可能性の集約体


 さて。さてさて。


「一体どこかな?」


 ああほら泣かないで。きっときっと絶対見つかるから。


「うん。大丈夫だもんね」


 だから、ね?そんなに怒らないの。短気は損気ってね。


「気長にやろうよ」


 でもあんまりのんびりもしてられないかもね。


「オリジンがねー。すんごい邪魔、してくるもんねー」


 ゆっくり急いで、彼を見つけよう。もちろん笑顔も忘れずに!


「わかってるって。私たちはみーんなで私たちだもん」


 ねー。

  ねー。

   ねー。

    ねー。




     -----


「ねえお嬢さん?彼のこと知らないかな?」


 ジャリジャリと金属片を踏みながら、女性は少女に屈託のない笑みを向ける。そこには純然な好意しか含まれていない。

 それは最悪だった。

 『次元パズル』。それは数多の世界を渡り無数の並行する世界を繋げる代物。これの発動と散開によって可能性の枝は全方向へと伸ばされた。

 それは災厄だった。

 ありえるはずのない存在。摘み取られたはずの可能性。幾多もの分岐の果てに偏在していたかもしれない片鱗の欠片。

 あらゆる時空、全ての次元から観測を許してしまった異端。

 次元パズルが開いたのは世界の扉だけではない。それは最後の一片に希望すら残していないパンドラ。覗いてはいけない猫の箱。

 在り得ない彼女は、可能性を集約して世界に存在を強制する。


「…………」


 邂逅とほぼ同時、幾条もの鎖は複雑に軌道を変えながら敵と定めた対象を捕縛しに掛かった。

 歴戦の彼女だからこそ理解できた。いや、他の魔法少女達でもそれぞれの感情の下に決起したことだろう。

 は、放置していていいモノではないと。

 こと『責任感』に特化した英雄かのじょはその気が一際強かったというだけで。

「貴女。……なに?」

 一切の躊躇と間を排斥した完全な先手。全方位を囲った鎖の捕縛は、瞬きの内にその悉くを破壊され砂利の如く異質たる彼女の足元に敷き詰められるだけに至る。

 問題は、違和感は、多々あった。

 これだけの敵意を振り撒いて攻撃を仕掛けたのに、ほんの少しも感情が揺れ動かないのもその一つ。

 女性は怒りもせず理由を問うこともせず、ただ質問を再度投げ掛ける。

「ね。知ってたら教えて欲しいなー。彼どこだろ?」

 可愛らしく小首を傾げて、ローテールに束ねた黒髪が片側に揺れ落ちる。

 対話は不可能。会話は無意味。

 少女は豪奢なドレスを翻し、煌めく金髪のサイドテールが動きを追随した。

「…え?あれ、もしかしてあなた」

 出し惜しみ、様子見、共に不要いらず

 全力全開、全身全霊を以て。

 これを打倒する。


「闘うの?私たちと?……勝てないよ?」

 心底から不思議そうに、女はもう一度首を傾げる。

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