竜装騎士、家をクラフトする
エルムは再び“緑の創作業着クラフトモード”にチェンジしていた。
土地を手に入れたので、今度は家を作るためである。
このモードは薬品調合だけでなく、“作る”という事柄にかけては大体が可能だ。
料理から自立式ゴーレムまで──、そして今は家の建築に取りかかろうとしている。
さて、まずは材料だ。
伝説装備の“零式神槍グングニル”の召喚性能で、家の建材を取りだして建築をしようとも思ったのだが、せっかくなので地元の物を使うことにした。
地産地消の精神。
「ここの土はレンガに適してそうだなー」
村付近の山。
エルムはそこに立って、地面の成分分析をしていた。
それを終えると、神槍を構えて、目にも止まらぬ速さで振り回す。
山の四分の一ほどが切り取られ、ふわりと不思議な力で浮き上がってから、細かなブロック状にクラフトされる。
石、木なども一瞬で切り刻み、素材として神槍の中のマジックボックスにストックしておく。
もっとも、わかりやすくマジックボックスと名称を付けているだけで、これは逆召喚効果による転移なので──。
「うわっぷ!
エルム……、ボクが昼寝してるところに山を降らせないでよ……」
「バハさん、ごめん」
山ブロックの転移先である、竜の里で寝ていた相棒の竜──バハムート十三世が土だらけで抗議をしてきているのが、少しだけ召喚光の先で見えた。
「さてと、材料は揃ったな。あとは村に戻って建築するだけだ」
エルムはヒョイッとジャンプ。
一瞬で弾丸のように高度を上げて、雲を突き抜け、瞬時に村に着地。
同時に認識阻害の魔法も展開していた。
人類種が使う低ランクの魔術ではなく、竜種が使う古の魔法なので見破られはしないだろう。
これで家を建築するところを見られなくて済む。
「まずはレンガ作りからだな」
借りた土地の前で、山の土を取り出す。
土の成分変化を最小限に抑えて、レンガに適したモノにする。
そして強度を増すために──。
「竜の墓場から取ってきた竜骨を砕いて入れてっと……」
『エルム、自分の骨を入れた方が強度あがるんじゃない?』
「バハさん、それは却下だ。人間の骨より、竜の骨の方がカッコイイ」
『はぁ……これだから竜フェチは……』
相棒であるバハムート十三世は色んな意味で規格外の竜なので、離れていても、こうやってちょいちょい念話ツッコミを入れてくる。
「さてと、あとは長方形に固めて、乾燥させて、焼成で……よし、レンガ完成!
うは~、ほれぼれするような土竜の肌のような色だ!」
『エルムぅ~。そんな面倒くさい事をせずに、最初から家を完成品として作っちゃえばいいんじゃない~?』
「ロマンだよ、ロマン。家を作るっていうのは、人間にとってワクワクするものなのさ」
『ボク、竜の巣は簡易的なものが多いから、その感覚わからないな~……』
バハムート十三世はアクビを一つ、やる気なさげにフワ~アと吐き出した。
その念話を聞いてエルムは苦笑い。
否定ではないとわかっているので、価値観の違いをお互いに認識して、楽しむ間柄なのだ。
「次は、これをシンプルに小口積みしてっと……」
数百個単位でできた竜骨レンガを使って、家を形作っていく。
頭の中にある設計図は、おとぎ話に出てくるようなレンガの家だ。
魔狼が体当たりしても、火魔術を放ってきても、S級のスキルを使ってきても耐えられる。
『エルム、防犯はどうするの? 大丈夫?
ボク考えたんだけど、許可してない人間が半径一キロに入ってきたら竜軍団が殲滅しにいく仕組みとかはどうかな?』
「バハさん、竜の縄張りじゃないんだから……」
人と竜の争いは、こういう些細な感覚の違いで起きるのだろう。
そんなこんなで──エルムの家が完成した。
頑丈すぎる竜骨レンガのガッシリした外観、中には暖炉があり、キッチンがあり、断熱もしっかりしているので快適空間。
家具なども少しずつ作っていこうと決めた。
「うん、家の中もなかなか良い感じだ」
「そうだねー、ボクも気に入ったよ」
村人に見つかると驚かれるという理由で表に出ていなかった相棒──バハムート十三世がひょっこりと顔を覗かせていた。
家の中に入るため、コロコロと丸っこくて可愛い子竜の姿になっている。
ちなみに鎧の加護と連動しているために、エルムが“緑”モードの今は、バハムート十三世も緑色の外見に変化している。
「やっとエルムと二人っきりになれたよ」
「あ~、ごめんなバハさん」
子竜はエルムにピョンと体当たりするようにぶつかり、エルムもそれをしっかりと抱き留める。
「よし、これで俺も村の住人だ!
新天地での生活がついに始まる!
──って、バハさん顔をペロペロ舐めすぎ、こら、やめ、やめぇぇ……」
数時間後──。
認識阻害の魔法が解けたあと、当然のように村人たちは、突如あらわれた立派すぎる家に度肝を抜かれたのは言うまでもない。
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