第51話 間抜け

 遺跡の周囲は完全に包囲をされていた。遺跡の入り口に向かって多くの兵士達が銃口を向け、投降するように告げる。しかし入り口から多数のゴリアテが出現し、その後に続いてミュルメクスを投与された強化兵たちが姿を見せた。答えを待つまでも無くゴリアテ達が抱えていたバルカンによる掃射を皮切りに、戦いの火蓋が切って落とされた。


「今のうちだな…急ぐぞ」


 銃声を聞いていたグルーム達は、敵が迎撃に駆り出されている間に侵入をしてしまおうと崖下で準備を始めていた。辺り一帯が立ち入り禁止区域に指定されていた事もあってかこれまでは気づかなかったが、付近の海岸には格納庫や港らしき施設も見える。


「これだけの規模の開発…一体どうやって隠してたんだ?」

「墜落した飛行型の登録番号を照合したが、サンゲートシティを拠点にしているヴォークコーポレーションが取り扱っている物だった。政界ともズブズブな企業だ…おおよそ市長やらに融通するように頼まれたって所だろう。サンゲートシティ自体も連邦政府の設立に最後まで反対していたんだ。おまけにこの山脈一帯はサンゲートシティの管理下にある…言いたい事が分かるか?」

「テロリストと取引してたわけか、場合によっては言い逃れできないな」

「準備が出来た、行きましょう」


 シモンとグルームが協力者について推理をしていると、ジーナが背後からグラップリングフックの射出装置を渡して来た。シモンにも同じものを手渡そうとしたが、「俺にはこれがある」と左腕を叩きながら誇らしげに彼は言って突き返した。


 一同は崖際の丈夫そうな木などに向かってフックを放って引っ掛けるか、フックを食いこませるとワイヤーを巻き上げながら登って行った。シモンだけは伸ばした触手を枝や岩に絡ませた後に、触手を腕に戻す勢いを利用して一足先に崖の上へと辿り着く。


「一番乗…り…」

「な、何だ貴様!」

「やべっ」


 華麗に着地して見せたシモンは得意げに笑ったが、目の前には警戒に当たっていた兵士が二名ほどこちらを見るなり驚愕していた。互いに銃を構えようとしたが、シモンの反応が僅かに早かった。ホルスターから拳銃を抜いて見張り達の肩や頭を撃ち抜くと、倒れた彼らに近づいて安否の確認を行う。


「何があった?」

「見ての通り、運の悪い奴が二人いた」


 射出装置を使って登ってきたグルーム達に尋ねられたシモンは、死体から手掛かりになりそうな物を漁りながら言った。しかし出てくるのは携帯食料や弾薬といった兵士としての最低限の支給品であり、お世辞にも恵まれている装備とは言えなかった。


「期待はしてなかったが、何も無しか…にしても、こんな待遇で転職しようと思わなかったのか?こいつら」


 結局手掛かりらしいものが見つからなかったシモンはそう言った。そこから先には、研究施設に改造された遺跡へと続くのであろうハッチが蔓やらに囲まれて重厚そうに佇んでいる。開けて入ってみると二手に分かれていた。


「手分けをしよう。俺ともう一人、残りの二人はあっちの方へ向かってくれ」

「なら私が一緒に行く」


 ジーナが申し出た事によってシモンとセラムが組むことが必然的に決まり、それぞれが通路の反対側へと走り去って行った。




 ――――研究室から出ようとしたノーマンは、整理していた書類や開発した寄生体のサンプルの内、いくつかが無くなっている事を不思議に思ったが、大して気にも留めずに格納庫へと向かっていた。その一方で、アタッシュケースを抱えていたベンが会議室へ入ると、シェイとネビーザが席に座っていた。


「まだ…いたんだ」

「ああ…」


 生気の無い声がネビーザから聞こえた。シェイもどうすれば良いのか戸惑っており、助けを求めるような顔をしている。アタッシュケースをテーブルに置いて、二人に背を向けたままベンは静かに口を開く。


「もう時間の問題だよ。大人しく捕まるか抵抗して殺されるか…最初から捨て駒だったんだ、ディバイダ―ズは。ダニエルも…手遅れにならない内に手を切れば良かったのに…」

「途中から入って来たお前さんには分からんだろう。あの小僧の味わった無念は並大抵のものではない…引くにも引けなかったんだ」


 愚痴交じりに状況を伝えるベンに対して、ネビーザが言った。


「お二人とも、どうするおつもりですか…?」


 シェイはようやく口を開くと、ベンやネビーザを見ながら尋ねた。ベンの方は心なしか、不穏な雰囲気を背中から漂わせている。


「少なくとも僕は降伏するつもりは無い」

「玉砕覚悟か…」


 ベンが意思を伝えると、ネビーザはてっきり戦うつもりなのだと勘違いしていた。新参者であるにも拘わらず、仲間達に馴れ馴れしいこの男をいけ好かなく思っていたが、その後に彼の口から出て来る言葉を聞くまでの僅かな間だけは少々彼の事を見直してしまった。


「ははっ、まさか」


 感心していたネビーザに対して無情な声で否定が返ってきた。次の瞬間、振り向いたベンの手には懐から取り出された拳銃が握られ、間髪入れずに三回ほど発砲音が室内に響き渡る。ネビーザから見て右方に座っていたシェイが血を流して倒れた。


「下衆め、裏切る気か…!」

「犯罪組織の癖に警戒心が無さすぎるんだよ…あんた達」


 ネビーザが立ち上がろうとした瞬間に、彼の胸を狙ってベンはさらに引き金を引いた。また椅子に座らせられる羽目になったネビーザはベンを罵ったが、彼はそんな事をお構いなしにネビーザの頭部へ鉛玉を撃ち込んだ。突っ伏したネビーザの頭部から流れる血が、テーブルをジワジワと赤く染め上げる光景を見ながらベンは彼らをせせら笑った。そしてアタッシュケースを改めて携えると急いで部屋を出て行った。

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