第6話嫉妬心

「久しぶりの出騎だったからちょっと疲れたね」

私は服を脱ぎながら言う。カルラは体力の塊(言い方変か)だから疲れないし、アナは力の使い方がうまいから、あまり疲れないのだそう。

「ええ、まぁ…それより、あなた達本当に技が使えないの?」

私達は頷いた。

「よかったら、私が教えようか…?」

細い指をピンっと立てて言った。

「お願いします!」

声を揃えてお願いした。

「じゃあ明日から特訓ね。頭と体、鍛えなきゃね」

そういうクララを見て、アナは

「ねぇ、クララはどうしてそんなに腕が細いの??」

言った。それについてはカルラも知りたいらしい。

「あぁ、私のこと…?これはね、両親に売られてから2ヶ月、食べ物が貰えなかったから…」

?!?!親に売られた?!

「カルラは、貴族だよね…?」

「なんでわかった…?私は確かにルーク三世だけど…」

そう、カルラはルーク三世。全然似合わない貴族の名前を持っている。それもそのはず、兄三人と両親を失い、半グレ(ホントは優しいけど)執事と安全な暮らしをしていた。

「あら、そう…なんか、貴族っぽいから」

髪の毛の泡を流し、ボディソープを泡立てるクララ。

「貴族っぽい…?アリアそう思うか?」

「いや、はじめは装備を見るまで気づかなかったよ」

私もシャワーを浴びながら言う。ちなみに、クララとケイには私が王家の生き残りとは伝えないようにしている。気づかれたらその場で言うつもりはあったけれど…

「アナは、…歴史的な魅力を感じる。」

アナは目をぱちぱちして不思議そうにしていた。

「アリアは、貴族じゃないけど…由緒正しい家柄な気がする…」

げ!クララ、どんだけ感がいいのよ!アナは民家の子だと聞いているけど、私のことまで勘付いちゃうとは。

「そんなわけないよ」

私は一応否定しておいた。

「クララちゃん、これ着てね。兵の制服」

ジャージのようなもので、色々機能がある。

「うん…」

基本、戦うときの装備は自由だけど、兵にいるときは制服を着るもの。

「え…!凄い、私のサイズになった…私だいたい服を着ると腕がぶかぶかなんだけど…」

あぁ、だからピッチリした服なんだ。

「いいなー、腕が細いやつは」

カルラは自分の腕を触った。

「カルラは筋肉がついてるんだよ、毎日腕立て伏せしてるし」

「あんなの軽い運動だろ」

そうかな…?私達は、改めて感心しながら外へ出た。

「あ、おかえり!じゃあ入ってくるね!」

セルシオはケイと打ち解けたみたいで、仲良く入っていった。

「仲良いのね…良かった…ケイは突っ走っちゃう性格だから止めてあげる人が必要なの」

い、いかにも豪炎の舞を使う人らしい。

「私も…」

クララは言いかけて、スッと息を吸った。

「消極的な私を引っ張ってくれる人が必要だったから、嬉しい…」

クールガールのクララも、ニコッと微笑むと天使級の可愛さになる。

「お前可愛いな」

「思ってたのと違うかも」

アナとカルラもこの反応。部屋に戻ると、レオン先輩からの置きメモがあった。

「仲良くなれたかな、夕食の支度を手伝ってほしいのでお風呂上がったら来てね、だってよ」

食堂は三階だから、一階のわたしたちにとってはちょっと遠い。二階にも先輩方の部屋はあるので、部屋の前で話す先輩方に挨拶したり、ちょっと話したりしながら通る。去年の入団者の先輩は六人。男女三人づつ。どの人も優しくて強くて頭もいい。花の70期と言われている。

「あ、レイス女王!ご機嫌いかが?」

その中の一人の先輩は時に冗談混じりだけど、よく話しかけてくれて、私のお姉ちゃんに憧れて入団したという。

「そんな呼び方しないでくださいよ…」

私は苦笑いしながら言う。が、後ろには目を丸くして私を見るクララ。

「アリア…やっぱりあなた王家の娘…!」

口を手で覆って、驚いた素振りを見せる。

「ええ、黙っててごめん」

「いや、それはいいのだけれど…ご両親は…?」

「おい、ちょっと黙ってろよ…すみません、仕事があるので私達はこれで!」

クララが私に尋ねると、カルラとアナが口を塞ぎ、手を引いて三階のエスカレーターまで小走りに行った。

「そういうことは…」

「いいよカルラ。クララはこの事をバラすような人じゃない。メリットがないことに手を出すなんて非効率的だし。」

それから少し、とんでもない殺意を向けると果てしないパワーが湧き出てくるとか、お姉ちゃんはエネミーに殺されたとか…様々なことを打ち明かした。

「へぇ、じゃあ、私が感じていた違和感はこれだったのね。…」

クララは別にもう驚かなかった。そして、

「今まで大変だったのね。」

といい、また先に歩いていった。

「なんか、素直な奴なのな、クールガール」

カルラはクララに興味を示した。

「いいじゃない、ケイとは違って安心感がある」

アナはホントにケイのこと嫌いなんだなぁ…最初のことを根に持ってるなんて、ちょっとネチネチしすぎじゃない?

