幕間3 逃げる王国もぐもぐタイム♪
「な、なんで男爵のオレがこんなことをしなくちゃ……」
国王たちは
大人数を受け入れられる場所を目指して、逃げていた。
何から逃げているかというと、それは様々なモノからである。
強いて言うのなら……現状はSSSランクモンスターの集団からだ。
「クソッ! クソッ! これも全部、下請けの竜装騎士──エルムのせいだ!!」
昏き森の中、頭を抱える男爵。
彼は、王の命令で名誉ある
「なにが民を守る名誉ある殿だ! ただの生贄じゃねーか!!」
男爵はエルムの一件で罪人とされ、王から使い捨てのコマとされていた。
追ってくるSSSランクモンスターからの時間稼ぎ。
それが男爵の名誉ある殿の意味だ。
「男爵様……これからどうなるんでしょうね……」
「知るかッ! いいからオレを守れ!!」
男爵の周りには頼もしい私設軍隊がいた。
美男美女を揃えた、とても頼もしい護衛だ。
男爵の夜の相手も努めていて、彼らとの絆も強い。
「オレのために死ねッ! みんな死ねッ!
お前らも、クソ王も、エルムも死ねッ! 死ねッ!!」
「こ、こんな男爵と一緒に死にたくない……うわぁーッ!!」
とても絆は強く、逃げた私設軍隊は9割で済んだ。
男爵も一緒に逃げたかったが、すでに顔は広く知られていて、罪人ともされたので敗走は死である。
この昏い森の中で追ってくるSSSランクモンスターと戦わなければ活路は見いだせない。
「うぐぐ……だが、逆に考えれば、勝ちゃいいんだ、勝ちゃ……。
チャンスはある……」
まだ昼間だというのに森の中は昏い。
木々が擦れる音は魔女の笑いのようにも聞こえ、草は青白い亡者の手に見え、周辺を抱擁するような闇は冥界との境目を連想させる。
湿気が酷い。
じとりと首筋に汗が流れ、土の臭いと混ざって嫌悪感を増す。
──ガサリ。
草むらで何かが動く。
男爵は緊張感で心臓が、脳が飛び出そうだった。
「ふぅーっ、ふぅーっ!」
息が荒くなる。
現れるのは巨人か、骸骨か、猛禽か。
だが、現れたのは白いモコモコ。
「お、ウサギか……?」
ふわふわ毛並みの小さなウサギは草むらから顔を出し、プルプルと震えながら男爵たちを警戒していた。
鼻と耳をピクピクさせ、人間を怖がるようにキョロキョロ。
「いやー、可愛いですねー。
あれ? 男爵、急にネックガードを付けだしてどうしたんですか?」
私設軍隊の女は、無警戒に微笑みながらウサギに近づいていた。
ウサギはピョンッと飛び跳ねた。
「──あっ」
首も飛び跳ねた。
ウサギを撫でようとした私設軍隊の女の視点がグルリと回転。
地面にボトッと落ちながら、自らの胴体を見て微笑んだまま絶命した。
「は?」
状況が理解できない私設軍隊たち。
男爵だけは逃げ出していた。
「じ、時間稼ぎは頼んだぞ! 我が勇敢なる私設軍隊よ!」
「ああ!? 男爵どこへ!?」
男爵は知っていたのだ。
このウサギがただのウサギではなく、SSSランクモンスターだと。
その名はボーパルバニー。
別名──首狩りウサギ。
円卓の英雄を殺し、果ては形のない化け物さえ狩るという伝説のモンスター。
ちなみになぜ男爵が知っていたかというと、ボーパルバニーの素材欲しさに、その巣にちょっかいを出していたためである。
「男爵、待っ──」
「うわああああああああああ助け──」
ピョンっと跳ねれば首が飛ぶ。
所詮ケダモノ、会話の最中だろうと問答無用。
一つ、二つ、三つ、いくつもいくつも首が飛ぶ。
ピョンピョンピョンピョン首が飛ぶ。
──男爵が逃げ出したあと、残ったのは首無しの胴体と、真っ白い身体を血で染めながら、美味しそうに人間の頭部を囓るウサギの姿だけだった。
* * * * * * * *
「はぁはぁ……ここまでくれば大丈夫か……」
「そ、そうですね……」
