記念幕間 竜装騎士、ゴーレムパイロットになる

 隊長ゴーレム――またの名を〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟。

 全高十八メートル、外見は赤い大鎧武者のような威圧感を放っている。

 材質はミスリルでSSSランク冒険者の攻撃にも耐えうるという。

 AIとなっているコアは魔王軍の隕鉄蟲の魔石を使用していて、弱きを助け強きをくじく性格だ。


 隕鉄蟲本人が第二の人生として楽しんでいるらしい。

 最初は自重で動けなかったのだが、なまじエルムとジ・オーバーが協力して全力改修しまったために、4400万馬力という脅威の数値で上級竜にも匹敵する存在に生まれ変わった。


 武装も豪華である。

 ダンジョンボスのレアドロップである巨神の刀、古代の機械モンスターが使ったという魔素M2グレネード、両肩には極大魔力砲、右腕には収納式ドリル、左腕にはパイルバンカー。

 そして、背中には可変式のドラゴンウィングまで用意されている。


「ふっ、まさかコレに乗る日がやってくるとはな……」


 隊長ゴーレムのコックピット内にいるエルムは、操縦桿そうじゅうかんを握りながら、普段より思い詰めた表情で呟いていた。

 外部から通信が入ってくる。

 それはオペレーターのバハムート十三世だった。


『えー……あー……。んんっ、ゴホン! たっ、大変だよぉエルムぅ! ボリス村に魔族たちが攻めてきたよ! すごい数だ!』


「なんだって!? 俺が偶然、〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟を改修して、まだテストすらしていない段階だというのに!?」


『ソウダネー……。えーっと、敵の数が多すぎてレーダーが埋め尽くされてる。画面内に敵が七分で森が三分だよ』


「わかった……すぐに対応できるのは俺しかいない……。俺は〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟で行く!」


『……〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟って口に出して言いたいんだよね?』


 そんな子竜のツッコミを無視しながら、エルムはコックピット内で隊長ゴーレムを起動させるためにトグル式スイッチを操作していく。

 カチカチカチと心地良い音が内部に反響する。

 画面にはステータスが表示され、出力などが安定していることを知らせた。


「オールグリーン……いけるぞ!」


【システム、キドウ】


 抑揚はないが可愛い声質のAIボイスが告げると、コックピット内のモニターに映し出される視界がグンと高くなった。

 隊長ゴーレムが立ち上がったのだろう。


「すごい、まったく揺れないぞ!」


『いや、まぁ……そりゃあねぇ……』


「なんという安定性なんだ!!」


 興奮気味のエルムだが、敵が迫っているのをしっかりと確認していた。

 ボリス村に迫ってくるおびただしい数の魔族たち。


『ええと、なになに……。そいつらは隔絶された魔族の国からやってきたらしい。どれもこちらの大陸のモンスターとは比べものにならないくらい強いみたいだよ。具体的には一体一体が魔将軍クラス』


「それが数千、数万といるわけか……しかし、俺はボリス村を守る!」


『あー、うん。がんばって~』


「エルム、行きまーす!」


 ウリコの店が真っ二つに割れて、地下から隊長ゴーレムが現れた。

 先制攻撃とばかりに両肩に装備されている極大魔力砲を選択。

 エネルギーゲインを示す計器類の針が激しく揺れる。


極大魔力砲ハイパーメガドラゴンランチャー、エネルギー充填120%! っぇー!!」


 放たれた二本の光柱が直進して、大気をビリビリと振動させる。

 凄まじいエネルギーが、視界を埋め尽くしていた魔族の大半を消滅させた。

 何もなくなった空間が、未だに時空をスパークさせている。


「すごいな……」


 しかし、負荷に耐えきれず砲身が溶け落ちてしまった。

 急ごしらえのため、交換パーツもないのでバックパックごとパージすることにした。

 数トンはありそうな巨大なバックパックがゴトンと地面に落ち、土埃を巻き上げる。


「まだまだ魔族は残っているな……次は接近戦だ! ドラゴンウィング!」


 隊長ゴーレムは大きな翼を広げて高速飛翔――魔族たちの最中へと飛んでいく。

 待ち受ける魔族たちの外見はグレーターデーモンのようだが、非常に魔力が高く、大きさも隊長ゴーレムと同じくらいある。

 それがまだ数千以上は残っているのだ。

 普通なら尻込みしてしまうだろう。

 だが、逆にエルムは高揚していた。


巨神の刀ドラゴンブレード!」


 巨大な刀が魔族たちを軽々と斬り割いていく。


魔素ドラゴングレネード!」


 強すぎる爆発が魔族たちを襲う。


「ドラゴンドリル!」


 螺旋の力が魔族たちをねじ切る。


「ドラゴンパイルドライバー!」


 鋼鉄の杭が魔族たちを貫く。


『……エルムぅ、なんでもドラゴンって付ければいいわけでもないと思うよ~』


 子竜の冷静すぎる通信を聞き流し、最後に残った超大型魔族に向かってエルムは必殺技を放つことにした。

 巨大化させた神槍を隊長ゴーレムに持たせて、エルム自身のエーテルを注ぎ込んでいく。


「異界の主神オーディンよ、俺に力を寄越せ。――絶対勝利、ただ其れだけのため、神穿ち殺す楔と成れ。最強の邪竜と竜装騎士と〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟の名において――我放つ――」


