竜装騎士、商人にS級防具屋を見せる

 エルムは、材料として切り取ってしまった山に植樹をした帰り。

 森の中で商人の馬車と遭遇した。


「失礼、白銀鎧のキミはこの土地の者かい?」


 馬車に乗っていた商人の問い掛けに、うなづくエルム。


「ええ、まぁ。数日前に移住してきました」


「この近くにあるらしいボリス村という場所に案内して欲しいんだ。

 なにやら風の噂でSランク防具を取り扱っていると聞いてね。

 まぁ、そんなレアアイテムが本当にあるとは思っていないが、商人としては……一応ね」


「丁度、俺もボリス村に帰るところなので、一緒に行きましょうか」


「おぉ! 助かる! どれ、いくらか謝礼を渡そう……」


「いりませんよ、困った時はお互い様ですから」


 商人は感心した。


「ほう、今時めずらしい若者だ……」


 エルムは不老不死なので若者ではないのだが、外見は若いのでこういう扱われ方も慣れていた。

 馬車に同乗し、ウリコが店番を務める防具屋まで向かうのであった。




 ──目的地の防具屋にたどり着いた商人は、驚愕に目を見開いた。


「こ、これはSランク装備のマジックメイルに、パワーガントレット!?

 それに他にもまだまだあるぞ……どうなっているんだ……」


 店内の木製人形に飾り付けられた煌びやかな装備品。

 商人は鑑定眼を持っていたので、それが本物だとわかった。


「ありえない……ありえないぞ……。

 帝都の皇帝がひいきにしている名店でも、こんなに取りそろえられているところはない……」


「あ、あの~……値段がすごく微妙ですが、ご購入なさいますか……?」


 カウンターのウリコは顔面蒼白だった。

 Sランク装備なんて最近まで見たことがなく、すごいとは知っていたが、想像以上のリアクションをされてしまったためだ。

 しかも、本人としてはかなり強気に値段をつけてしまったと反省している。

 数年は買い手がつかないと思っていた。


「買う! ぜひ買わせてもらう! 微妙どころではない安さだ!

 それにきちんと手入れもされているし、どれもこれもが本物!

 なんて良心的な店なんだ!」


「は、はい! ご購入ありがとうございましゅ!?」


 ウリコは思わずビビって噛んでしまった。

 本人は自覚していないのだが、ウリコの持つ鑑定眼はかなり性能が高いのである。

 一流の商人でSランクの鑑定ができれば御の字、それをウリコはSSSランクまで鑑定できるのだ。

 それゆえに偽物を扱わずに済む。

 商売とは信用を売り買いしているようなものである。


「それにしてもこれは本当にすごいな……誰がどこから取ってきたんだ……。

 良ければ教えて欲しい、いや、金を払ってもいい!

 もちろん他言無用だ! 呪いの契約書でしばってもいいぞ!」


「ひぇっ!? そんなにですか!?」


「そんなにだ! これは国が動くレベルだぞ!」


「え、ええと……では、適切な場所に宣伝をしてくださるのなら、教えても……」


「なに!? それだけでいいのか!?」


 実はウリコは、エルムから対処法を教えられていただけだったのだ。

 食いついてくる商人がきたら、こう言えばいいと。


「村で発見されたダンジョンでドロップした品々です。ただ、敵にSランクが混じっているので、攻略法が出るまではそれなりに強い方でなければ危ないのです」


 エルムがダンジョンの吹きだまりを掃除して、一層内部の敵はボスがSランクモンスターで、他はザコとなった。

 だが、エルム以外にとってはSランクモンスター単体でもかなりきついのだ。

 ここに初心者が一旗揚げてやろうと乗り込んできたら目も当てられない。


「わかった、それなりの相手に宣伝するとしよう。

 Sランク装備がドロップするのなら、こちらも仕入れて帝都での販売で利益が出せる」


 狡猾だが、誠実そうな商人は店をあとにした。

 もちろんSランク装備のすべてをお買い上げになってだ。

 防具屋に残されたのはエルムとウリコの二人。


「え、エルムさん! 売れました! 売れましたよ!

 なんか金貨の重みで店に穴が空きそうです!」


「うん、よかった。また明日仕入れてこよう。

 あのダンジョン、一日一層しか攻略できない仕組みで、一気に最下層までは無理だからな」


「はい! エルムさん! 本当にありがとうございました! あ、それでお礼としてお金を渡し──」


「いや、それは店の改修費用に当てるといい」


「お店の改修? なぜですか?」


 エルムの飛躍しすぎた発想に、ウリコは頭がおいつかず疑問符を浮かべていた。


「次にやってくる冒険者が呼び水となれば、どんどん人が集まってくるからな。

 店を大きくしておくんだ。

 村にない宿屋を拡張してもいいかもしれない」


「わ、わかりました!」


 そのエルムの読み通り、帝都に戻った商人はある人物に話を持ちかけていた。

 誰よりも強いと謳われ、正義の人であり、万人が憧れる存在──勇者。

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