第10話

ガチャッ

木と鉄の組み合わされた扉を開く。そこはこの世界ではギルドと呼ばれるものだ。

ギルドの中は賑わっており、掲示板の前には大量の冒険者が集まっている。

「あ、ラッキー!お帰り〜」

「遅いかったですね、ラキフェル。」

「あら、帰ってきたのね。」

ギルドの中に入ると、パーティの三人が声を掛けてくる。これはいつもの事だ。

上から、剣士のアルマ。精霊使いのエリッツ。エルフと悪魔のハーフのアナベラ。

この三人は最低でも5年は共にしている仲間たちだ。

「それにしても何故遅れたのですか?貴方にしては珍しい。」

エリッツが眼鏡をクイッと上げながら尋ねてきた。エリッツは子供の頃からの幼馴染だ。小さい頃からよく遊んでいた腐れ縁で、エリッツの効率主義が僕には気に食わなくてよく喧嘩をしていた。

「ああ、ちょっとね…」

先程の少年を思い出す。あの少年の魔力…

「ちょっとって何それっ!気になるじゃん!」

アルマがこちらをじっと見てくる。アルマとは、エリッツとパーティを組んだ後に洞窟で出会った。パーティメンバーをみんな殺されて1人生き残ったアルマが呆然とただの人形のように死体になった仲間達を見ていた所を僕達のパーティに誘ったんだ。アルマは好奇心旺盛で、猪突猛進という言葉が良く似合う。

「うーん。さっき会った少年がとても面白くてね。」

「少年?」

アナベラが悪魔の尻尾を揺らしながら腕を組んで僕に尋ねてくる。アナベラはエルフと悪魔のハーフということで、この国ではあまりいい扱いを受けていなかった。エルフは希少種で、美しい外見から人を惑わす悪者と信じられていて、その上悪魔という人間に災いをもたらす魔界の生物の血が混じっている。それはもう迫害しようとする人や、高額な競りにかけようとする人等がアナベラの周りにはいっぱいいた。でも、アナベラの魔力はそこらの人間とは比べ物にならない程多かったため、数々の功績も残してきた。だからこうして悪魔の尻尾やエルフの耳を出していても何も言われなくなった。アナベラがこのパーティに来たのは、ほんとに偶然だった。その時のパーティメンバーは3人しかおらず、依頼もなかなか受けられなかった。その時に1人だったアナベラがこのパーティに入れられたのがきっかけだった。

「何がどう面白かったのですか?」

エリッツが聞いてくる。そうだ、あの少年…黒髪に赤い瞳の少年…

「ああ、それは…さっき出会った少年の魔力がとてつもなく多かったんだよ。」

顎に手を当ててそう言うと、周りがはぁとため息をついた。

「なんだー。ただ魔力量が多いだけじゃん!」

アルマはそう言って頭で腕を組んで、そう言うと2人も頷く。

「いや、違うんだよ。魔力量が1万とか10万とかの話じゃないんだ!」

僕はこの興奮を3人にも味わって貰いたくて、先程の光景を思い出す。

僕は魔法使いだけど、ある一つのスキルがある。それは他人の能力値を見ることが出来るというものだ。

あの少年の能力値を見てみると、魔力量を表す数字だけが横に物凄く伸びていた。それはもう、数字だけで道路の幅くらいありそうな程だ。

その事を伝えると、3人は目を見開いた。

「なるほどね。それは確かに気になるわ。」

アナベラはそう言って軽く俯きながら思案している。

「じゃあさ、他の能力はどうなの?」

アルマが興奮を隠せないように小刻みに飛び跳ねながら聞いてくる。

他の能力値か…でも、確か。

「他の能力は何も無かったな…魔力量の欄だけに数字が書いてあった。」

「え?魔力量しか見えなかったんですか?」

エリッツがこちらを見る。エリッツのこんな驚いた顔は珍しい。

「うん…魔力量にびっくりして他を見てないだけかもしれないけど…」

「レベルも見えなかったの!?」

アルマは信じられないというような顔でこちらを見てくる。

「レベルか…そうだね。なんにも書いてなかった。」

「なるほど…ラキフェル程の魔法使いを見えなくさせるということは、中々の人ね。」

アナベラの言葉にハッとした。そうだ、僕の他人の能力値を見るという開示オープニアという魔法を跳ね除けたということ。僕はこれでも国が認める魔法使いの中で、上から3番目のSSSランクだ。その僕の力が通じなかったなんて…

「ラキフェル、その少年は今どこに?」

エリッツが慌てたように僕に聞いた。

「彼はもう居ないよ。明日ここのギルドに案内するって約束したんだ。だから、明日会えるよ。」

「なーんか、楽しみだねー!」

アルマがそう言って伸びをすると、僕達は頷いた。

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