竜装騎士、門をくぐり抜ける

 エルムは森の中に足を踏み入れた。

 そこはいつも通り、普段と変わらないのどかな場所だった。

 ブレイスに指定された地点に到着すると、彼らだけではなく、もう一人の人質がいた。


「レン……!」

「安心してください、お兄さん。レンの方はまだアンデッドではありませんよ」


 それはコンの双子の妹のレンだった。

 よく見るとレンは縛られて猿ぐつわを噛まされているが、まだ普通の状態のようだ。

 怪我をしているようにも見えない。

 何かを訴えかけるように『うーうー』と呻いている。


「それでブレイス、お前は俺に何をさせたいんだ?」

「言ったでしょう、一緒に遊びたいだけですよ。ただちょっと特殊な方法でね……」


 ブレイスはアンデッド化しているコンの方をゆっくりと地面に寝かせた。

 コンは命令を聞いているのか静かにしている。


「お兄さんとは、現実世界では強すぎて一緒に遊ぶことができません。そこで、コンの精神世界に入って頂きます」

「精神世界だと……」

「そこでなら不死身のお兄さんとはいえ、攻撃を受けたら普通の人間のようにダメージを食らうはずです。これなら対等に遊べます、嬉しいなぁ……」

「くっ」


 エルムとしては従うしかない。

 ただの人質ならどうにかする手段はあるのだが、蘇生すら不可能な状態では取り返しの付かないことになりかねない。


「精神世界の門は開いておきました、さぁ……コンに手を当てて中にダイブしてください」

「ブレイス、俺はお前を信じるぞ」

「ふふ」


 ブレイスは返事の代わりに笑みを見せるだけだった。

 エルムの意識はコンの中に吸い込まれていく。




 ***




 エルムが見たのは信じられない光景だった。


「ここは……六百年前か!?」


 見覚えのある風景――そこは六百年前のとある村だった。

 親友とも、家族ともいえる顔馴染みが立っている。


『お兄さんは全盛期のぼくたちと戦ってもらいますよ――そう、名も無き救世主たちと、ね』

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