昭和59年(1984年)
男子中学生が将来何になりたいかなんてそんな具体的かつ現実的なことは考えてないよな、女子はまあアレみたいだけど
俺はいつものように朝起きて、洗面所に降りていき、顔を洗ってから歯を磨き、朝食を食べたら詰め襟学ランの中学校男子制服に着替えて、体操着や教科書等の入ったバッグを手にして学校へ向かう。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
そしてその途中で唯一の親友と言ってもいい友達と合流して一緒に学校へ向かう。
「今田君おはよう」
「前田君おはよう」
彼、
「宿題ちゃんとやってきた?」
俺がそう言うと今田くんは少しバツの悪そうな顔でいった。
「あー、部活で疲れてちゃんとできてないんだよね。
でもサッカー選手に勉強は必要ないんじゃないかな」
「いやいや、勉強は大事でしょ。
推薦で市船に行くんだとしてもさ」
「そうだよねぇ、でも部活の後はクタクタでさぁ」
「確かに部活の後に家に帰って宿題するのはきついよね」
「それより今週のホップは?」
「あ、うん買ってあるよ」
「よみ終わったら見せてー、コマンダー翼読みたいし」
「うん、いいよ」
そんなことを話しながら自分たちの教室へはいる。
「あ、斉藤さんおはよう」
「あらおはよう、私が貸した新井素粒子の“ブルー・レクイエム”はどうだった?」
「うん、面白かったよ。
よくあんな設定をおもいつくよね」
「SF作家というものはそういうものだと思うわ」
彼女、
俺がホップみたいな漫画を読みつつも、マンガンやハヤヤマなんかの文庫本をやたらと読むようになったのは、彼女の影響がでかい。
そしてゲームブックの日本語版の火吹山の魔導使いは今年昭和59年(1984年)に日本語に訳され、日本では馴染みの薄いファンタジーゲームブックブームを巻き起こした。
これによってファンタジー世界の剣と魔法という存在が本という媒体で広まりつつあったわけだな。
「そういえば、俺たちももう高校受験だけど、二人は将来どんな感じになりたいとか決めてる?」
今田君は胸を張って言う。
「そりゃもちろん、プロのスポーツ選手だよ」
「サッカーはまだ日本にはプロチームはないけどね」
「でも、きっともうすぐできるさ!」
確かに日本のプロサッカーチームは平成3年(1991年)、正式名称を「日本プロサッカーリーグ」、通称を「Jリーグ」として発足している。
この頃はまだバブル崩壊前と思われてるので結構有名な外国人選手もJリーグに所属していたっけ。
だからそこまで夢物語というわけでもないが、めちゃくちゃ競争は激しい。
そして斉藤さんはふむと口元に手を当てて少し考えた後で言った。
「私は短大に行って、銀行の事務員になって、社内結婚で寿退社からの専業主婦かな」
「それは女の子らしい堅実な将来ではあるね」
もっともバブル崩壊後の銀行の合併で人員削減の嵐が吹き荒れるので、銀行員の奥さんというのは決して安泰ではなくなるんだけど。
「そういう前田君はどうするのさ」
「大学を出てゲームを作ろうかなって思ってる」
「ホムコンゲーム? それともアーケードゲーム?」
「そこまで具体的なことは考えてないけど、多分ゲームはこれからとっても売れるようになると思うんだ」
「なんか……意外だね」
今田君は不思議そうに言ったけど斉藤さんはそうでもない。
「ゲームブックのようなものをコンピューターゲームで作ったら面白そうね。
ファンタジーだけでなくて舞台はSFでも面白いと思うわ」
「そうだね、僕もそう思う」
「うーん、言ってる意味がわかんないんだけど、ニャムコのドルーガの塔みたいな奴?」
「ドルーガの塔も面白いけどゲームが上手くなくても進めるようなゲームのほうがいいかな。
ゲームブックみたいに死んだらやりなおしても最終的にはちゃんとクリアできるような?」
「前田君はあんまりゲームうまくはないもんね」
「そうそう、って大きなお世話だよ」
まあ中学生男子は電車の運転手とか飛行機の機長とか、プロ野球選手とかまだまだ目指していたりするよね。
逆にこの時代の女子は学校を卒業してもその後の選択肢もあまりないし、まだまだみんな結婚するのが当然という風潮も強く、なんらかの特別な理由がない限り人生の中で結婚することが当たり前、そして女性は子育てをして男性が働いて稼ぐという考えがまだまだ一般的だったんだね。
バブルの時代に恋愛やフリーターがもてはやされ、バブルが崩壊すると若い人の給料も上がらなくなって、女性が社会進出を果たして、晩婚化や非婚化も進み、結婚は皆がするものではなくなっていくんだけど、このあたりをなんとかしないときっとだめだな。
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