革命の『アガートラー』
革命の『アガートラー』①
「……子孫が先祖に勝とうなんて思わないことだね」
アガートは切っ先を俺たちに向け、光を収束させる。
怯むことなく突っ込んでいくアルヴィアは放たれた光の球を剣で思い切り迎え撃った。
ボッ……!
低い音で弾けた魔法を一瞥し、アルヴィアが声を上げる。
「攻撃は任せますよアガートラー! 約束通り守らせてもらいますッ」
「は? ふざけんな! 約束なんざしてないって話さ!」
思わず返すが正直助かった。
痛みは感じなくとも血はどんどん溢れ流れていく。
こんな状態の体でアルヴィアの兜を割るほどの衝撃に耐えられる気がしないからな。
――アガートは弾けた魔法に舌打ちをして剣を翻した。
「……魔法を斬るか。その剣にもエルフの魔法が掛かっているね」
「ええ。魔王を屠るためにと
階段を駆け上がり、まずアルヴィアが先行する。
守りに徹したアルヴィアは――さすが対人戦に特化していると言えるだろう。
アガートの攻撃を尽く剣で弾き続け、ふたりの刃が閃光のように乱れ動く。
何度も打ち合ったアガートは剣を高く構えたまま攻撃をやめ、今度は魔法を撃ち出した。
紙一重で躱すアルヴィアの右頬を光の矢が掠めていく。
その頬からみるみる鮮血が溢れて額の血と混ざり合う。
「はは! アルヴィア、アガートラーは君を助けないつもりだ」
アガートが嘲りの笑みを浮かべて言うが――それでも俺は動かなかった。
狙うのはアガートが見せるはずの隙、その一点のみ。
アルヴィアだってわかってるんだろうさ。
なにも答えることなくただ防御に徹している動きに迷いはない。
それでも……このままじゃ不利だってのはよくわかる。
アルヴィアもそう長くは動けない。そこに魔法を撃ち込まれたら終わりだ。
剣を構えていた俺は呼吸を整え……アルヴィアの左側で一定の距離を保ちながら焦りを隠してじっと待った。
――俺たちの足下ではまるで意志を持つかのように赤黒い液体が渦を巻く。
その液体は巨大な黒い釜から絶えず湧き続けているが……俺はこいつが
秘薬の『
アガートは
そのときアガートが右足を引き、体をアルヴィアに向けたままで俺に切っ先を向けた。
――ここだ、と本能が告げる。
血塗れの娯楽アガートの戦場で死線を越えてきた『アガートラー』としての本能。
決着をつけるならいま、この瞬間だ。
「させません!」
アルヴィアが切っ先から放たれる魔法を斬りつけた瞬間、俺はそれを見越して前へと踏み出していた。
俺への不意討ちのつもりだとしたらお粗末だが――違う。
アルヴィアが俺を守るためにどう動くのかを完全に読んだ一撃。
同時に、アルヴィアもアガートがそうすることを読んでいた。
振り下ろされた剣の下をくるりと返されるアガートの刃が突きに転じ、アルヴィアを捉えるそのとき――。
「――アガートラーッ!」
ありったけの声で呼ぶ星に……俺は地面を蹴りながら短く応えた。
「――悪かったな」
「……え……?」
擦れ違いざまに見開かれる双眸は冷めた蒼色。艶めく銀の髪はこの気分の悪い世界でもよく輝く。
逃げればいいなんて言っても聞きやしない――お人好しで目出度い頭をしているくせに芯が強くて面倒臭い女。
……それでも……俺はこいつに『解放』された。
こいつは自由とやらを俺に与えた星。
……だからだろうな。これから俺がすることをアルヴィアは許さないってのがどうにも居心地が悪い。
それがなんでか知らないがたまらなく嫌で先に謝っておいた、それだけだって話さ。
――そこでアルヴィアの胴を突き通そうとしていたアガートの刃がさらに返されて再び俺に狙いを定める。
当たり前だろう。アガートは俺がこうすることも読んでいやがるに決まってるんだから。
――ま、そうじゃなきゃこの攻撃はできなかったけどな。
「……な……」
驚愕の声をこぼしたのはアガートだ。
そりゃそうだ――俺は剣を捨てている。
こんな馬鹿な奴がどこにいるんだって話だろ。
「ハッ! 欺し合いなら負ける気がしないってもんさ!」
吐き捨て、アガートの刃とそこから放たれた魔法を腹に受けながらも俺はがっちりと組み合った。
左手で握り締めた赤い角が俺の穿った傷を中心にミシミシと軋む。
「ぐうぅっ⁉ は、放せッ!」
俺は深々と食い込む刃をそのままに、くくっと喉を震わせて一歩、また一歩と踏み出した。
「……誰が放すかよ。どうだ楽しいか? なあアガート? これが俺の生きてきた肥溜めのやり方だって話さッ!」
「く、この――ッ! やめろッ……止まれ!」
ボッ、と低い音がして腹に衝撃が奔る。
放たれた魔法で押し出された空気に息が詰まったが……構うことはない。
秘薬ってのは大いに役に立ったな、痛みがないってのは最高の条件だ。
俺はアガートを押さえ付けたまま思い切り地面を蹴った。
「……ッ! 駄目ですアガートラーッ! やめて……やめてください――ッ!」
我に返ったアルヴィアの絶叫が響き渡る。
それが耳に触れる瞬間には――俺は巨大な黒い釜へとアガートを道連れに
思ったとおりだ。
命を貪るためにせり上がった赤黒い
「ハッ! ともに堕ちてやるよアガートッ! ざまぁみろ、この○※△×が――ッ!」
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