第8話
マリアは家を後にすると、行き慣れた道なのか俺の手を引いて歩いていく。
「ねぇ、アル。アルは何かしたいことあるの?」
マリアは振り返って俺に聞いてきた。
「したいこと…まだ、よくわからない。」
正直な気持ちを伝えた。俺は村から出ていけと言われてしまった。俺は村から出たけど、戻ろうにもあの村はもう無い…出た瞬間に無くなってしまったのだ。今までのようにただぼーっと生きていくだけじゃだめだし、やりたいことも無い。俺が今必要なのはなんだろうか…魔法があれば、冒険者や料理人とか色んな職業が出来るんだろうけど、魔法が無い俺には、魔法が前提とされているこの国では生きていけない。この世界で職業に就こうとも、魔法が無い俺はすぐに断られるだろう。魔法が無いだけで今は迫害されてしまう。昔は、魔法が無かったり魔力が少ない子供は売られていた程だ。もちろん殺されてしまっていた。
だから、魔法が少ない子供は大人になるまで生きていけないと言われているらしい。
「アル、変な事考えているでしょ。」
「……」
マリアは初めて見せた、少し怒ったような顔をして俺の方を見た。マリアは足を止めた。俺は俯いて、地面を見る。マリアの顔を見れなかった。
「……アル、貴方はもう…」
俺の身体が浮き上がる。両脇にはマリアの手が入って、持ち上げられているようだ。
「うわぁっ!」
情けない声が出てしまう。どんどん遠くなる地面に、高くなる視界。
「アル、地面を見てごらん。」
ギュッと後ろから抱き寄せられて、いつの間にかお腹に手が回っていた。言われた通りに辺りを見回すと、さっきよりも森が広く感じる。この砂利道の先もさっきよりも長く続いているみたいだ。
「これが私の見ている世界なの。辺りを見回せて、アルが見えなかった所も見えるでしょ?」
背後からマリアの笑う声が聞こえる。そして、頭を撫でられる。
「だから、アルが困っていたら私が助けてあげる。アルが見えない所も見える私の方が、とってもいい事思いつきそうじゃない?」
綺麗だ。青く染まる空も、こちらを照らす太陽も、葉の一つ一つに反射した光が、小さな粒となって目に入ってくる。まるで、ここだけ美しい絵を描くためにのために止められた時間のようだ。青々とした葉っぱ。ツヤツヤ輝く砂利の石が、まるで…まるで、海のような揺らめく光を醸し出していた。その世界が、まるでマリアに向けて作られている世界のようで、思わずマリアの世界が羨ましくなる。
「綺麗…こんなに、綺麗なんだね。この世界は…マリアは、ずっと見ているんだ…」
だから、あんなに俺に優しくできるのか。この世界を、いや、この世界がマリアの心を綺麗にしているのか…
「そうよ。私はずっと見ているの。アル、安心して…昨日、アルと会えたことは私の宝物。だから、迷ったら相談して。一人で悩まないで…」
ギュッと強く抱きしめられる。初めてみた、マリアの泣きそうな声だ。
「うん、わかった」
俺は頷いた。
初めて来た街はとても綺麗な所だった。煉瓦の道、見たことない材質でできた家や店。行き交う沢山の人々。その人々も、常用服は着ていなかった。常用服はあの村だけの出来事だったのかもしれない。
あちらこちらに目移りしていると、マリアはクスッと笑って、持ってきた籠から何かを取り出す。
「アル、これ付けて。」
マリアがそう言って差し出してきたのは、銀の
「なに、これ?」
マリアを見上げながら言うと、マリアはしゃがんで俺の右手を優しく持ち上げる。そして、人差し指に
指輪を嵌めた。
「これはね、迷子にならないようにする為の指輪なの。これを付けていたら、アルが迷子になっても私が見つけられるから、安心なのよ。」
そう言ってふふっと笑うと、マリアは立ち上がった。
「それじゃあ、お洋服沢山買ってくるから、アルは好きな所見て回ってて。知らない人に付いていったり、暗い道は通ったらダメだからね。」
マリアはそう言うと、洋服店に歩いていった。俺は内心浮かれていた。初めてきた街を自由に探索できるのだ。俺はマリアと反対方向に駆けて行った。
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