第四章 魔王と勇者のいる宿屋

竜装騎士、村長になって村の再建で未来を見せる

「うーむ、村の民家の大半が壊れてるなぁ……」


 魔王軍によって破壊された村を見て、エルムは悩んでいた。

 ここで“緑”モードを使って全ての家を建て直すことはできるのだが、ただの村人の自分が、勝手にそこまでやってしまっていいのだろうか? ……と。

 そこで付近にいた村長に許可をもらおうと話しかけた。


「村長、村の件なのですが──」


「おぉ、エルムさん! 丁度、探していました!」


「え?」


 年老いた村長は、エルムに向かって頭を下げた。


「もうワシではどうにもなりません!

 どうか、どうかこの村の長になっていただけないでしょうか!

 この老いぼれジジイの最後の頼みだと思って! お願いします!」


「お、俺が村長に、ですか……?」


「はい、すでにジャガイから、一部の権利を譲渡されているエルムさんなら、問題はないはずです」


「俺なんかが……」


「いえ! エルムさんだからこそです! 見てください、周りを!」


 いつの間にかエルムの周りには人が集まっていた。

 ウリコ、ショーグン、道具屋のおっちゃん、その他村人のほぼ全員。

 微笑み、うなずき、サムズアップと様々なリアクションだが、どれもが肯定の意味だ。

 村長は話を続ける。


「エルムさん! ぜひ、お願いします!

 も、もしこんな村に移住が嫌だというのなら……そ、そうだ!?

 ウリコ、お前、とつぎなさい!

 15歳ならもう身を固めても良い時期でしょう!」


 村長の言葉で、ウリコに視線が一斉に集まる。

 キョロキョロと挙動不審になるウリコ。


「え、あ、急になんですか!?

 で、でも……エルムさんが良いって言うのなら、私……その……」


「──おぉっと、尻尾がすべったぁ!」


 突如、ウリコの顔面に子竜の尻尾が飛んでくる。

 遠心力を利用した見事な振り抜きでベチンと直撃。


「ぶべらっ!?」


「ごっめーん、ボク、たまに尻尾がすべるんだ。竜だから仕方がないよね」


 告白キャンセルを発動させたバハムート十三世はどこか満足げだった。

 一連の流れをスルーして、エルムは話を戻す。


「条件は何もいらない。村長の話、引き受ける事にします」


 そのエルムの言葉に、倒れているウリコ以外は村人大喜びだった。




 それからエルムは“緑の創作業着クラフトモード”にチェンジして、村の再建作業を開始した。

 まずは半壊した木造家屋の撤去。

 素材として再利用できるため、木材を零式神槍グングニルのマジックボックスに収納していく。


 次に、この際なので民家をすべてレンガ作りに変更することにした。

 帝国や王国首都の富裕層のような建物を設計。

 いや、それ以上のものになるかもしれない。

 その作業を村の大工にも見学させている。


「あ、あの新村長……。こんなすげぇのオラたちに見せられても……」


「大丈夫、普通に作るときのための細かい説明も随時入れていく。

 あとで復習用の書物も取り寄せておくよ」


「い、いや……あの……。

 全部、新村長がやっちゃえば、オラたち必要がないんじゃってことで……」


「そんなことはない。

 今は急ぎだから俺が全部やるけど、職人を育てるってことは大事なことなんだ。

 俺がいなくなっても、その技術は受け継がれるし、進化もしていくだろう?」


「新村長、いなくなるんですか!?」


「いや、例えだから。例え。不在にする程度はすぐ来るかも知れないし。

 まぁ──」


 エルムは柔和な笑みを浮かべた。


「職人さんを頼りにしているってことだよ。それと好きなんだ、そういう人たちが」


「うぅっ、新村長……そこまでオラたちのことを……!

 オラたちも新村長が好きです! 大好きです!!」


 大工と結ばれた絆。

 普通なら感動シーンだが、


「おぉっと、尻尾がすべったぁ!!」


「あいったぁぁ!?」


 ベチンと子竜の尻尾が飛んできた。

 バハムート十三世としては、男女どちらでもそういうのは阻止らしい。




 そんなコントのようなやり取りを挟みつつ、レンガ作りの家々が完成した。


「うん、畑は無事だったし、とりあえずはこれで元の生活ができるかな」


「……ねぇ、エルム? ボク、思うんだ」


「どうした、バハさん?」


「この村には大浴場がないよ?」


 エルムはいつもながら、突拍子もない子竜の言葉の意味がわからなかった。

 子竜はニコニコと言葉を続ける。


「全裸のエルムがボクを抱きながらの入浴シーンを見せつける場所が……ないよ?」


「なにを言っているんだお前は」


「というわけで、水道を作ろうよエルム!」


 バハムート十三世は言い出したら聞かない。

 エルムは仕方なく、価値観の合わない相棒に付き合うのだった。


「水道か……。アーチ構造の水道橋とか石で作って──」


「えー、メンテ面倒そうじゃん。地下に樹脂パイプ通して楽にやっちゃおう」


「いや、技術水準的にそれこそ、ここじゃメンテが不可能で……」


「パイプ自体に再生と対不浄を付与。ね? 簡単でしょ?」


「バハさん、速攻で職人さんの存在を否定するというハイスピード手のひら返し展開は……」


 そう言いつつ、エルムは特殊樹脂パイプを作成し始めていた。

 特別な存在としてワガママを聞いてもらって、満足げなバハムート十三世。


「す、すげぇ……。見たことの無い素材だ……」


 それを眺めていた大工たちは、世界水準を超越した技術を崇めながら、未来の可能性を知って、勉強をがんばろうと思ったのだった。

 結果的にエルムの水道作成は良い刺激となり、数々の職人を育てることとなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る