弁当七番勝負! 強制カップル組の最高級バハムート十三世弁当!②

「出来たぞ、ブラックミスリルの弁当箱……。こんな素材で作ろうだなんて、どういう発想なんだ、勇者……」


「エルム殿には言われたくない。しかし、いやはや……さすがの加工技術だ。黒弁当箱ブラックボックスを作る、中身底知れぬブラックボックスのエルム殿」


「それは上手いのかよくわからない」


 ボリス村の厨房。

 さっそく勇者は、エルムにブラックミスリル製の弁当箱を作ってもらっていた。

 ブラックミスリルは一流の板金職人さえ加工が難しいのだが、エルムはいとも容易くやり遂げてしまった。

 怪しく黒光りするそれは、もはや弁当箱と呼ぶのか怪しく、高硬度の防具に近い。


「うむ、バハ殿に相応しい弁当箱だ!」


「確かに、バハさんの本来の色は“黒”だから合っているな。……それで、中身は何を作るんだ?」


「エルム殿、よくぞ聞いてくれた!」


 厨房の中には、勇者が持ち込んだ数々の食材が並べられていた。

 普段見ないような食材が多い。


「わたしが作るのは“最高級バハムート十三世弁当”だ! バハ殿に相応しい、贅を尽くした最高級の宮廷料理を弁当に詰め込む!」


「意外だね、勇者って料理作れるんだ?」


 子竜に戻ってリラックスしているバハムート十三世。

 人間の料理に協力できないので、あとはもうアクビをしながら眺めるくらいしかやることがない。


「はい、バハ殿! 無駄に花嫁修業を受けていたりしましたから! きっと、それも今日このためだったのでしょう!」


「ボクは絶対に、このためじゃないと思うな~」


 愛はプライスレス、材料費無制限。

 フォアグラ、トリュフ、キャビアはもちろん、燕の巣、フカヒレ、蟹、アワビ、海老などの高級食材をふんだんに使った宮廷料理。

 弁当箱ならぬ、宝石箱と言っても良いくらいのお値段だろう。


「いや、これでも足りない。バハ殿への愛には足りない」


「え……まだ何かやるの……」


 材料費を計算するのが怖くなってきたエルムだったが、さらに愛の重さを知る事になる。


「ご飯の部分を……そうだな。副官のように、わたしもバハ殿を描いてみよう。もちろん、海苔のように剥がれてしまう愛ではない!」


 勇者はチキンライスの上に薄焼き卵を載せて、ケチャップを取りだした。


「このべっとりと張り付いて、離れる事のないケチャップでバハ殿を描こうではないか! まるでバハ殿に捧げられる、わたしの純潔のようだ!」


「うわ~……き~も~い~……」


 これには最強の邪竜もドン引きだった。


 ――こうして弁当作りは進んでいったのだが、一つ問題があった。


「なぁ、勇者」


「どうしたんだエルム殿」


「どうやって弁当を販売するんだ?」


「……というと?」


 今回の弁当勝負は、基本的に作った人物が手売りしていく事になる。

 この強制カップル組でいうのなら、勇者とバハムート十三世という事になるのだが――。


「勇者は、俺達以外の前では全身鎧で素顔を隠してるよな? さすがにその状態で売るのかなと……」


「なに、心配はいらない。バハ殿が人化すれば、美少女にもイケメンにもなれるではないか。それに見栄えをする衣装を着てもらって、愛想を振りまけば良いだけだ。こんなイージーな事は無い」


「……バハさんが愛想良く、大勢の人間に礼節を尽くして売り子をする。そんなことをしたら、ノガード大陸が消し飛ぶぞ?」


「ハハハ、何を言っているのだエルム殿」


 いきなりの突拍子も無い発言に勇者は冗談半分で笑うが、子竜は心底嫌そうな表情で溜め息を吐いた。


「はぁ~……。このボクに、人間相手に媚びへつらって商売をしろと? そんな事をしたら、ストレスでついうっかり“火”を吐いてしまうかもしれないよ」


「やっぱりな。バハさんはストレスが貯まると何かで解消する癖があるらしい」


「さっすがエルム、ボクの事をよくわかってる~。ということで、販売は勇者――いや、アリシアに任せたよ。さっきの提案を丸々お返ししてね♪」


「……え? え?」


「エルム、採寸よろしく~」


 勇者という肩書きではなく名前で呼ばれた意味。

 アリシアはクエスチョンマークを浮かべるしかなく、ただただエルムから採寸される。メジャーでなすがままだ。


「ああ、おかまいなく。俺はバハさんと一部知識の共有をしているから、アリシア・ジーオの事は知っている」


「い、いや。信頼するエルム殿に素性を知られるのはいいだが、あの、別の事で混乱してしまって……。つまり、その、どうして採寸をされているのかと」


 その時、厨房の天井がバンッと開いてウリコが逆さまに頭を出した。


「可愛い服を着て、お前が売り子になるんだよぉー!!」


「なにぃー!?」

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