを抑制する政策がとられ、昭和49年(1974年)は-1.2%という戦後初めてのマイナス成長を経験して高度経済成長は一度ここに終焉を迎え、それは10年ほど続いたんだ。
そして昭和52年(1977年)に発行後1年以上経過した日本国債は市中への売却が認められるようになったのだけど、これによって銀行金利を市場の実勢値まで抑える必要が生じ、昭和54年(1979年)に譲渡性預金が導入され、家計の余剰資金を銀行が吸い上げるようになったことで銀行はようやく息を吹き返したんだ。
日本銀行のオイルショック前の行き過ぎといわれた金融緩和政策と第一次オイルショックが物価を上昇させ、その後の引き締めの遅れが問題になったのだけど、第二次オイルショックはその辺はうまくやったと思われていた。
だけどこれが1900年代のバブル崩壊の時に行われた総量規制による信用不安による急速な株価や地価の下落につながるんだね。
「日本でも豊河信用金庫なんかの小さい銀行や支店なんかは結構潰れたし、アメリカだと全米第6位の大きさのコンティネンタル・イリイリ銀行や貯蓄貸付組合(個人の零細預金を引き受け、それを原資に住宅ローンなどの貸し付けを行う金融機関)も潰れたはずだよ。
会社は新規採用の停止をしたり、優良企業の銀行からお金を借りないで株や社債の発行でお金を調達するようになったからって」
「さっきお父さん全然帰ってこないって言ってなかったっけ」
「今までは黙っていても銀行に来てお金を借りに来てくれていたのがそうでなくなったから、あっちこっちの会社にお金を借りてくださいって頭を下げて回ってるんだよ。
ノルマって言って一ヶ月でいくら貸し出すようにしないといけない金額があるらしいよ」
「うひゃあ、そりゃ大変だ」
「まあ、だから上の人の指示通りに地道にあちこちまめに歩き回る人間が重宝されてるんで、学校の部活も体育会系をやっていたほうが重宝されてるんだって」
「まあ、サッカーも野球も監督の指示通りにやらなきゃだめだしな」
俺と今田くんがそんなことを話していると斉藤さんが話に加わってきた。
「なるほど、それで将来の目標はゲームの制作なのかしら?」
「うん、電化製品の三種の神器って言われていた、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、それに電子レンジやエアコンなんかはもうそれなりに普及してるけど、パソコンやホムコンはこれから広まると思うし」
最終的にはスマホの普及でゲームそのものが暇つぶしの定番となるわけだし、トレーディングカードゲームはめちゃくちゃ儲かっていたらしいからね。
携帯電話に関して言えば車載電話機やショルダーホンが発売されてるけど、まだ一般には浸透してないからなぁ、いわゆるガラケーやPHSが一般に浸透し始めるのは90年代からだね。
「そう、銀行員の奥さんも安泰じゃないのね、私も少し考えたほうがいいかしら」
「もちろん全部の銀行が潰れるわけじゃないけどね」
「相手次第ってこと?」
「うん、そういうことになると思うよ」
「そういったことを見極めないといけないのかしら?
それはかなり大変そうね」
「一生に関わることだからね」
「それもそうね」
とはいえバブル後の銀行の吸収合併による淘汰圧は凄まじく、同じ駅に同じ銀行の支店が何個もある状態になった後で、支店の片方がひっそりなくなったりしていた。
潰れた銀行も合併された銀行もどこもかしこもたいへんだったんだ。
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