第十章 六百年の憧れ

竜装騎士、古の魔王の気配を感じ取る

 その日、エルムは信じられない程の異常を感じて起きた。


「何だこれは……」


 伝説の竜装騎士と呼ばれる存在ですら怖気立ってしまう事態。

 それはボリス村に古の魔王の気配を百程度も感じ取ってしまったからだ。

 通常ではありえない。

 だが、エルムは慌てるのではなく、否応なく熱くなりそうな血を冷たくさせるように落ち着かせた。


「バハさんは大事な用事があるとかで昨日からいない……。だから、イタズラとかじゃないよな……」


 エルムが寝ているベッド、今日は珍しく一人だ。

 いつもいる相棒がいない感覚が、異常事態に拍車をかけているのかもしれない。

 それでも冷静であろうとして思考を働かせる。


「古の魔王が百程度いるというのもおかしい。封印がすべて解けていたとしても七体だ」


 あの意思のない、おぞましい気配を忘れるはずもない。

 しかし、最近の修行で得た魔法操作の緻密さを駆使してスキャンしてみると、何やら手応えが若干違う。


「気配は古の魔王のモノだが、いくらなんでも小さいか……? それに動き方や場所からして……これは……」


 エルムは信じたくはなかった。

 自らの目で確かめなければならないと思い立ち、一階に下りてから外に出ようとした。

 そこで予想外のある人物が待っていた。


「やぁ、お兄さん。おはようございます、ですね」

「ブレイス……」


 六百年前の仲間である、紫の魔法使いブレイスが一階のリビングに立っていたのだ。

 いつになく機嫌が良さそうな笑顔で――……村の子ども、コンの死体を魔法で浮かせていた。


「コン……!? 一体、誰が……今すぐに俺が蘇生魔法をかけ――」

「お兄さん、実はもう気が付いてるんじゃないの?」

「……」


 エルムは信じたくはなかった。

 しかし、状況が状況だ。

 目の前のブレイスから嫉妬の魔王の気配が感じ取れた。

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