幕間 自分勝手なゲームブック。14の先回り
前書き
今回は一風変わったゲームブック風味です。
ゲームブックとは、自らの選択肢によって結末が変わるという、本のゲームです。
本来なら数字によって運命が分岐するのですが、今回はなぜか数字によって分岐せず。
それとゲームブックは二人称(キミは~と語りかけてくる文章)なのでご了承ください。
――――――
●1
キミは、このドゥルース大陸で冒険者になったばかりの新人剣士だ。
装備も心もとなく、冒険者ギルドからの依頼も『ペット探し』などの危険を伴わないものしかやったことがない。
そんなキミは帝都の酒場で『ある噂』を聞いた。
最近発見された辺境のダンジョンは初心者に優しくて、しかも稼げるらしい――と。
それを聞いたキミは……どうする?
・そんなうまい話あるわけない。噂をスルーして薄い塩のスープを飲んだ。(2へ)
・その話が本当なら行くしかない。噂を信じて向かうことにした。(3へ)
・何か邪悪な意思によって操られている気がする。必死に抗う。(4へ)
●2 ●3 ●4
キミは身体の自由を奪われたかのように、勝手に噂のダンジョンがある場所――ボリス村へと向かったのであった。
***
キミは鬱蒼と生い茂る森を抜け、牧歌的な雰囲気が漂うボリス村へとやってきた。
のどかな畑などもあるのだが、建物が妙に立派で真新しかったりとアンバランスさを感じる。
きっとこれも新しいダンジョンが儲かるからだろう。
キミは期待に胸を膨らませて早速ダンジョンへ向かおうとしたのだが、緑色のエプロンを装備した黒髪のイケメンに呼び止められた。
「見ない顔だけど、ここにやってきたばかりの冒険者かな? それだったら、この先にある宿で部屋を取ると良い。武器や防具のメンテや売買もできるぞ」
親切な黒髪イケメンにお礼を言って、キミは宿屋――ウリコの店へ辿り着いた。
「らっしゃーせー! あ、見ない顔ですね。お泊まりですか?」
ウリコの店というのだから、この元気そうな少女がウリコなのだろう。
宿を取るかどうか悩んだキミは……どうする?
・田舎の宿なんてどうせ高いしベッドもボロいに違いない。野宿にしよう。(5へ)
・ダンジョンへ潜るなら屋根のあるところで寝て体力を回復させたい。泊まろう(6へ)
・何か邪悪な意思によって……そういえば、さっきの親切な男の肩に何かが――。(7へ)
●5 ●6 ●7
キミは邪悪な何かに頭を掴まれたかのように――コホン。自分の意思で素直に頷いて、出された宿帳の欄を埋めていく。
冒険者になるため読み書きの勉強を頑張った甲斐があったというものだ。偉い。
それと意外とリーズナブルな価格で、食事も一階の酒場で取ることができるという。
ついでに黒髪のイケメンが言っていたように武器の売買も可能なので、冒険者にとっては非常に都合が良い。
「それじゃあ、ロリオバちゃん。案内よろしくね」
「このジ・オーバー! 魔王として全力で部屋案内をしてやるのである!」
どうやらジ・オーバーという変わった名前の娘が案内してくれるらしい。
キミは気になる事があった。……どうする?
・魔王とか言ってるけど、この子だいじょうぶなのか?(8へ)
・なぜメイド服なんだ。店主の趣味なのか?(9へ)
・こんな小さい子が働いているなんて……きっと不幸な事情が(10へ)
●8 ●9 ●10
キミは――
「我は本当に魔王であり、メイド服はウリコの趣味なのである! ここで働いている理由は表向きは恩返し、本当は魔王軍復活のために資金調達! ほら、お客様。後ろに居るそれは無視して、早く部屋へ行くのである」
……キミはチビ魔王の奴に従い、階段を上がって客室のある場所へと案内された。
部屋の扉はきちんとした鍵付きで頑丈そうだ。
これなら盗みに入られる心配もない。
部屋の中もシックで質の良い家具が置かれており、しかも外観に反して広い印象を受ける。
もしかしたら、魔術素材で空間が拡張されているのかもしれない。
これを作った人間はとてつもないと感じる。
「ああ、そうそう。隣にはヤバい女が部屋を借りてるから注意するのである。出会い頭に攻撃してくる凶暴さだから……いや、待てよ。そうだ。先に挨拶をしておくといいのである! 鍵が開いていて、着替えを覗いてしまってもそれは事故。合法的に辱めて奴の弱みを握るチャンス!」
そう言うとジ・オーバーは非合法のニオイがするマスターキーを手に、隣の部屋へと走って行った。
ワケもわからずキミは追いかけ、隣の部屋の前に立たされた。
キミはこれから何が起こるのか……想像する。
・着替えを覗くなんて!? そんなのは絶対にいけない。止めないと(11へ)
・合法的なら仕方がない。どうせ覗けないオチなんだろうし(12へ)
・巻き込まれそうなので逃げる(13へ)
●11 ●12 ●13
キミは金縛りに遭ったように動けない!