『あ、そこに名前入れるんだ。さすがのボクも理解できないセンスだよ……』


「――〝必中せし大機の神槍エクスマキナ・グングニル〟!!」


 モニター一杯に光が溢れ、超巨大魔族は細胞の一欠片も残らず消滅していた。

 ボリス村に平和が訪れたのだった。




 ***




「ちょっとエルムさーん、叫び声が漏れてるって苦情が出てますよ~」


 ここはウリコの店の横にある倉庫。

 そこの隅っこに体育座りをした隊長ゴーレムと、中に乗っているエルムがいた。


「わ、悪い悪い……つい戦闘シミュレーターに熱中しちゃって……」


 実は先ほどまでの魔族との戦闘はコックピットのモニター内だけの出来事で、リアルでは何も起こっていなかったのだ。

 改良した〝赤式フルアーマーゴーレムVer2.0〟の性能は本物を基準にしたものだが、一国を軽々と滅ぼすレベルの力を使う場面は早々ない。


「エルム、次は我がやるのだ! 代わって、早く、早く!」


 夜通し改修に協力したジ・オーバーの目の下にはクマができていて、徹夜明けテンションだ。

 先ほどのエルムもそんな感じだった。


「も~、ロリオバちゃんも静かにしてくださいね~」


「ウリコにはわからぬのか!? 武器名とか叫ぶ喜びが!」


「わ~か~り~ま~せ~ん~。私は武器じゃなくて、防具系女子なので。それに隊長ゴーレムちゃんは平和の象徴みたいなものなんですから、実際には戦わなくていいんですよ~」


 いつものようにワイワイと言い合う面々。

 そんな中、隊長ゴーレムはどこか嬉しそうに見えた。

 今日もボリス村は平和である。




――――


あとがき

Q、どうしてこんなものを書いたのだタック。

A、コミックス二巻の隊長ゴーレムが予想以上に格好良くて、ロボット物を書きたくなったから。



というわけで、今日10月12日!

漫画版の竜装騎士二巻の発売日です!


結構、小説書籍版で追加した要素が入っているので、WEB版竜装騎士を読んだ読者さんも楽しめるものとなっていると思います。

具体的には傷ついたワイバーンとウリコの心温まる感動話や、○○○○が魔王の血によって世界を滅ぼしかねない存在になったりと……!


そして、男性諸君はお風呂シーンが気になっているはずだ! そうに違いない!

湯気が消えたぞ! やったぜ!

あ、女性読者さんは、肌を晒しているエルムとバハさん(WEB版や書籍版と違ってショタバージョン)の絡みをお楽しみください。いえ、そういう絡みではないですが。

(担当さんとお風呂シーンや水着シーンのやり取りの時はメチャクチャ緊張するタックですが、完成品を見ると普通に読者みたいなテンションになる模様)


丸さん書き下ろしのオマケマンガは「防具店の娘、母となる??」です。

髪を下ろしたジ・オーバーのネグリジェ姿、ポニテ巫女服姿、まつげの長いスヤスヤ寝顔が可愛い!

そして、ウリコは……母となってしまうのか!?


タック書き下ろしのオマケ小説は「お嫁さんオーバー!」です。

こちらもジ・オーバーに関連したもの。

丸さんのオマケマンガより前に書いていたのですが、「母」と「嫁」という感じで偶然にもかぶってしまいましたね……! 丸さんとの運命を感じる。

内容としては、ジ・オーバーがエルムの幼妻になります(誤解)。

細かいところだと、エルムの自室描写が初ですかね。

今回の幕間に出てきた〝赤式フルアーマーゴーレム〟のミニチュアが飾ってあったりします。

ちなみに赤式と付けたのは、丸さんの代表作の『トライピース』のリスペクト! 強化機兵「黒式」からだけど細かすぎて伝わらない!


そんなわけで、今日10月12日!

丸智之先生によるコミックス

『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~ 2巻』

発売となります!


ご購入頂き、秋の夜長のお供にして頂けると幸いです。

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