幕間1 下請け不在の危機に気付き始めた王国
ナムゥ大陸。
ここはエルムが元いた場所である。
その王都にある城では、連日連夜の舞踏会が行われていた。
高級な衣服と貴金属を身に纏う王侯貴族達が集まり、豪華な酒と食事を消費する。
まさに絢爛豪華。
その舞踏会の会場に女性が走り込んできた。
「エルム、誰かエルムを知りませんか!? 家にいないの!!」
「おぉ、姫様……」
その少女は王国の姫──スタルカだった。
気品溢れる美しい顔に、真っ白いドレスに包まれる豊満で魅惑的な身体。
男性なら、麗しの美女として誰しもが振り返るだろう。
スタルカ姫の前でニヤニヤする男爵も、その美貌を狙う一人であった。
「姫様は、エルムなんて小汚い下請けの竜装騎士をお捜しなのですか?
どこかで馬車馬のようにあくせく働いているか、モンスターに倒されて、のたれ死んだのではないですか?」
「そんなことは……ないはずです。
彼は家から出てきて、そのまま海の方へと走っていってしまって……帰ってこないのです……。
わたくし、心配で……」
「ああ、あの臭くて狭い、エルムにお似合いのボロ小屋ですか。
私もエルムに下請けを回すときに、使者を出していましたな……」
スタルカ姫の話を聞く男爵は、少しだけ困ったような顔をしていた。
彼はSSSランクの称号を金で買っていた一人なのだ。
つまり──。
「参りましたな……。実を言うと、SSSランク維持のためのクエストをエルムに任せていたのです。
まったく、これだから下請けの竜装騎士なんて信用するんじゃなかった……。
最初から使うんじゃなかったよ」
男爵が依頼していたのは、圧政に反乱を起こしそうな民間組織の鎮圧である。
それを報酬金貨50枚で受けて、エルムには中抜きで5割にしていると言って、銀貨を1枚だけ渡していたのだ。
「まぁ、下請けの竜装騎士一人がいなくなったところで、他にSSSランククエストを下請けしてくれる者は沢山いますからな」
「そ、そうなのですか……」
「おっと、丁度良い。子爵様、そちらのSSSランククエストの下請けを紹介して頂けないでしょうか?」
「……ん、ああ。実は──」
男爵から子爵へ。
「私もエルムを下請けとして使っていた……」
「は、はは……偶然ですな。
いやはや、あいつもやりますな。二件もSSSランククエストを掛け持ちとは」
「ほ、他を探さねばならぬな……。
あ、伯爵様! 伯爵様! 実は下請けを紹介して欲しくて──」
子爵から伯爵へ。
「……こっちもエルムを使っていた」
『は?』
話が拡がり、会場中がどよめきだした。
その場にいる王侯貴族の数百人、ほぼ全員がSSSランク称号を金で買っていて、エルム一人に下請けを任せていたのだ。
「お、おい……災害級のモンスターの討伐はどうするんだよ……。
オレの領地がやばいぞ……。素材取れると思ってちょっかい出しちまった!?」
「こっちだって領地拡大で異種族の浄化をしていたところだ!?
エルムがいないと、逆に攻め込まれて……」
その日からナムゥ大陸でエルムを捜索したが、別大陸であるノガードで村人をしているので当然のように見つからなかった。
王国に自業自得の波乱が訪れ始めた。
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