第37話 嘘と謎
ハト婆から告げられた情報にルーサーを除く四人は少し動揺した。
「じゃあ、なんだ? こいつを人質にして何かしようとしてるわけじゃ…」
シモンはコーマックが自身達に告げた話の内容が真っ赤な嘘である事を受け入れられず、食い下がる様に聞き返した。
「要人といえど、子供一人の命如きでビビる程政府はヤワじゃない。本当に恐れていたのは人質に取られる事ではなく、その子の身柄自体が奴らの手に渡ってしまう事だ」
デュークはコーマックの考えを肯定し、現時点での見解を示す。ふと電話が鳴ったのを聞きつけると、彼は急いで席を立って受話器を取った。デュークが電話の前に立っている間、レイチェルはハト婆とコーマックの二人を交互に見た。
「そんなに大事なら尚更あなた達が守ればよかったじゃない。おかげでどれだけ酷い目に遭ったか…」
「先ほども言ったでしょう。ノーマンに協力している者達は決して少なくない。政府の中にも息の掛かっている連中がいないとも限りません。ライク氏なら信用できる人間を探してくれるとそう仰られたもので。念のため理由に関しては嘘を伝えさせていただきましたが…現に、あなた方はこうやって守り切っている。おかげでグリポット社が解毒剤を開発するまでの時間稼ぎが出来た」
コーマックはレイチェルに対して言い分を伝えると、呑気に茶を啜るハト婆を見た。コーマックと視線が合うと、「どんなものだ」とでも言いたげな顔で鼻を鳴らした。ジーナは、ここまで来れば洗いざらい聞いてしまおうと、ルーサーの持つ力の事について話題を持っていく。
「ルーサーの力について聞きたい。この際だからどういう仕組みかなんていうのは置いとくとして…何でルーサーがそんな力を?」
「そいつに関しては良く分かっていないよ…ノーマンが何か知っているっていうのは間違いないけど、それが聞き出せれば苦労はしない…或いはヘブラス・エンフィールドから聞き出してみるぐらいしかないね」
ジーナからの問いにハト婆がそう答えると、一同は今後どのように行動をすれば良いかを考え始めた。ノーマンが行っていた「継承」を指揮し、中止させたのもヘブラスであるならば、ルーサーやシモンの持つ力のルーツについても何か知っている筈だと推測する。
「そういえば、ヘブラス・エンフィールドは何をしている?自分の息子が散々な目に遭っているのを黙って見ているのか?」
セラムは居場所を聞き出すためにコーマックに尋ねたが、彼は首を横に振った。
「分かりません…既に隠居している状態だとは思うのですが、居場所については何も…」
「交友のあった連中の情報や、そいつらがどこにいるのかも分かっているけど…相手はお偉いさんの知り合いだ。簡単には情報を出せないだろうね…一人を除いて」
情報が無い事を申し訳なさそうに述べるコーマックの後に、ハト婆はそのような話を持ち出した。ジーナは少し動揺したのか、思わず彼女の方を見る。セラムやシモンはそんなジーナの様子を奇妙に感じた。
「アメリア・クリーガァ…嫌でも知ってるはずだよ、あんたは」
ハト婆は意地悪く笑いながらそう言ってジーナを見ていると、少し急ぐようにデュークが戻って来た。
「少し長引いてしまった…盛り上がっているところ悪い。お客様がこの街に来ているらしいぞ…殺意満点だがな」
デュークの言葉が意味する事は、その場にいた全員にとっておおよそ察しが付くものであった。部下達に足止めをさせているというデュークに対して、シモン達は自分達も加勢すると言ってそのまま飛び出していく。
一方、街ではグリポット社の兵士達が二体のゴリアテと交戦していた。二体のゴリアテはどちらも携行式のガトリング砲を構え、所構わず辺りへ弾丸をばらまく。何とか応戦しようとするも弾幕によって思う様に近づけず、仕方なく車両や建物といった遮蔽物に隠れて様子を見る事しか出来なかった。
「驚いた。あんなものまで作っていたのか…」
銀髪の兵士は現場に到着するとそう呟き、状況を把握するために車両の陰に隠れている同期の兵士の元へ近づいた。
「グルーム!」
兵士は彼が近づいたことに気づくと、仲間にその場を任せて大きな声で銀髪の兵士の名前を呼び、現在までの状況を話す。
「間違いなくディバイダ―ズだ。あの巨人、とうとうあんなオモチャを扱えるようになってしまっているらしい…こっちは先行した部隊が半壊している。おまけにミュルメクスの適合者共も来ているらしくてな。訳の分からん化け物を従えさせている辺り、恐らくクイーンクラスに匹敵する上位種までいる。デカブツ二人が暴れている隙に仲間の死体を持っていかれた…何かに使う気だ」
グルームはそういった仲間からの話を聞き終えると、無線を取り出して誰かに連絡をする。それが終わると、対物ライフルの残弾を確認しつつ再び彼の方を見た。
「俺達はあのデカブツを倒そう。民間人はどうなった?」
「時間はあまり無かったからな。出来る限りは避難させたが、それ以外は建物の中で隠れるように伝えている…これ以上被害が出るとマズい。あいつらを何とかするとして、適合者達はどうするんだ?」
「そいつらは例の便利屋に任せた。ちょうど協力を申し出てくれたんでな…少なくとも俺達よりは奴らの相手に慣れているはずだ」
グルームから報告と提案が返ってくると、兵士もそれに賛同するように頷き、ゴリアテへ向けて射撃を開始した。
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