看板娘、誰も来ない防具屋で夢を見る

 私の名前はウリコ! ウリコ・ボグヤです!

 防具屋の娘だからって、親に死ぬほど安易な名前を付けられてしまったけど、その程度ではくじけない……!

 そんな私は今日も元気に店番をしています。


「いらっしゃいませー!

 んん……もうちょっとフレンドリーな方がいいかな……?

 ラシャッセー!」


 今日もお客さんがこないので、一人で挨拶の練習をしている。

 なぜお客さんがこないのか?

 考えてもみてください。

 こんな田舎の小さな村で防具を買いに来るお客なんているはずがないんです。

 どうやって生計を立てているかというと、自警団や町に業務用としておろしている感じです……。

 悲しいかな、野生の動物や弱いモンスターを加工した最底辺の革防具を……。


 こちとら防具屋の娘に産まれたからには、もっとS級の輝く防具とかをお客さんに売りたいです!

 それも少し前は、そうなりそうかなーという希望もあったのですが──。


「はぁ……ダンジョンかぁ……」


 私は思わず溜め息を吐いてしまう。

 村で発見されたダンジョンに希望を持ってしまったのが間違いだったのだ。

 最初は誰も彼もが浮かれて、お祭り騒ぎだった。

 この世界の常識では、ダンジョンというのは温泉とか、そういう資源的な扱い。

 その周囲は賑わい、村から町に発展するとかもよくあることなのだ。


 だけど……現実は残酷だった。

 調査でダンジョンに潜った帝国兵士たちが、数分で戻ってきた。

 ボロボロになって……。

 中のモンスターが強すぎたのだ。

 どうやら話ではSランクモンスター。

 しかも複数いるという……。

 領主の辺境伯様も諦めろと言ってきた。


 これでは誰も潜ろうとはしない。

 村の希望は撃ち砕かれ、絶望へと変わった。

 ヘタに希望を持ってしまって、高いところから、一気にグシャッと落とされた結果になったのだ。

 それから村人たちはひねくれ、排他的な態度を加速させた。

 あのダンジョンが使えたら、また結果は変わったのだろうが、誰も攻略ができないダンジョンなんて冒険者で賑わうはずもない。


 私の父親も、ダンジョンから仕入れができたらと期待していたのだが、今では希望を失って酒浸りだ。

 日銭を稼ぐために革防具を作り、あとはもう店先には出ない。

 私もカウンターにいるだけで、ここ最近は何も売れていない。

 村全体もそんな感じだ。

 町に移住する人間も増えている。

 もう、いつ廃村になるかもわからない。

 私も……辺境伯様の奉公に来いという誘いに乗るしか無いのだろうか……。


「こんな村に移住したいって、エルムさんは本当に変わり者だよねぇ……」


 久しぶりに見た、人の笑顔だったかもしれない。

 彼といると楽しいし、世界に希望はあるのかもと思ってしまう。

 でも、私は知っている。

 希望を持ってしまうと、またきっとつらいことになるのだと。


「どうせエルムさんも、村に嫌気が差して出て行っちゃうよね……」


 決して攻略できないダンジョン。

 廃村寸前のボリス村。

 八方ふさがりの日々。


「ラシャッセー! ボリス村の防具屋へようこそー!」


 それでも私は、お客さんが来るのを夢見て……ここで待っている。

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