第9話
街はとても煌びやかだった。行き交う人々もみんな笑顔で談笑している。大剣を持っている人や弓を持っている人、色々な人がいた。
武器を持っているのは冒険者だろうか。凄いな。
冒険者というのは、色々な依頼を受けて報酬を受け取る職業だ。依頼は薬草探し等の採集や、魔物討伐をするらしい。魔物を討伐できるのは平均以上の魔力を持った人間でないといけないらしく、武器を持っている人は優秀な魔力を持っている人達ということになる。
俺も、冒険者やってみたいな。
村ではこの国の平均以上の魔力を持っているのは俺の父と弟しか居らず、この2人は国からよく王宮に呼ばれていた。
あ、そうだ。あの村はもうないし、俺は自由に生きていける。この世界のことを振り返っておこう。
この世界には、3つの世界がある。1つは人間たちが住むここ人間界。2つ目が神獣や女神、天使が住む天界。3つ目が魔獣や魔王、悪魔が住む魔界だ。
この3つは上から順に天界、人間界、魔界と並んでおり、天界から魔界、魔界から天界へ行くには人間界を経て行かなければならない。
だから、天界と魔界の戦争が起これば、人間界で戦争が繰り広げられることになる。そうなれば、人間界の被害は尋常じゃないけど、女神と魔王に人間が叶うはずもないので、泣き寝入りするしかない。
そして、天界と魔界の戦争が最後に起こったのが今から1500年前。天界の勝利で、魔王は永眠した。
これで平和に暮らせると思ってホッとしていた人間界だけど、今から100年前に魔王が何故か目を覚ました。だから不幸なことに、人間界に現在魔獣や魔物が送られてきて、魔王が天界の調査をしようとしている。もちろん人間界側はまた戦争されたらたまったもんじゃないから、天界に行こうとしている魔王が送った使者を倒して、天界に魔王が目覚めたことを隠している。
そのまま100年が過ぎた。今人間界が平和なのは、冒険者達が魔物を1匹残さず倒しているからで、見せかけの平和だ。いつ崩れてもおかしくない。それに、魔王も力を付け始めたのか魔物達もどんどん強くなってきている。そのせいで魔物達を倒すのに時間がかかり、人間界には魔物が溢れてしまっている。だから、今冒険者という職業は絶賛人手を募集中で、倍率は低くなってる。
だから、俺も冒険者になれるかもしれない……でも、無理に決まってる。魔法が無い人間が就ける職業なんて無いんだ。
ドンッ
「おっと、ごめんね。」
ボーッと俯いて歩いていると、誰かにぶつかってしまった。しまった、前を見てなかった。
「ごめんなさい!」
慌てて頭を下げる。
「いいよ、僕前見てなかったし。…ところで、君は一人なのかな。親御さんは?」
訊ねられて上を見上げると、金髪に緑の瞳の男の人がいた。男の人は白いローブを身につけて、水色と白を基調とした服を着ている人だ。銀色の先っぽに青い水晶のような玉が付いた杖を持っているから、多分魔法使いだろう。
すごい。魔法使いだ。魔法使いは魔力が大量に無いとなれない職業で、魔法使いは冒険者の中でも地位の高い人だ。
「い、今はいない…」
スっと俯きながら言う。ずっと憧れてきた職業の人が目の前にいてどうしていいか分からなくなる。とりあえず、早くここから離れたい。劣等感と尊敬が混じりあって不安になる。
「それじゃ、僕探検するからっ」
「待って」
そう言って反対方向を向いて男から離れる様に走り出そうとしたが、声を掛けられて立ち止まる。
「探検するの?じゃあ、ギルドにおいでよ。ギルドの中、見たくない?」
ギルドっ!?ギルドだって?ギルドというのは、国に認められは冒険者が集まる場所だ。掲示板というのがあって、そこに依頼が貼り出されるらしい。普通の人は立ち入り禁止で、冒険者しか入ることの出来ない場所。
ごくり、と喉がなる。実を言うと、俺も魔法さえあれば、冒険者になりたかったのだ。
「で、でも…入ったらいけないんじゃ…」
だがしかし、ギルドの中にそうやすやすと入っていいわけが無い。一般人がギルドに行くなんてご法度もいい所だし、ギルドに無関係の人がいたら周りの人もいい気がしないだろう。
「大丈夫だよ。僕がいるからね。」
男の人は自信満々にそう言うと、俺の手を引っ張った。
ホントに、良いのかな?なら行ってみたい!俺は男の人に付いていこうと足を1歩進めた。
「アルー!」
その時、背後からマリアの声が聞こえた。
「マリア!」
俺は振り返ってマリアの方を見ると、マリアは大量の荷物を持って手を振りながらこちらに走ってくる。
「もう、アル。こんな遠くまで来て…お買い物終わったから一緒にアイス食べましょう?」
マリアはニコリと笑って俺に目線を合わせる。
「ごめんなさい。この子がご迷惑かけていませんか?」
マリアは先程まで俺が話していた相手を見上げると、困ったように微笑んだ。
「ええ…貴方がこの子のお母様ですか?」
男の人はマリアに負けないくらいの笑顔を作る。
「いいえ、私はアルの保護者です。もしかして、アルに何か御用でしたか?もしそうなら、私は時間を潰して来ますので…」
マリアは困ったように笑うと、俺の頭を撫でた。
「いえ…用というほどの物ではなく、この子にギルドを見せてあげようと思っていただけですので。」
男の人は俺の方を見て笑った。
「マリア…俺、ギルド見てきてもいい?」
俺はギルドを見たい。でも、多分それは子供が勝手に決めていい物じゃないだろう。マリアにそう聞くと、マリアはまた困った様な顔をした。
「そうね…行ってもいいけど、明日にしましょう。もうすぐお昼になるし、アルも初めての事ばかりで大変でしょう?」
マリアは優しく俺のことを撫でると、立ち上がった。
「それでは、明日アルのことよろしくお願いしますね。待ち合わせはここで良いですか?」
「ええ、構いません。」
そうして俺は明日ギルドに遊びに行くことが決まったのだ。
この日はマリアとアイスを食べたり、ご飯を一緒に作ったりした。やっぱりマリアの作るご飯は美味しい。
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