第49話 古の呼び声
すべてを読み終えた一同は、今になって自分達がとんでもない事態に巻き込まれており、もう引き返せなくなってしまっているのだと実感した。
「不可思議な生物が使っていた兵器っていうのは、アレなのか?その…俺達が見た気味悪い鳴き声のデカい鳥や、四足歩行の光線を撃つ化け物が?」
シモンは状況が整理できないらしく、どうにか言葉を選んでいた。一方、短い間ではあったが自分を育ててくれ、父だと思っていたヘブラスが養父であり、既に死んでいたという事実にルーサーはどういう反応すれば良いのか分からなくなってしまっているらしかった。ジーナは何も言わずに、複雑そうな表情で俯いている少年の肩を慰めるように叩く。ルーサーは彼女の方を見て大丈夫だと言うように、強がった笑顔を見せた。
「世界全体の危機とか、彼女の復活って言葉が気がかりよね」
「グルームの奴が捕虜から情報を聞き出せていると良いが…一度連絡してみるか?」
セラムとレイチェルは文書に残されていた内容についてあれこれと考察していたが、ルーサーは思い切って全員に呼びかけた。何事かと思った全員の視線が自分に向いたところで、ルーサーは意識を失った際に出会うターシテルドという人物についてや、彼が語った一部始終を全員に説明する。またもや黙りこくってしまった面々であったが、今更信じないわけにもいかないとシモンがルーサーに頷いた。
「まあ、今まで見て来たものを考えると信じるしかないよな…だが、何で黙ってたんだよ?」
「言っても信じてくれるか分からなかったから…」
「…それもそうか」
シモンは疑問をぶつけてみたが、対するルーサーの答えは簡潔かつ納得のできるものであった。
「眠っている間に話せるのなら、今から出来ないか?」
シモンとルーサーが話していると、いきなりセラムが思いついたように話に割って入る。情報が少ない今の状態では動く事も出来ないため、色んな可能性を試してみたいという彼の意見で、ルーサーはソファに寝っ転がって静かに目を閉じた。彼の邪魔をしないようにと、ロドリゴも含めた全員が少し距離を開けて様子を見続ける。それぞれが他の事で気を紛らわせていると、やがて小さな寝息が聞こえて来た。
――――いつもの場所に一糸纏わぬ姿で現れたルーサーであったが、フェンリルが自分のもとに近づいて顔を擦り付けて来る。ヒンヤリとしていた。自分が座る椅子の背後にはかなり大きさの縮んだオーズとロキが佇んでいる。
「来た理由は分かっているよ」
相変わらず呑気そうにターシテルドは向かいの席でティーカップを弄っていた。
「教えてよ、ノーマンは何を呼び起こそうとしているの?」
椅子に座りながらルーサーは尋ねてみる。
「かつて私の友だった存在だよ…すっかり変わり果ててしまったがね」
冷静を装ってはいたが、ターシテルドの言い方には少し寂しさが感じられた。
「我々はこの世界の外からやって来た。僕達の世界には狂暴な怪物がいてね…本来ならば干渉してはならない筈であったこの世界に眠る資源や生命を自分の糧にするためにやって来たんだ。僕達はそんな怪物を止めるためにこの世界へ訪れた。君たちが神話として語っている戦いだが、僕たちが勝手に巻き込んでしまっただけだ。戦いは激化したものの、どうにか僕達は奴を倒した。それと同時に肉体にも限界が来てしまったせいで拠点としていた遺跡の中で深い眠りにつこうとしていたんだが…その怪物は、自分の肉体の一部を私の友に植え付け、支配下に置いていたんだ。僕が君の意識下にこうして潜り込んでいるのと同じ方法でね。少なくとも僕はそんな事をするつもりは無いから安心してほしい」
「じ、じゃあ境界線っていうのは…?」