「あ、来てくれたのね!」

レオン先輩はエプロンをして、ジュージューと肉を焼いていた。魚は海の塩分濃度が高すぎて川魚しか食べられないからほとんど出ない。

「何しましょうか?」

「えーっと、じゃあ、まずは…アナ、セルシオとケイを呼んできて」

あはは…雑用だな…アナは登ってきた道をなんですかさず登らなきゃいけないの…と、ブツブツと言いながらスタスタ降りていった。

「カルラはナイフとフォーク、スプーンを全員分用意して並べておいて」

カルラは動きが早いから、全員分なんてすぐ終わる。シャキーンとフォークを持って頷いた。

「アリア、こっちのスープよそってくれる?」

「はい」

クララも私についてきた。そんなクララに、レオン先輩は声をかける。

「まだなれないかな?でも、みんな歓迎してるから。任務も大事だけど、みんなと仲良くするのもいいんじゃないかな」

クララは下を向いてしばらく黙っていた。そして、

「仲良くって…わたしでいいんですか…?私が仲良くなんてしたら、みんな困る気がして…」

「自身がないのね…。でも、話によれば、十大舞楽をものにしてるらしいじゃない?すごいことだと思うけどな」

レオン先輩はクララの頭をなでて、スープを小皿によそった。

「味見してみて」

クララはふーっと息をかけて冷まし、ゴクっと一口飲んだ。

「美味しいです…」

クララも驚くほど、うちの寮のご飯は美味しいんだ。すると、バタバタと足音がした。と、同時に、

「終わりました!」

「連れてきました!もう、なかなか準備終わらないから、大変だったんですよ!」

アナは二人の方を見て白い目をした。セルシオは手を合わせ、声を出さずに謝った。

「さ、じゃあ放送するね」

んんっ、と、マイクテストをして、レオン先輩は夕食のお知らせをした。

「ただいま、夕食が出来上がりました。できるだけ早く集まりましょう」

マイクをオフにして、私達に言った。

「あまり今日は手伝うことなかったかな?でもありがとう!ケイもクララも頼もしいな」

ニコッと微笑むレオン先輩。やがて先輩達がやってきた。

「じゃあ、食べてね」

レオン先輩は戻っていった。

「アリアちゃん、食事中に言うのもなんだけどさ…」

アナは食事の手を止めて、私に向き合っていった。

「どうしたの?」

「お姉さんのこととか、なんで王家の血が途絶えるなんてことになってしまったのか知りたいの。これからアリアちゃんが苦しみを一人で背負っていくなんて、可哀想で…」

なんだ、そっか…でも、私はためらった。今まで、背負って来たんだから、今更どうしようなんてできないと思った。

「なんの話ー?」

そんな中、話題に乗れないケイが、スープを飲みながら私達に話しかける。

「あ〜、いや、なんでもないよ」

アナが言うと不思議そうにしていたが、納得したようで、その後はあまり関わらなかった。

「今夜にしましょうか?」

「そうね……」

そうしていると、ケイがニヤッと笑った。

「残念、もう知ってるよ。僕、凄ーく耳がいいんだよね〜」

そう言い、私にグイッと近づいた。

「教えてよ、そのこと。いくら馬鹿な僕だって、そのくらいの線引きはできる。クララは知ってるんでしょ?」

クララは少し気まずそうにうつむいた。

「気にしなくていい。でも、ちょこっとイライラするよね」

「あ…ごめん、ホントに。」

私はちょっとケイのことをなめていたのかもしれなかった。改めて謝る。

「いいよ。まぁライバル兵だしさ。言いたくないのもわかる。」

お肉にフォークをザシュッと刺した。横にいたカルラは目を丸くして見つめ、向かい側のクララははぁ、とため息をついて言った。

「言ってることと行動が真逆よ…。落ち着いて。貴方を仲間外れにした訳じゃないの。アリアは私にも言わなかったよ。なるべく言わないようにしてたの。たまたま私が気づいてしまっただけ…。」

ケイの肩をガシッと掴むクララ。

「自分の感情云々でアリア達を恨んじゃ駄目…!」

これ以上ないほどにキツい目つきをして言った。

「クララ…?」

ケイはとても驚いていた。

「ちょっと、喧嘩?!もう…」

レオン先輩がやってきて、クララとケイを引き離した。

「ごめんなさい。」

「すみません…。」

二人は頭を下げた。レオン先輩も多少怒っただけで、その後はもう仲裁はしなかった。

「取り乱して悪かったよ…」

ケイはちょっと顔を赤くして謝った。

「いいよ、それより早く食べて今日は何かカードゲームでもしようよ」

セルシオはケイの肩をぽんっと叩いて、笑った。

「ああ、そうだなぁ…」

はにかんだケイはクララに負けず劣らず柔らかくて素敵だった。

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