ジ・オーバーはノックもせずに部屋の扉を開けた。
そこには――
「1211、1212,1213……」
天井の梁に片腕懸垂をしている、トレーニングウェアの金髪女性がいた。
気品溢れる顔立ちと、程よく引き締まったナイスバディなのだが――気炎を吐き出しながら四桁の筋トレをしているソレはオーガに見えた。
「何だ勇者、着替え中でふしだらな身体を晒すかと思ったら、オーガみたいな野蛮な筋肉を晒しているのである」
「いきなり部屋を開けるとは貴様! しかも好き勝手言ってくれて!」
オーガとジ・オーバーが言い合い始めたので、キミは逃げ出すことにした。
部屋に荷物を置いていると愛用の剣が目に入った。
それはお下がりでもらった銅の剣で、すでにボロボロになっている。
道中のモンスターを倒した時に気が付いたのだが、これではダンジョンで戦うのは辛そうだ。
そこで一階の酒場横にあるという武器店を覗くことにした。
武器店へ到着すると、気弱そうだが人の良さそうな金髪の少年が店番をしていた。
「こんにちは! 武器をお探しですか? それともメンテナンスですか?」
ペコリとお辞儀をした少年の胸の名札には『マシュー』と書いてある。
どうやら武器店を任されているらしい。
元気で礼儀正しいし、まだ若いのに感心だ。
持っていたボロボロの銅の剣を見せて相談することにした。
「うーん、なるほど。ちょっとコレとコレとコレとコレ、持って振ってみてくれますか?」
様々な剣を試してみてくれということらしい。
それを聞いたキミは……どうする?
・武器なんて使えればいい、と面倒臭そうに断る。(15へ)
・事前に試させてくれるなんて、とても親切な少年だ。ありがたく試す。(16へ)
・高価そうな武器がいっぱいあるな。盗んで逃走する。(17へ)
●15 ●16 ●17
キミは……マシューの言葉から説得力を感じてしまい、言うとおりにした。
それは正解だったようで、実は彼は武器のスペシャリストだった。
手に馴染み、まるで身体の延長のように感じてしまう合金の剣を買うことができた。
価格も良心的だ。
どうやらダンジョンから取れる物を産地直送で売買しているために、この価格にできるようだ。
マシューに感謝してから、キミは酒場で即席パーティーを組んでダンジョンへ向かうことにした。
キミはダンジョンの下層へ入ることができた。
普通なら低層からのスタートとなるのだが、パーティーリーダーが中級冒険者だったのでショートカット可能なのだ。
メンバーは、高価そうな武具を身につけた羽振りの良いリーダー。それと、キミと同じような初心者の数人で組んでいる。
分け前はほぼリーダーに取られる契約だが、滅多にない経験とやりがいがあって、ここで組んでおけば後々どのパーティーでもやっていけると言われたので、入ってみたのだ。
あー、さすがにちょっと胡散臭くない? キミ、よく誰かに操られるタイプじゃない?
キミは何かを感付いたようだが、目の前にベヒーモスが現れてしまった……どうする?
・何もかも遅かった。リーダーは初心者たちを囮にして逃げ出した。(14へ)
・どうやらリーダーは寄生して潜れる階数を増やしていただけのようだ。後悔して足がすくんで動けない。(14へ)
・奇跡的な手段を閃いて、一発逆転のチャンスを掴む。だが、それも虚しく圧倒的差でねじ伏せられる(14へ)
・勇気を振り絞って剣を前に。(14へ)
・深呼吸をする(14へ)
・諦める(14へ)
・(14へ)
●14
ちなみに14は死の数字だよ。
人間なら運命に抗えず、死神に鎌を振り下ろされる素敵な数字さ。
けど、ここに到達させるとボクのエルムに怒られちゃうから、こうして14の先回りしていたわけ。
14をまき散らす馬鹿と、14に巻き込まれるキミのために、ボクがね。
そう不思議な声が聞こえると、肩がフッと軽くなった気がした。
振り向くと、そこには神槍を構える白銀の鎧の男がいた。
突進してくる巨大なベヒーモスに対して怯みもせず、非常に冷静だ。
まるで数百年戦い続けた英雄のような雰囲気を纏っている。
「貫け――! 零式神槍グングニル!」
輝きがベヒーモスを貫き、一瞬で消滅させた。
信じられない、何か幻でも見せられている気がする。
その後――白銀の鎧の男に脱出を手伝ってもらったのだが、肩に乗っている子竜と目が合った気がした。
***
「……バハさん、今回のはちょっと強引だったんじゃないか?」
「え~。エルムぅ~、世のため人のためだよ~。悪質な中級冒険者も捕まえられたし~」
事の顛末はボリス村のダンジョンが有名になってきて、マナーのなっていない冒険者の一人が問題になってきたという噂だ。
そこでバハムート十三世は暇つぶしがてら、新人冒険者に囁いて誘導――もとい見守って、悪い冒険者に遭遇したときのために助けられるようにしていたのだ。
「しかし、さすがに本人の意思というものがだな……」
「アハハ、新人冒険者君は誘導されていたのには気付いていないよ。それに危なっかしくて見てられないから、大体は良い方向に誘導したからヘーキ、ヘーキ」
「はぁ~……」
「さすがにもうしないって、エルム~」
「それならいいが……」
溜め息交じりのエルムは一人で畑の様子を見に行ってしまい、バハムート十三世は再び手持ち無沙汰になってしまった。
「うーん、暇だな~。……よし、また新人冒険者を導く遊びをするかな~!」
今日も方々から新人冒険者がやってきて、ボリス村のダンジョンは盛況だ。
――――――
あとがき
執筆で作者のタックが14へ行きそう(ゲッソリ)。
というわけで頑張って新連載を始めたので読んで頂けると嬉しいです!
今度の相棒はお馬さんと喋る本!
(カクヨムで作者の別作品に飛ぶのってどうやるんだっけ……)
そちらも面白いと思っていただけたら、☆☆☆☆☆などで評価を頂けると嬉しくて飛び上がります。
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