男爵はお気に入りのヒーラーの少年一人だけを連れて、森の奥へと移動していた。
乾ききった喉を潤すために、水筒を開けて水をゴクゴク飲む。
「っぷはー、まさか水がこんなに美味いとはな。
アイツらの分も生き延びてやらなければ! うん!」
「だ、男爵様……」
「ん? どうした? 水が欲しいのか? 口移しでやろうか? ハッハッハ」
「男爵様……そうじゃなくて……白いのがそこに……」
小さなボーパルバニーの中でも、さらに小さな子ウサギが一匹。
男爵の方を可愛く見つめていた。
「お、驚かせるな……子ウサギではないか。
丁度良い、くびり殺して素材を取ってしまうか」
だが、子ウサギでもボーパルバニー。
ピョンッと男爵の首に向かって飛び跳ねた。
──ガキンっと、金属音。
「おっと、危ない。オレに首はねは通じんぞ?」
男爵は首に付けているミスリル製のネックガードをさすった。
これは超高級品であるミスリルを使ったもので、並大抵の攻撃では切り裂くことはできないのだ。
男爵は最初からボーパルバニーが相手だと予感していたので、密かに自分だけの分は用意してあったのだ。
「ククク……どぉれ、逆に子ウサギの首を引き千切ってやるか……」
乱暴に子ウサギを掴む男爵。
しかし、そこに親ウサギが現れた。
「チッ、他にもいたか! どうせ首しか狙わんから、オレの敵じゃないけどな!」
そういった瞬間、親ウサギはピョンっと跳ねた。
──男爵の脚めがけて。
「……は?」
男爵はグラリと倒れた。
当然である、地面を踏ん張るための脚が切断されたのだから。
ボーパルバニーは首ではなく、脚を狙った。
それはくしくも、男爵が子ウサギを持ち上げていたため、それを避けるための位置だったというだけだ。
子ウサギに構わなければ、男爵はミスリルのネックガードで無事だったかもしれない。
「いでぇぇぇええええ!! オレの脚が!! 脚があああああ!!!
ひぃぃぃぃ!! 早く再生してくれ、魔法で再生してくれ!!
エルムみたいにぃぃぃ!!!」
泣き叫ぶ男爵に、ヒーラーの少年は申し訳なさそうにしていた。
「あ、あの……再生は魔法の領域です……。
普通の人間は下位である魔術しか使えません……」
「なんだそれは!? なんだそれはァァ!?
エルム程度でも使えていたんだぞ!?
それなら、みんな、誰でも、どんな奴でも使えるはずだろう!?」
「ナムゥ大陸でも、そんな人間はいないと思います……」
「待て、それじゃあ待て!!
もしオレが死んでも、蘇生が出来ないっていうんじゃないだろうな!?」
「蘇生は結界が張られたダンジョン内なら比較的簡単ですが……」
「まさか、まさか……」
「その外となると大賢者でも……無理です」
ボーパルバニーは、男爵の頭に前歯をあてがった。
表面をカリッとする音が、頭蓋骨を通して聞こえてくる。
「うわあああああ!? 嘘だと言え止めろ止めろ止めろ止めてくれえええ!!」
男爵はしばらく生き続けた。
表皮がベロンと剥がれ、カリカリと少しずつ頭蓋骨を削られて。
そこで悟った。
首をはねるのは慈悲だと。
意識を保ったまま、頭蓋骨に穴を開けられていく恐怖。
「これも全部エルムのせいだぁぁぁああ!!
エルムエルムエルムエルムエルムエルムエルムエルムエルムエルムエル……」
中からトロリとした液が溢れた。
ボーパルバニーはそれをペロペロ舐めながら、メインディッシュである塊に前歯をツプリと当てる。
「エゥッムゥッ、あっ、える、む、えるむ……」
男爵はろれつが回らなくなり、幻覚が見え始め、幻聴が聞こえだし、ありもしない虫が這うような感覚に襲われ、脳の機能が食べられ壊され。
──生きながら無残に死んでいった。
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