監獄の世界


「なんだこりゃ」

 殺し屋との戦闘後、騒ぎを聞きつけて学園都市の風紀委員らしき学生達が行列を成して大挙してきたのでさっさと世界を渡った。

 渡ったはいいが、またしてもおかしな場所に来てしまった。

 粗削りな立地に建てられたコンテナの山のような建築物。内部からは鉄を擦るような金属音と呻き声が聞こえて来る。

「アルカトラズ島かなんかかここは…」

 思わず呟くが、もちろん答える者はその場にいない。

 建物はどれもが誰かを収容しているらしく、生命の気配が無数に押し込まれているのが分かった。

 一目でロクでもない世界だと理解し、四周を見回してみても監獄棟らしきもの以外にはたいして得られる情報は無さそうだった。

(外れだな。次…)

 次元パズルを得られない世界に長居する理由は無い。さっさと次元を裂こうと意識を切り替えかけた時、何かが風を切る音が耳を突いた。

 そして爆裂する大地。

(なんだよ、今度は)

 堅悟は今しがたまで立っていた場所に出来た巨大なクレーターを横目に全周警戒を行う。すぐさま飛び退らなければ落下してきた超重量の何かに潰されているところだ。

 戦闘に思考をシフトさせ敵の気配を探るが、どうもあの落下物以外にはいないらしい。

 代わりに、無機物じみた妙に冷えた敵意が、土煙満ちるクレーターから突き刺さって来る。

「…………」

 もちろん無視して次に進んでもいいのだが、とりあえずは堅悟も構えて敵の姿が現れるのを待つ。

 少しでも次元パズルへの手掛かりに繋がるのなら、多少の労苦は惜しむことはしない。

 やがてクレーターの縁からのっそりと顔を覗かせたのは、顔とも判別できない鉄塊だった。

 ただ、かろうじて人の形を取っていたから頭部だと思っただけであり、そうでなければ不気味で不細工な鉄のマネキンそのもの。

 だが動いている。意思を放っている。この何かは間違いなく石動堅悟を敵として定め行動している。

 であれば破壊するのみ。そこに躊躇う余地は無かった。

 生憎と聖剣は先の一戦で破壊されたままだ。次元を渡る為の切断程度にしかまだ使えない。肉体の損傷と同じく魔力による修復で自動再生する代物だが、ここまでの連戦による負傷への負担と併用してのもの。

 残存魔力はそう残されていない。こちらも休めば回復する力だが、そもそもぶっ続けでの世界渡航と戦闘を繰り返している堅悟にはその休息自体が行われていなかった。

 それでも堅悟に焦りはない。

 肉体を運用するだけの必要最低限があればいい。

 剣に頼らずとも、堅悟には拳がある。

 歪な我流武術の牙は長きに渡る経験にて研ぎに研がれているのだから。

 その拳打、鉄を穿つに易い。

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