竜装騎士、お礼にダンジョンのSランク装備をプレゼント

「さてと、ダンジョンに行くか」


 昼頃。

 エルムはベッドなどの家具を作り終えたあと、健康のための運動というテンションでダンジョンに向かった。


『なんでダンジョンなんかに行くんだい、エルム?』


「バハさん、それは村のためになりそうだからだよ」


 念話で話しかけてきている相棒に対して、エルムは柔和な表情。


『でも……村が下手に発展しちゃったら、のんびり暮らせなくなるかもしれないし、それにエルムが強すぎる人間だと知られちゃったら……。

 王国のときみたいにまた……利用されて……』


「そうなるかもしれない。でも、それでも、あの子へのお礼はしたいからね」


『お礼って……ウリコは、ただ村に案内してくれただけなのに?』


「親切にしてくれたことへのお礼は、いくらあってもいいものさ」


 エルムはダンジョンの前に立っていた。

 入り口が階段状になっていて、地面の中に潜って行っている。

 ダンジョンにはいくつかタイプがあるのだが、これは地下迷宮に続くタイプらしい。


『あー、そのダンジョン。変な魔力を感じる。

 たぶん、エルムが邪神を倒したのがキッカケで開いたダンジョンだね』


「へぇ、そんな仕掛けで開くダンジョンもあるのか。

 それなら、バハさんが倒されたときも、どこかでダンジョンが開くのか?」


『さぁね? ただボクを倒せるのはエルムくらいなもんさ。

 主神ですら封印がやっとだろうね』


「それなら誰もバハさんを倒せないな、俺がバハさんを攻撃するのはありえない」


『好物の奪い合いのときは殴り合った気がするけど?』


 そんな冗談を話しつつ、エルムはダンジョンの階段を降りて、その大きな扉を開けた。

 中は石のような素材で壁面が形作られているが、これはただの石ではなく、魔力が通っていて強度が上げられているようだ。

 出入り口にも結界がほどこされていて、中のモンスターが出られないようになっている。


 なぜこの世界にダンジョンという不思議なものがあるのかというと、それは鍛錬用だったり、上位種族の暇つぶしだったりする。

 餌としてクリア報酬もそれなりに用意されている場合が多い。


「さてと、どんな敵かなっと……」


 魔力の光で照らされているダンジョン内は迷路状になっていて、長く使われていなかったために増えすぎたモンスターたちが一斉に集まってきた。

 ダンジョンは一定期間掃除をしないと、数が増えたり、強力なモンスターの吹きだまりが発生してしまうのだ。


「Sランクモンスターか。数が多いな……」


 Sランクモンスターは、ほぼ冒険者個人では対処できない強さである。

 一流の冒険者がパーティーを組んでやっと対処できるかどうか。

 だが、それも一匹相手である。

 複数となると、対処の難易度は飛躍的に上がってくる。


『まぁ、このくらいの敵規模じゃ“赤”や“黒”を使う必要もないね。

 せいぜい、楽をするために“紫”かな?』


「そうだな、槍を振り回して一匹一匹潰すのは面倒だ。

 ……一気にやるか」


 エルムは白銀の鎧に魔力を通した。

 すると瞬時に“白の万象神凱ウィルムメイル”は変化を始める。

 硬質な鎧から、フワリとした布装備に。

 全体の色は紫、頭には折れ曲がった三角帽子、肩には短いマント、身体は儀式用らしき紋様が刻まれたローブに包まれていた。

 それは魔法使いのような格好。


 エルムは“紫の魔導法衣マジックモード”にチェンジしたのだ。

 これは全属性、極大魔法まで放てるようになる状態。

 蘇生から転移まで幅広く、汎用性がある能力だ。

 問題としては、エルム自身が魔法を得意分野ではないと思っているため、なんとなく気分的に使いたがらないことが多い程度だろうか。


「呪文を唱えるのが面倒だから、50ワードの詠唱破棄だ──“煉獄プルガトリウム”!」


 その呪文は火の極大魔法。

 上級存在さえ一瞬にして焼き尽くす、浄化の炎。

 網目状に拡がるダンジョンフロアに広がり、灼熱の世界を構築する。

 そこではエルム以外の存在すべてが、浄化されるべき弱者となる。

 Sランクモンスター達は断末魔をあげることさえできず、アリの巣を処分するかのように退治された。


「ふぅ、俺一人だからできる物ぐさ技だな」


 杖のように持っていた神槍をブンッと振るうと、瞬時に“煉獄プルガトリウム”は解除された。

 残ったのは大量の魔石と宝箱。




* * * * * * * *




 エルムは防具屋に来ていた。


「ラシャッセー! ボリス村の防具屋へようこそー!

 ……って、エルムさんじゃないですか」


「なんか変な挨拶だな……」


「えぇ、変ですか……!? 都会じゃこんな省略された挨拶が流行ってるって聞きましたよ」


 偏った都会知識で出迎えてくれたのは、カウンター席に座るウリコだった。

 店内は低ランクの防具が置かれていて、いかにも売れない防具屋といった感じだったが、しっかりとピカピカに手入れがされてるのがわかり好感が持てる。


「ウリコ、ここは買い取りをやっているか?」


「あ、はい。ある程度なら……というかお店のお金が足りるのなら……」


「じゃあ、この防具を買い取ってくれ」


 エルムはダンジョンで手に入れた防具を次々と取りだして、カウンターの上に載せていく。

 それはもう載りきらないほどに載せていく。


「こ、これはマジックメイルに、パワーガントレット……まだまだある!?

 うわっ、どれもSランク防具じゃないですか!? なんですかこれッ!?」


「ダンジョンで取ってきた」


「い、いやいやいや……そんなまさか……超高難易度のダンジョンですよアレ。

 でも、本当だとしても……こんなすごいSランク防具を買い取れるお金が……店には……無いです……」


 防具屋自体を売っても、一つも買えないくらいの市場価格。

 震え声のウリコに、エルムは屈託なく笑った。


「対価はすでにもらっている」


「え?」


「この村に案内してくれた礼だ。受け取ってくれ」


「ほ、本当にいいんですか!?」


「ああ、本当だ」


「……エルムさん、まるであなたは救世主か神様のようです!

 これで防具屋は──いえ、村は救われるかもしれません!」


 エルムは少しだけ照れくさかったが、大喜びしてくれているウリコを見て満足した。

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