「ノーマンという男を都合よく利用するための方便さ。世界全体に結界を張って外の次元からの干渉を出来なくする…確かに聞こえはいいが、早い話が自分を殺そうとする存在の侵入を防ぐための物だ。邪魔がいなくなれば、この世界の資源を片っ端から食い尽くしていくつもりだろう、生物も含めてね」
想定していたよりも深刻な状況になりつつある事にルーサーは狼狽えながら、事前にシモン達と考えた質問を思い出しながら、それを問いただしていく。
「止める方法は?」
「復活させるには強大な熱が必要になる…僕を復活させる場合はそれを知らなかったせいで失敗したみたいだけど、結果として良かったのかもしれない。とにかく大きな熱を生み出す場所で復活をさせることになる筈だ。仮に復活されてしまった時は…エネルギーの吸収による成長が進んでいない段階で倒すしかない。境界線を呼び起こすには大量にエネルギーが必要になるからね…幸い、彼らなら恐らく何とかできる」
対処法を語ったターシテルドは、三匹の兵器をそれぞれ手で呼び寄せる。三匹はルーサーに従う意思を伝えてその場から消えた。
「こんな形でしか会えないが、何かあればいつでも会いに来てくれ」
「う、うん。ありがとう」
力を貸してくれることは有難かったが、これからも自分の行動を把握されると思うとルーサーは気が滅入った。しかし今はそれどころではないと思っていたルーサーに呼応するように、いつもと同じく光が彼を包み込んだ。
「ルーサー!どうだった?」
目が覚めた自分に対して、ジーナが問いかけてきたが妙に落ち着きが無かった。ルーサーは全員にターシテルドが語った詳細を説明すると、やっぱりかとでも言いたげな風にシモンが頭を抱える。
「さっきグルームから連絡があった。今の話といい、とんでもないことになって来たぞ…」
シモンはそう言ってすぐに出発の準備をすると告げて大急ぎで外へと出て行った。戸惑うルーサーに事情は後で説明すると言ってから、仲間達も彼の後に続く。
――――とある山脈の火口付近の上空に、飛行型のネスト・ムーバーが接近していた。無線からの合図で投下地点に近づいたことが告げられ、それを聞いた兵士たちはローズと名の付けられている生物の入ったカプセルを収納しているコンテナを押し、ハッチから火口の中へと突き落とす。音を立てて沈んでいくコンテナを監視していた兵士達だったが、突如として巨大な触手が溶岩から突きあがった瞬間に息を呑んだ。触手は火口付近の断崖にしがみ付くと、そのまま潜り込ませるように触手を突き刺す。そして根を下ろすように伸びていった。
次々と溶岩の中から触手が現れては同じように大地に根を下ろしていく。そして最後に溶岩から現れたのは、火口さえも隠してしまうのではと思わせる程に巨大な赤く滾る生物の姿であった。腕や足といったものは無く、それと引き換えに無数の触手が体中で蠢き続けている。そして目に見えるものを片っ端から掴んでは自身の肉体へ取り込んでいった。口に運ぶこともあれば、触手ごと体内に引っ込めて捕食していくその様は、図鑑で見たどの生物とも違うと一人の兵士は気味悪がっていた。直後、恐ろしい速さで伸びて来た触手にネスト・ムーバーが捕まってしまい、抵抗も虚しくそのまま口に放り込まれた。
遠くから見ていた他のネスト・ムーバーは直ちに退却しつつ、腹の底がひっくり返りそうな震える低音の鳴き声に耐える。すぐに無線を使ってノーマン本人に直接連絡を入れた。
「こちらB班、対象の活動を確認。帰投します。」
「ああ、ご苦労だった」
ノーマンはその連絡を受け取った後に軽く礼を返して無線を切った。そして山脈が見える崖から景色を眺めていると、どこからか唸り声が聞こえる。ノーマンはその声に高揚をしつつ、静かに自分達が基地として改造していた古代の遺跡へと戻って行った。
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