記念幕間 勇者、闇の波動に目覚めて左腕が疼く
「突然だがエルム殿、わたしはキャラが薄いと言われたのだが……」
「ど、どうした勇者……いきなり……?」
いつものボリス村――勇者が使っている宿屋の一室に呼び出されたエルムは状況がわからなかった。
目の前に部屋主である勇者がいるのだが、いつになく真剣なのだ。
「ええと、勇者のキャラが薄いって……。いや、そもそも誰に言われたんだ?」
「ウリコだ。三時間くらいキャラの薄さを指摘された」
「それは災難だな……。でも、それくらい気にしなくても――」
勇者は興奮したのか、テーブルに強く両手を叩き付けた。
木製のテーブルが強度ギリギリで耐えたが、大きく軋んでいる。
「ダメなんだ! 改めて指摘されて気が付いた! わたしには個性が足りない! 今、こうやって喋っていてもエルム殿と口調が割とかぶっているし!」
「えぇ……口調くらい……」
「口調一つと侮ってはいけない! たとえば、忌々しい魔王は語尾が『なのである』とかテキトーで頭の悪さが特徴的だろう!?」
「ジ・オーバーに関してはいつもながら当たりがきついな。仲良くしよう?」
「バハ殿は飄々としていて、ウリコは若さ故の勢いがある! それに比べて……わたしは……なんか普通……ーッシャ!」
「……シャ?」
「勇者としての、わたしらしさを出してみた……シャ!」
「えーっと、勇者だから語尾が、シャ? 魔術師だったら、ツシ。戦士だったらンシ……になるのか」
勇者は多少恥ずかしさがあるのか、テーブルに顔面を押しつけるようにして突っ伏してしまった。
普通に考えれば確かに恥ずかしい。
エルムであれば、語尾に『~そうだルム』とか付けるようなものである。
ちなみに勇者の本名はアリシアなので、語尾が『シア』でも発音的にはあまり変わらない。いや、それは今あまり関係ない。
「そ、そうか……もうこれで勇者のキャラの薄さは解消されたな……それじゃあ、俺は畑仕事があるから……」
「まぁ、まだ待つ……っしゃ!」
「格闘家が気合いを入れているみたいだな」
エルムは冷静にツッコミを入れるが、勇者は鋼の意志を持ってスルーしてきた。
「口調によるキャラの薄さは完全に解決した……っしゃ」
「……したか?」
「だが、しかし。外見による特徴が薄い!」
「……いつも全身鎧って、かなり目立つような」
「いや、エルム殿! 我々の周りを思い出してほしい! まず、エルム殿は変身する! 目立つ!」
普段使いは〝白〟と〝緑〟が多いので、本人としてはそんなに目立っている気はしていないが。
「変身っちゃ、変身だけど……」
「バハ殿は子竜というだけでも目立つのに、大きな竜にもなれるという! そして、にっくきアイツは露出魔王! 略して露出魔!」
「ジ・オーバーの衣装は、まぁ……」
魔王姿の時は本当に露出度が高くなるので一ミリも擁護はできない。
しかし、そろそろ興奮しっぱなしの勇者を
「ほ、ほら……でも、そういう観点ではウリコは地味な村娘だぞ? あまりそういうことは気にしなくても……」
「ええ、そうです。その通りですエルム殿。わたしもそう思いました。しかし、ウリコ本人に直接指摘したら『逆に普通の村娘が一人だけいるって目立ちません?』と返されたのです!」
「下らない舌戦では最強だな、ウリコ……。って、納得しかけてしまった! えーっと……」
エルムは、何か勇者の目立つ部分を考えることにした。
派手な何か――
「そ、そういえば勇者。岩クジラ相手にビーム出していただろう、ビーム。すごいじゃないか、ビームを出せるなんてそうないぞ!!(※コミックス三巻参照)」
「エ”ル”ム”どの”っ!」
勇者は両手からビームを出しながら、テーブルにその輝く両拳を打ち付けて叩き割ろうとする勢いだ。
いったい何が不満なのだろうか。
「割とみんな、ビームを出してるじゃありませんか……。エルム殿は言わずもがな、露出魔王はバリバリ出して空中まで飛び回ってますし、ウリコも風呂場でモクモクビームを出したり消したり……」
「最後のは何か違う」
「そんなワケで、わたしはキャラ付けのために闇に魂を売ることにしました……!」
「なにっ!? 闇に魂を売るだと!? 待て、早まるな――」
あまりに勇者の表情が真剣だったので止めようとしたのだが、もう遅かった。
「ククク……まずは露出魔王から盗んできたマントを羽織ります」
それはジ・オーバーが魔王姿の時に羽織っている一張羅のマントだった。
今頃、我のマントがなくなったと困っていることだろう。
「そして、ウリコから銀貨一枚で購入した呪いの包帯を左腕に巻きます」
どう見てもウリコが売店で売っている普通の包帯だ。
この前、ミスって仕入れすぎたと嘆いていた。
価格は銅貨一枚だったと思うのでぼったくられている。
「くっ、左腕に封印されし闇の炎が疼く……! いつもの光の勇者アリシアは仮の姿、実は隠されし邪の部分が……!」
話の流れ的に、たぶんウリコが在庫の余った包帯を高く売りつけるために勇者を言いくるめたのだろう。
勇者が何かブツブツ言いながら、ショーグンから借りてきた眼帯を付け始めたのを背にして、エルムは部屋をソッと出た。
「部屋の外でこっそり聞いていた半笑いのウリコ、ちょっと話がある」
「あ、あはは~……バレちゃいましたか~……。私はお仕事があるのでっ! じゃ!」
逃げようとしたウリコは首根っこを掴まれて、お説教を受けることになった。
後日、真相を知って赤面する勇者に銀貨が返金されたとか。
――しかし、ただでは起きないウリコ。次はマシューへと魔の手を伸ばすのであった。
「私の快進撃へ続きますよ~!」
――――
あとがき
続かない。
というわけで本日4月12日、漫画版竜装騎士のコミックス三巻が発売します!
いつもの記念幕間ですが、今回はかなりコメディ寄りですね(三巻特典の巻末小説の反動が来たのかもしれません)。
コミックス三巻の内容としては、原作一巻のマシュー編を解決する一話で始まって、そこから原作二巻の海で水着に着替えて楽しく遊ぶ(間違ってはいない)感じですね。
そして、帝都暗殺編も範囲に入っているのですが、原作と違って『本物』が出てきますね。
これはWEB版でもできなかった要素なので、作者本人もかなり楽しみながら読んでいる感じです。
(まだコミックスになってない最新話も丸さんの戦闘シーンすごい……!)
ここまでは、マンガ部分に関してはネタバレに気を遣うタック。
さて、三巻用に書いた巻末小説は、マシューが主役になっている感じですね。
いつか書きたいと思っていた要素を詰め込んでみました。
冒険者三人組の関係や、マシューのウェポンマスターに踏み込んだ内容となっています。
あとジ・オーバーが間接的に被害者になるシーンは書いていて楽しかっt……ゴホンゴホン。
話の構成とか結構前から考えていたので、楽しんで頂けると幸いです。
ちなみに偶然ながら巻末オマケマンガもマシューだったので、丸さんと赤い糸で繋がっているか、はたまた担当さんが催眠スキルに目覚めて裏から操っていた説を推したいと思います。
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